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ハタチ過ぎると親を心配する
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「ん…」
あれからソファーで寝てしまった銀時は瞼を開けると当たりを見渡した。起きても寒くないのは主人公の名前が毛布を掛けてくれたようだ。机の上も昨晩の晩酌の後すら残っておらず片付いていた。悪い事したなぁと思いつつガンガンと痛む頭と毛布を持ち寝室へ向かうい主人公の名前が眠っている押入れをそっと開けた。
「起きてるか…?」
反応がなく、寝ているのだろうと思ったが寝息すら聞こえないもう少しだけ押入れを開けるとそこはもぬけの殻だった。寒気と同時に脂汗が頭皮を流れる。考えてる暇はない、一刻も早く探しに行かなければと木刀を手にした。
「おはようございます。」
玄関から声が聞こえる。丁度新八が出勤してきたようだ。玄関に向かうとあろう事か主人公の名前も一緒に居た。
「銀さん、どうしたんですか朝から真っ青な顔して…」
「おぉ、銀時起きたか。今朝飯にするから少し待っててくれ」
そう言うと草履を脱ぎ台所へ向かう主人公の名前に苛立ちを覚え肩を掴む。
「ちょっと銀さん!!」
「てめェ、どこ行ってやがった…!心配したんだぞ!!」
「どこって新八くんの家の道場だ」
それがどうしたと言わんばかりにぽかんとした顔をされ肩が痛いと苦笑いする主人公の名前にため息をつくと肩から手を離した。
「なんで稽古する必要があるんだ」
「なんでって、ダイエットだよ」
最近二の腕が気になって、と着流しの袖を捲りに肉を摘むと銀時が肉めがけてデコピンをする。
「変な気は起こすなよ」
「なんだ、銀時はぽっちゃりがタイプなのか」
「バカ、そうじゃねェよ」
頭をぽりぽりと掻くと居間に向かいどさりとソファーに寝転ぶ。すると新八が向かいのソファーに座り神楽が起きてくる。
「あ、神楽ちゃんおはよう。顔洗っておいで。」
寝起きの悪い神楽をお母さんのように促す新八。洗面台兼台所に神楽が来ると主人公の名前がおはようと言い頭を撫でる。コクリと頷く神楽にふわりと笑うと朝食を作り始め、顔を洗うと居間に戻った。
「主人公の名前さん、凄いんですよ!あんな華奢でしかも右腕に竹刀括り付けてるのに素振りが全くブレないんです!」
「新八、昨日なんか主人公の名前にコテンパンにやられて悔し泣きしてたネ」
「な、泣いてないよ!神楽ちゃんデマはやめて!」
そんな会話を聞き流すように目を瞑っていたがもやもやは晴れずにいた。あいつの事だから何かきっとやらかすに違いない。何より、高杉からあいつを守らなければ言わずもがな攘夷活動に巻き込まれる事になる。
主人公の名前は、それを望んでいるのだろうか…はたまた元も正せば助けて欲しいのだろうか…など頭の中でぐるぐると駆け巡った。
***
朝食を食べ終え新八と主人公の名前は部屋の掃除、神楽は定春の散歩、銀時はまたソファーで寝っ転がりジャンプを読んでいた。
「新八くん、厠の掃除終わったんだが次する事はあるか?」
「あ、ありがとうございます。次は…特にないのでのんびりしててください」
そう言われると頷き居間に行くなりソファーに座った。時計の秒針と新八の鼻歌が時折聞こえるだけで沈黙が続く。今日からまた夜はお登勢の所で働くので寝溜めしておこうと寝室に向かうと銀時に呼び止められた。
「…てめェはどうしたいんだ」
「なにがだ」
「これから先、どうしたいんだ」
「…、」
考えた事も無かった。あの時街で倒れて、入院して気が付いたら此処に居候していた。ぬるま湯に浸かっているなんとも気持ちのいいもんだと一瞬にして自分の怠慢さに気が付いた。
「静かに、暮らしたい。」
海の見える場所なんか最高だと思わないか?とへらっと笑うと寝室に消えていった。まるで反抗期の子供と父親のように続かない会話に苛立ちを覚えた。こんな時高杉なら、なんて思う銀時は自分にも苛立ちを覚え玄関へ向かう。
「あれ、銀さん…」
「パチンコ行ってくる」
「またパチンコですか!?も〜、使い過ぎないで下さいよ!?」
「うるせェ」
ピシャッと玄関の戸を閉めると階段を降りる鈍い音が万事屋に響き渡った。
***
万が一、主人公の名前の素性が新八や神楽に知られたら黙ってないだろう。あいつらの事だからどうにかしようとする。だが今回の内容は人身売買が大半を占めている。チンピラ警察に頼るわけにもいかねぇ。主人公の名前が攘夷戦争に参加して、尚且つ高杉と仲良くやってたとなりゃ即お縄もんだろう。クソ、どうすりゃいいんだよ。
向かった先はすぐ下のスナックお登勢だった。
「ババァ、居るか?」
「…どうしたんだい、浮かない顔して」
「主人公の名前の件なんだがな」
そう言うとお登勢も察したように紫煙を吐いてお茶の支度をする。
「ババァには、迷惑かけるかも知れねェ」
「今更何言ってんだい。家賃払わない方が迷惑してるよ。今は主人公の名前が賄ってくれてるからいいけどねェ」
鼻でフンと笑われると苦笑いをした。この人は悪態をついてるが本当に優しい人であり器がデカいといつも思う。一向に頭が上がりはしないだろう。
「…っ、」
「あんたにしては珍しいね。好きにおしい」
話をしようとしない銀時にお茶を出してやると、再びカウンターで作業を始めた。拳に力が入る銀時、どう足掻いてもどちらかを失う、どっちを取ればいい誰に約束された、また同じ事をさせる気か煮え切らない、消化しようにもこの気持ちをどこにぶつけたらいいか分からず舌打ちをした。
「あいつに働きに来るなと言ったら察してどっか行っちまいそうなんだ…。だから厨房から一切出さないでほしい。万が一の事だ俺が夜迎えに来る」
「…はいよ」
そう言うと銀時はスナックを後にした。再び紫煙を吐いて短くなったタバコを灰皿に押し付け火種を消した。
***
何時間たっただろう、ムクリと起き上がり押入れを出ると新八が居間で茶を啜っていた。
「銀さんならパチンコです」
「ん、そうか」
眠たい目を擦り定春のおでこに顔をぐりぐりと押し付け頭を撫でると尻尾を振った。
歯を磨きに行くとぶるりと頭の後に鳥肌が立ち首筋が一気に緊張した。体調が悪い?いや、いつかの日の前感覚に似ていた。脂汗を背中に流す。嫌な事が起きるんじゃないかと奥歯を噛み締め支度を進めた。
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新八は定時に上がって早々に帰宅している。と言っても仕事も来ないんじゃ定時もあったもんじゃない。神楽は居間で酢昆布を食べのんびりしている。未だに帰らない銀時に神楽を一人にして平気かと思って聞くと「いない時はいつもこうヨ」とひらひらと手を振られた。
自分の寝床兼物入れに向かい簪を耳に掛け、自身の愛刀を着流しの中に忍ばせバレないように足に添わせる。行ってくると神楽に伝え玄関に行くと丁度銀時と鉢合わせた。
「おかえり。パチンコは勝ったか?」
「出ねェよ」
「そうか。行ってくる」
そう言うと足早に万事屋を後にし、お登勢の所へ向かう主人公の名前を横目で追うと微かにガチャと音がした。聞き逃したい所だったが主人公の名前の押入れに向かう銀時。押入れをガラリと開けると白い鞘の刀は見当たらなく持って行ったことを確信した。
すると夕刻を知らせるサイレンが響き渡る。木刀を置きに玄関に向かうと西日が差し込んで朱色に床を照らしていた。長い夜になりそうだと、呟いた。