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煙草は合法ドラッグ
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躊躇なしに瞼を開けると鼻をかすめたのは煙草の臭い。ゆっくり身体を起き上がらせると背中がズキズキと痛む。
「起きたか」
声のする方を見ると、窓サッシに腰掛け月をぼんやりと眺めている高杉が居た。やはりあの声は高杉のもので痛む背中をものともせず高杉に近づく
「晋助…!!」
「おっと、随分大胆じゃあねェか」
言われている事が分からず、首を傾げると開けてある窓から風が入り込んで肌に触れた。ぶるりと身震いすると腕を組む。すると胸の突起が腕に触れ驚きのあまり声にならない声を出す。
「お前がぶっ倒れた後、ちょいとな」
「…」
言っている意味が分からないと眉を潜めた。そのついでに周りを見渡すと主人公の名前の愛刀でもある刀が抜け身の状態で置いてあった。刀の下には血塗れになった割烹着と着ていた着流しがあった。
その事についてもっと問いただしたい所だが、まず着るものが欲しいと今まで上に掛けてあった布団を抱え足元に正座した。
すると高杉は主人公の名前の顎に手を添え上げると包帯のされていない緑色の目で見つめられた。
「な、なんだ。」
気まずそうに高杉を見つめ返す主人公の名前はふと眼帯に右腕で触れた。
「…その、すまなかった」
「気にしちゃいねェよ」
攘夷戦争後、離ればなれになり数年。募っていた想いと謝りたい気持ちをようやく伝えられた事、そして今こうして目の前に高杉が居ることに心が揺れ涙を流す。すると顎から手を外され、親指で涙を拭う高杉。右腕を掴まれるとピクリと震え、顔が引き攣る
「怖ぇか」
「…、」
「嘘つけ」
ぶんぶんと横に首を振る主人公の名前を見るとゆっくり右腕の傷口を見た。
「もう、大丈夫なのか」
「…冬になると少しだけ痛むくらい。けど、その…晋助の目に比べたらどうってことない」
〝手〟が無いことに支障をきたす事は幾度とあったが、見えなくなる方が余程辛いと視線をしたに落とした。
「主人公の名前、こっち向け」
「…え?」
高杉を見ると、両肩を押されじわじわと組み敷きられた。前を隠していた布団を剥がされ、生まれたままの姿になる。主人公の名前の右の尻ほっぺをゴツゴツした手で撫でられると声を漏らした。
「ひっ…、晋助、なにしてっ…」
「雑に彫られたんだな」
掌で尻ほっぺにある刺青を感じ取った高杉。当時消毒もされず雑に傷付けられ墨を流し込まれたそこは、でこぼことしていた。
尻ほっぺから徐々にウエストラインに撫で上げられ身をよじる主人公の名前。高杉の鼻先を主人公の名前の鼻先に触れさせニヤリと笑う。
「ちょっと…まって、」
グイっと高杉を押し退けようとするがビクともしない。首に顔を埋められ首筋から耳にかけて吐息混じりに舐められると声が漏れる。
「っぁ…!」
「随分色っぽくなったなァ」
「んぁっ…、」
耳を甘噛みされ、ふちに沿って水音を立てながら舐められると瞼をきゅっと閉じた。反射的に高杉の首に腕を回し快楽に耐えようとする。耳の中に舌が侵入するとピクリと腰を揺らした。
「晋助様ーっ!持ってきたッス!」
ガラッと勢いよく戸が開くと金髪の女性と目が合った。ドサッと布の塊を床に落とし口をパクパクさせ言葉が出てこないようだった。
「入る時は戸を叩けと言ったはずだ」
主人公の名前の上からずるりと立ち上がると、金髪の女性に近付き落とした布の塊を拾った。
「わ、私はその女が鬼兵隊にいた事なんて信じたくもないっス!断じて許さないっス!」
ぺこりと頭を下げ足早に立ち去る金髪の女性。布の塊を主人公の名前に渡すと目を丸くして高杉を見た。
「今、鬼兵隊にって…私がか…」
「おめェは昔から鬼兵隊に居ただろうが。戻ってきただけだ」
確かに、攘夷戦争中は高杉の元にずっと居た。しかし鬼兵隊に自分が在籍しているとは思っても見なかった。
「な、何言ってるんだ晋助…。私は鬼兵隊なんかじゃない。」
「…じゃあなんで昔俺の下に居たんだ。」
「それは…晋助を守りたいだけで…!国を守ろうだなんて一度も思った事はない。私はただ晋助を守りたかったんだ。一緒に、居たかっただけなんだ…、」
「そうか」
「すまなかった。」
渡された布の塊を開くと高杉と似たような着流しがそこにあった。急いで腕を通し帯を固く締め、抜け身の刀を手にする。
「どこ行くんだ」
「帰るんだ、かぶき町に」
「お前の帰る場所なんざァ、もうねェよ。」
「なに、、、」
「どうせ、あの甲斐性なしの銀時の元へ行くんだろう?今頃、おめェのせいであのボロ屋は崩れてらァ。」
崩れているという言葉に冷や汗が流れた。
「銀時の野郎天人を叩き斬って、それに腹立てた天人がドンパチやったってこった」
どういう事だ、やたら緊張して刀を持つ左手が震えた。くつくつと喉の奥で笑う高杉を見る。
「ここを出ていくなら条件を出す。もしくは…そうさなァ」
一刻も早く万事屋に行きたい、銀時と神楽の安否が知りたい。だが、行ってどうする…確かに居場所なんて元々なかった。気前よく住まわせてくれていたのかも知れないが、本当は渋々住まわせてくれていたのでは…など脳内に駆け巡る。だが、この船に居ても居場所なんてありもしない。だったら事を片付けて遠くへ行こう。
すると懐かは紙切れを取り出し主人公の名前に渡す。その紙切れを見ると簡単に書かれてあった地図だった。
「そのはおめェが数年過ごした船の停留所の地図だ。そこの大将の首を取って来い」
「…そうすれば、そうすれば晋助は幸せになれるんだな、」
何も言わず、煙管に火をつけ紫煙を吐く。昔から高杉という男はこうだった。要件が終わると口を紡ぐ。口数が少なく、いつも主人公の名前から話しかける一方でそれを聞いているのかいないのかは定かでは無いが、それで主人公の名前は満足だった。
それはきっと今も変わらずだったらしい。紫煙をぼぅと眺めていると、いつの間にか目の前に高杉がいた。
「晋助、私は…」
ふぅ、と紫煙を主人公の名前の顔に吹き掛ける。きつい煙草の臭いに眉をひそめる。失った左目に触れながら主人公の名前を見た
「死ぬのが怖ェか」
「…晋助の為なら怖いものなんてない」
顔に巻かれた包帯を触りながらなんて策士だなと主人公の名前は思った。いつまで経っても、高杉の頼み事は断れない。さっきだってこのまま抱かれるのではないかと少し期待してしまった自分が心底嫌になる。情なんて棄ててしまいたい。
左手できつく刀を握る。高杉に頭を下げると部屋を出て戸を閉めた。低くこもった声で〝死ぬなよ〟と言われた気がした。しゃらり、と簪の飾りの音を耳にすると銀時の顔を思い出し、桔梗の花言葉を呟いた。