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食欲と性欲は紙一重
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本能のままに腹ごしらえが終わると、天人の死体を踏みながら割れた箪笥を物色する。風呂敷を2.3枚掴むと、その中に着物を入れる。放り投げられた小判をかき集め、家の中にある高価なものをひとしきり風呂敷に詰めた。草履を履いて台所に向かうと釜戸に火を付けて、包丁で自分の肌襦袢の裾を切って破き火をつける。思い残すことは何も無い。そう思い畳に火を放った。
急いで先程まとめた荷物を持ち刀を背負い家を出ると、燃え上がる家を振り返る事もせず一目散に松下村塾へ向かった。
***
松下村塾に来た頃にはうっすらと空が明るくなっていた。まだ松陽も起きていないし、高杉も銀時も桂も寝ているであろう。はぁ、とため息をつくと血塗れの肌襦袢を目にした。着替えるのを忘れていた。このまま松陽にあったら何を言われるか分からない。が、頼れるのはここしかない。甘えるべきか、それともどこか遠くへ行くか。
門の前で座り込み暫く考え込んでいると眠気が襲ってきた。まずいと思い立ち上がろうとするが、脳味噌が後に引っ張られる感覚を覚えそのまま瞼を閉じた。
ビクッと身体を揺らし瞼を開ける。するとそこには高杉が覗き込むように主人公の名前を見ていた。
「あれ、晋助…なんでここに…」
「やっと起きたか」
身体を起こすと左肩に違和感を感じた。目を向けると包帯が巻いてあり、衣服も綺麗になっている。そうだ…あのまま寝ちゃったんだと襖に目を向けると、松陽が現れた。
「主人公の名前、何があったかお話を聞かせてくれませんか?」
「…っ」
脳裏に先程自分が犯した残虐な出来事が浮かび、寒気がした。本当にあれは私だったのか。震える手を高杉がそっと握り、ゆっくりでいいんだ、ぼそりと呟いた。
感情のまま、あった事を話した。
妾の子、父や義母を殺し天人と戦った事、天人に売られそうになった事や肩の焼印。家に火を放ったこと。
気が付いたら大粒の涙が頬を伝っていた。
妾の子が、更に女衒されるとは…と奥歯を噛み締めた松陽はよく頑張りました、と頭を撫でた。
すると主人公の名前は頭を畳に擦り付けてここに暫く身を置いてもらえるように悲願した。
「お願いします…、少しの間でいいんです!お願いします!」
「勿論ですよ」
以外にも早く優しい声が聞こえると顔を上げ、松陽に飛びついた。女の子だから、と配慮してくれたらしく4畳半の小さい部屋を貸してもらった。家から持ってきた小判を全て松陽に渡そうと風呂敷を渡すと要らないと言われてしまった。
「それは主人公の名前が困った時に使いなさい。」
ぽんと頭を撫でると部屋から出て行った。とりあえず荷物を整理しようとバタバタしていると襖を叩く音がした。
「俺だ…」
「晋助!」
ガラッと襖を開けると高杉がバツの悪そうな顔をして立っていた。
「…どうしたの?」
「いや、その…」
首をかしげる主人公の名前の手をおずおずと両手で握り真っ直ぐな瞳で主人公の名前を見つめた。
「今度は必ず、お前を守る。」
「晋助…もう晋助は私の事を守ってくれたよ」
すると高杉は目を丸く見開き不思議そうな顔をし主人公の名前はぼそぼそと話を続けた。
「あの時河原で話しかけてくれた。そして此処を紹介してくれた。あの時、晋助に出会ってなかったら私は今、此処に居ないよ…。だから、今度は私が晋助を守る」
何から守るかは分からないけどと苦笑いをすると、それに釣られて微笑む高杉。
台所からお味噌汁の匂いがして、ぐぅ、と腹を鳴らす高杉をみてクスッと笑えば照れくさそうに行くぞと居間に向かった。
「なんだ、ここで暮らす事になったのか」
桂がずずっと味噌汁を啜り主人公の名前に問うと、コクリと頷いた。
「そうか…これからよろしくな」
ふわりと笑う桂を見て、目を擦り居間にやってきた銀時。それに目を向ける主人公の名前は未明の事件を思い出す。あんなに立ち回りが早く出来たのは銀時と日頃から剣を交えてるからであった。
「…坂田」
「あ?なんだおめェも此処に住むのか」
その話は終わったと桂に言われれば、今起きたんだと言い返す。
「あの、坂田。いつもありがとう」
不意打ちの言葉にキョトンとする銀時と高杉。
「な、なんだよ。気持ち悪ぃ」
いただきます、と照れ隠しをしながら白米を口の中に頬張るのを見てクスリと笑った。理由など言わなくてもいい、自己満足でいい。ただ、お礼が言いたかっただけ。此処の人々と会っていなければ今、私は此処に居ることは無かった。生きていると実感し、味噌汁を啜った。