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言っていい事と悪い事
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万事屋、スナックお登勢でお世話になってもう3ヶ月になる。こんなに長居するつもりはなかったのだけれど、お金が貯まらない。何故なら滞納していた家賃に回されているからだった。銀時にその趣旨を伝えた事があった主人公の名前。
「あの、坂田。家賃滞納が私のお給料で賄われてるんだが入院費は先延ばしになりそうなんだ。なんかおかしくないか?」
「んァ?そーか?」
そう言うとボリボリと頭を掻きむしり金はいつでもいいぞと言う銀時。なんか違うんだけどなぁと頭を捻る主人公の名前。別にヒモにしてる訳ではない。ただ、理由を付けないとここに留まってくれないと、銀時はそう思っていた。
「まぁ、いい。行ってきます。」
「おー、頑張れよ」
玄関を出てスナックお登勢に向かった。天井をぼけーっと見つめると神楽が銀時の顔を覗き込んできた。
「銀ちゃん、今日ババアの所でご飯食べたいネ」
「なんでだよ」
「主人公の名前の手料理食べれるネ!私、まだ食べた事ないアル」
そう言われれば、掃除や洗濯など新八と協力してやっている所を何度も目撃しているが飯を食ってる主人公の名前も、作っている主人公の名前も見た事がない。いつもあいつは夜遅くに戻ってくるから起きるのも遅いしきっとまかない飯が出ているのだろうと思った。
「…酒飲みてェから行くか」
「ヒャッホーイ!!!」
***
「いらっしゃ〜い、、ってあんた達かい」
「天パト大食ライハ帰リナ!」
そう言いながらもおしぼりを出すキャサリンを横目にカウンターに座る銀時と神楽。厨房の方を見ると割烹着がチラチラと見える。
「私、ウーロン茶と唐揚げ定食がいいネ!お肉大盛りでお願いヨ!」
「ビール。それと〜、おすすめは?」
「主人公の名前、今日のイチオシはなんだったけねぇ」
厨房に確認しに行くお登勢を目線で追いかけ、暖簾を潜る時に隙間から見ようとしたらキャサリンがビールとウーロン茶を持ってきた
「過保護モイイ加減ニシロヨ」
「そーじゃねェよ!」
「銀ちゃんまさかババアに恋したアルカ!?」
「それは銀さんが直毛になるくらい有り得ません。」
ビールをグイッと飲むとそれを見た神楽もウーロン茶を飲んだ。
「揚げ出し豆腐だと。食べるかい?」
「おぉ、頼まァ」
***
店内が忙しくなる中、追加で冷酒を頼んでおいて良かったと、お猪口に注いでいると厨房から台をカラカラと押した主人公の名前が出てきた。
「お待たせしました。」
左手で銀時の前に置くと神楽の方にも定食を置く。
「わぁ!美味そうネ!ちゃんとタルタルソースも付いてるアル!」
「即席で作ったから味はどうかな…だが、唐揚げは少し多めに盛っておいた」
小声で、お登勢さんには内緒と神楽に耳打ちするとニコッと笑って嬉しそうに食べ始める。それを横目に揚げ出し豆腐を口に運ぶとじゅわっと出汁が広がり目を丸くする。
「うめェ…」
「…よかった」
銀時の反応に嬉しそうに微笑むと小皿に盛った唐揚げを置いた。
「よかったら食べてみてくれ。」
そう言うと台を押し、厨房へ消えていった。
「銀ちゃん、揚げ出し豆腐一口頂戴ヨ」
「てめェの一口は一口じゃねェだろ」
「ケチ!甲斐性なし!主人公の名前の手料理にうつつ抜かしてんじゃねェーよ天パが!」
「うるせェ」
唐揚げをポイッと口に入れると、ニンニクが効いたパンチのある味が口内を巡る。
「銀ちゃん胃袋掴まれたアルナ。」
米粒を口の周りに付けた神楽を睨み、食ったらさっさと帰れと言うとお猪口に入ってる酒を飲み干した。
店内が賑わう中、次から次へと料理が出来ていくが生憎お登勢もキャサリンも接客で忙しいらしく、運ばれない料理を見て厨房から顔を出すと客席を見渡しおずおずと台を押して出てくる。
「なぁ、俺がやろうか?」
「いや、坂田は飲んでて構わない。今日はお客さんだからな」
ありがとうと微笑むと次々に提供していく。すると銀時より少し離れたカウンターの席でなにやら主人公の名前が酒癖の悪そうなおやじに捕まっていた。
「おい、ねぇちゃん!かたわとは珍しいのぅ」
「はぁ、どうも」
「右手が無ェなんて夜のコッチはどうするんだよ?やっぱり左手か?」
「ご想像にお任せします、」
顔を歪めながら立ち去ろうとする主人公の名前の腕を掴むと更に輪をかけて話しかける。
「かたわの癖にそんな態度取っていいと思ってんのかァ?さっき皿割ってたろ?どうせこの店にもかたわなんて用無しなんだァ。使い物にならなくてその変の吉原に売られるに違いねェ。見世物小屋と称して格安でな!」
ゲラゲラと笑うおやじを見るなりぴくっと主人公の名前の片眉が上に上がる。言い返したいが、相手はお客だ、我慢に我慢を重ねると唇を噛み締めていたのか血が滲んでいた。
「おい、言い返えさねェって事はもしかして後々そうなるってこったァな?」
主人公の名前が腕を払い除けようとした時、銀時がおやじの首ったまを掴み戸を開けて外に投げた。物凄い音と、通行人の悲鳴でお登勢がハッと外見る。
「おい、ジジイ。てめェがどんな人生歩んで来たか知らねェがよ、少なくともてめェはクソみたいな人生しか歩んでねェんだ!あいつの…主人公の名前の何が分かんだよ!!!」
銀時はおやじに馬乗りになり殴り掛かろうとする。それをお登勢は止めることもなく紫煙をスゥ…と吐いていた。
急いで外に出る主人公の名前は銀時を止めようと羽交い締めにする。
「坂田!もういいから!坂田!!!」
「うるせェ!こいつだけは許せねェんだ!!」
「坂田…!っ、銀時!いい加減にしろ!!」
銀時の肩をグイッと掴みこちらに顔を向けると右腕で顔を叩く。
「っ…痛てェ」
「おやじさん、その、すまなかった。」
「ちっ…このクソ女。かたわはろくでもねェんだ」
五千円をお登勢に向かい投げ捨て立ち上がれば夜の街へ消えていった。
***
閉店後、お登勢に平謝りをする主人公の名前がいた。
「お登勢さん、すみませんでした…」
「あー、いいんだよ別に。前から困ってた客だ。酒癖が悪くてねぇ。あんたをダシに使っちゃったみたいになったけど、もうあいつも来ないだろう」
だから頭を上げてくれと主人公の名前の頭をぽんぽんと叩く。それを見たキャサリンは何も言うこともなくテーブルを片付けていた。
「…首、ですか?」
顔を上げるなり眉間にシワを寄せた主人公の名前から出た言葉に目を丸くしタバコの煙を吐いた
「何言ってんだ。一生首になんかしないし死ぬまで働いて貰うよ…。悪かったね」
「そーだ!ババア共が律儀に接客なんかしてっから主人公の名前が散々な目にあったじゃねェか」
酒が入って声が大きくなってる銀時。それを聞いたキャサリンにうるさいと言われ睨み付けていた。
「今日はもう帰んな。明日は店も休みだからたまにはゆっくりしてな。そんであのバカを連れて帰っておくれ」
「…ありがとうございます。お疲れ様でした。」
頭を下げると銀時を立ち上がらせ外に出るなり階段を上がる。登りきった所で銀時が動こうとしない。
「おい、大丈夫か?」
「さっき、銀時って呼んだよな」
「そ、それは坂田が落ち着いてくれないからつい…」
「なんで、俺だけいつも名前で呼んでくれねぇんだよ。なんで呼んでくれなかったんだよ」
主人公の名前を壁に追い詰め耳元で囁く。近いと右腕と左手で押しのけようとするが、ビクともしない。
「近い…っ」
「名前で呼ぶって言ったら退いてやる」
「わ、わかった、わかったから!」
「…じゃあ今からな?」
すると、早く言えと言わんばかりに見つめてくる。いつもより目が座っていてアルコールの匂いを漂わせる銀時を見ると少し胸が高鳴った。
「っ…ぎ、ぎ、銀時…」
「よく出来ました」
銀時はぐしゃぐしゃと主人公の名前の頭を撫でると、右腕に軽く触れた。触れている銀時を見ると頬に光るものがあった。それをに冷えきった左手でぬぐい取り、くるくるの柔らかい天然パーマの頭を優しく撫でた。