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爪は切っておいた方がいい
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「終わったぞ〜」
トンカチやベニヤ板を持って依頼人のお文に近寄る銀時。修繕工事も1日掛りかと思っていたのだが、街外れにある呉服屋の屋根の修繕だった為すぐに終わった。
「すまないねぇ、雨漏りされると着物が台無しになっまうんだ」
「商売道具がなかったらやってけねェもんな」
「お昼はまだだろう、食べて帰るかい?」
「いや、持ってきたからいらねェよ。」
「あら、そうかい」
お文が上がっていけと言うもんだから、スクーターのメットインからお弁当を持って行き客間に上がる。お茶とおしぼり、封筒を奥から文が持ってきた
「愛妻弁当かい?」
「あ、あ、!愛妻弁当なわけねぇだろ!!」
顔を真っ赤にしてお文に半ば照れ隠しの如く怒鳴りつけると風呂敷を解く。すると軽い音が風呂敷の中からする。広げてみると紙切れが入っており、達筆な文字で『お疲れ様。怪我だけはしないように。』と書かれた手紙だった。お文がニヤニヤしながら銀時を見ると財布を取り出し手紙をしまい、報酬金の入った封筒を懐に入れる。
「なんだい、銀さんも案外律儀だねぇ。うちの旦那はすぐに捨ててたもんさ」
「俺とばぁさんの旦那を一緒にすんなよ」
ほほうと、意味深の笑みで銀時を見るお文。それに舌打ちをし再び弁当に目を向けると厚焼き玉子や、チーズハンバーグなど体力が付きそうなものばかり入っていた。野菜ももれなく入っておりバランスの取れたいい食事だ。下の段にはぎっしりと白米が入っていて梅干し、刻みたくあんが端っこに入ってた。
「…いただきます」
満足そうに食べる銀時をみるお文はクスリと笑い、再び針仕事を始めた。
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「邪魔したなァ。またなんかあったら呼んでくれよ」
そう言って店を出ようとするとお文が呼び止めた。やり残した事があるのかと再び店に入ると長財布位の麻の袋を渡した。
「良かったら、お嫁さんに渡してくれやしないかね」
嫁でもねぇよ、と麻の袋を覗き込むと、浅葱色と黒の江戸打紐に硝子細工で出来た桔梗の花の飾りがついてる簪が入っていた。
「これ…」
「花言葉は『永遠の愛、誠実、清楚、従順』西洋では『友人の帰りを待つ』だ、そうだ。」
「は、は、ははは、花言葉なんて興味無いけどね!!!ありがたく頂戴するよ!!!ははは!!」
礼を言うと店を再び出て、顔を赤くしながら店を出る。麻の袋をメットインに入れ、ヘルメットを被る。座席に座り鍵を入れようとしたとき、嗅ぎ覚えのある煙が鼻をかすめた。
「よォ、銀時…」
傘を深く被った女物とでも言える着流しに身を包む、仲違いした男がそこにいた
「高杉…っ」
「主人公の名前がそっちでお世話になってるみたいじゃァねェか」
ふぅ…と煙管から口を離し煙を吐く。主人公の名前の名前が高杉の口から出ると眉を顰める。
「だからなんだってんだよ…」
「主人公の名前から話は聞いたのか」
「なんの事だよ…」
銀時の言葉に喉の奥でくつくつと笑う高杉。それに腹立てたのかヘルメットを取り木刀に手を掛ける。
「まァ、待てって。今日は俺の丸腰だぜ?丸腰相手に殺り合おうなんざァ、武士として失格だな。」
両手をヒラヒラと銀時に向けると、竹刀から手を離す。着いてこいと高杉がボソリと呟くと舌打ちをし、文にスクーターを置いて行く事を伝えた。
***
呉服屋から少し離れた場所にある工場に高杉は中に入っていった。それを見て銀時も中に入る。
「銀時、主人公の名前の事をどこまで知ってんだ」
「…昔に妾の子とだけ聞いた事がある」
何も知らないんだなとの目線を向けられる。それに苛立ちを覚えた銀時。それを上回るかように畳み掛ける高杉。
「あいつが痩せ細った身体で行き倒れたか考えた事あるか?」
「それは…」
煙管を握る手に力が込められる。すると懐から写真を1枚取り出し銀時に見せる。
「なんだよ、これ…」
そこには左肩には見覚えのある百合の焼印、そして尻の頬には百合の刺青が彫られている女の姿だった。
ハッと目を見開くと高杉を見る。
「これ…まさか、」
「そのまさか、だ。俺達がうつつを抜かしてる間に天導衆が天人に売り飛ばした。これで、二回目だ…」
「二回目だァ?」
信じ難い言葉に平然を保とうとするが声が震え、指先が震える。握る拳には血が滲んでいた。