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慣れとは恐ろしいもので。
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船の外に出ると地図を頼りに敵船へと向かおうと地図を広げるが、少し先にかつて主人公の名前が数年過ごした船を見つけた。
「目の前じゃないか、、、」
馬鹿にされている気分になり地図をくしゃくしゃと丸め海に投げた。
確実に歩みを進めると、胃から食道をつたい酸っぱいものが込み上げたまらなくなり、道端に吐き捨てる。
あの船から逃げ出した数ヶ月間は随分生温い生活を送ってきていたのだと確信した。
帰る家…と言っても居候の身分だがしっかりある。
おかえり、と言ってくれる環境がたまらなく好きだった。
ふと高杉から放たれた言葉の万事屋が崩壊したうんぬんは単なる口車に乗せられただけだと今更ながらに思い、舌打ちをした。
何故か«死»と言う文字を頭に浮かべ、一心不乱に走ると船から律儀に階段が下ろしてあった。
数ヶ月前の記憶を辿り、階段を上り中に入る。
確か、ここを曲がると…
壁から顔を少しだけ出し、誰も居ないこと確認すると駆け抜ける。
案外楽につけたものだと戸を見ると少し開いてたのをいい事に中に忍び込み物陰にしゃがむ、
すると鼻を突くアンモニアや生ゴミの臭いがした。咄嗟に袖で鼻を隠すと奥の方から声が聞こえる。
「あーあー、増えちまったなあ」
「どうするんだろうなあ〝これ〟」
「さぁな。」
するとカシャッと機械音がした。音のするほうを見ると天人が小さい液晶の付いた器具を持っていた。
目を凝らして見ていると、スナックの客が時折使っている携帯だった。どうやら写真を撮っているらしいが、被写体が見えない。
場所を間違えた…
出ていこうと立ち上がると刀の切っ先が配管にぶつかり合いカツンと金属音を立てる。
「誰かいるのか!?」
「…にゃ〜…」
「なんだ猫か…」
なんだ、こいつら意外と馬鹿なのか…
ホッと胸を撫で下ろすのもつかの間、物陰にして寄っりかかっていた木箱が背中から無くなりコロンと後に倒れ込む。
「あっ…」
「よぉ、どら猫ちゃん」
天人はそう言うと顔に木箱を落とそうとしてた。このままじゃまずいと、横に転がり左手できつく刀を握り締め脚を切る。
「ぐぁっ…貴様っ…!」
ふらついた事をいい事に主人公の名前はすぐ立ち上がると木箱ごと心臓を貫く。
あっさり倒れ込んだ天人にホッとしているともう一体、天人が斧を振りかざして来た。
「てめェェ!!!」
「うぉあ!?」
咄嗟にしゃがみこむと頭の上からビュンッと風を切る音がした。
配管に斧が食い込むと空気が漏れる音がした。
斧を抜こうと必死になっている天人がポケットから
携帯を落とした。
刀の柄を口にくわえ携帯を拾い上げ袖に入れる。がら空きの後から天人を切るとドサリと音を立てて倒れた。
「背中を向けるなんて…ろくに戦い方も知らないんだな」
さっきシャッター音がした方が気になり近寄ると、うようよと蠢く白い物体や虫が飛び回る音がした。
律儀にそこの山にはスポットライトのように照らされて更に近付くと息を飲んだ。
かつて人間だったであろう遺体の山だった。
ぐちゃぐちゃに溶けて虫に食い荒らされ、まるで遺体が生きているかのように蠢く蛆虫。
絶句して息がまともにできない。
命を落として間もないのだろうか、他に比べると腐敗はしてないが骨と皮だけの女性の遺体のだ。
目を逸らそうとした時太ももにかつて義母からされた自分と同じ百合の焼印があった。
あぁ、私もあのままここに居たら…
早く〝アイツ〟の首を取って帰ろう、そう踵を返して出口に向かおうとした瞬間何者かに足首を掴まれた。
足元を見ると先程斧を振りかざして来た天人だった。
斬り方が甘かったかと掴んでる手を刺すと掴んでいる足首を離した。すると虚ろな表情で懐からライターを取り出した天人は先程斧が刺さった配管に投げようとしていた。
腐敗臭で全く気が付かなかったガスの臭い。
状況を一瞬にして理解した主人公の名前は急いで部屋を出ると一目散に違う通路に向かった。
数秒後、船が大きくれて熱い風が頬を撫でた。
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