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ヒソカと兄妹だったら②
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「ヒソカに女?」
「ないでしょ。いたとしてどんな化物なの、そいつ」
幻影旅団ーー通称蜘蛛。
彼らは、団長を雲の頭、団員12人を手足になぞらえ13人で構成される盗賊集団だ。
主な活動は窃盗と殺人。たまに慈善活動もする。
その蜘蛛の仮宿で話題にあがったのが№4 ヒソカが女と一緒にホテルから出てきたということである。
ヨークシンの街をぶらついていたシャルナークが偶然目撃し、それをメンバーに話したところであるが皆半信半疑……どころか全く持って信用されていなかった。
ヒソカといえば、1に戦い2に戦い、3に戦い、4に戦い…と取り敢えず戦うことしか興味のない戦闘狂。かつ戦いの中で欲情する変態。快楽殺人鬼というのがメンバーの総意だ。
ヒソカが蜘蛛へ入団してそう時間は経っていない。が、蜘蛛はそれを嫌というほど見せつけられ、自らヒソカに近付く団員はまぁいない。つまるところ、蜘蛛の中でもヒソカは異質な存在だった。
話は逸れたが、ヒソカに女がいるのでは?とシャルナークは勘ぐっている訳だ。
「や、オレも見間違いかと思ったんだけどヒソカの隣にばっちりいたんだよ。茶髪の可愛い感じの女の子」
「幻覚ね、きっと。今日くらいはゆっくり休んだら?」
「ええ…ノブナガいたよね?幻覚じゃないよね?ね?」
「あー……いたようないなかったような……」
「裏切る気かよ!」
まさかの隣にいたはずのノブナガに裏切られ、シャルナークは幻覚を見た可哀想な奴という称号を授けられてしまった。
「何を騒いでいるんだ?」
「あ、団長。今日は早いね」
「と言ってももう昼だけど」
賑やかなアジトに気づいたのだろう。自室に篭っていた団長ーークロロ・ルシルフルが顔を出し、ソファへ腰を降ろす。
また朝方まで本を読んでいたようでクロロの目の下には黒いくまが住んでいた。昼過ぎまで寝ていた時は9割方朝まで読書コースである。
もう少し自己管理をしっかりしてほしいが、蜘蛛として活動する時はちゃんと団長として機能しているため強くは言えないのが現状だ。
そんなことよりも、と欠伸をこぼすクロロにシャルナークは聞いてほしいんだけど!と声を上げた。
「団長聞いてよ!オレは絶対に見たんだよ!」
「……何の話だ?」
顔を見て早々憤慨したシャルナークにクロロは首を傾げる。流石のクロロもそれだけでは理解できなかったようで事情を知るマチやノブナガらに詳細を訊ねた。
「……なるほど。ヒソカに女か、興味深くはある。
…で?どんな希少生物だったんだ?人間じゃないことは確かだが」
「いや、だから人間だったんだって」
2人から経緯を聞いたクロロがまず最初に言ったセリフにシャルナークは半目になった。
だが、それは無理もない事だ。ヒソカの為人(ひととなり)はよく知っている人間ならば皆そう断言するだろう。
ヒソカという男は戦闘面においては天才的な才能を有している。
が、彼は誰かに心を割く人間ではない。どこまでいっても自分本位自分勝手。欲望のまま生きる我欲の塊とでも表現しようか。そんな男だった。
そのヒソカがパーソナルスペースに女を入れていたということすら驚きなのに、自分から触れに行ったなどどう信じればいいのかクロロには分からなかった。
「本当なんだってー」
「っていうかさ、そんなに信じられないなら本人に聞けば良いんじゃない?」
「それはそれでなんか癪じゃん」
「シャル、お前面倒臭いな」
シャルナークは唇を尖らせて最も簡単な確認法を拒否した。顔が整っているから良いものの、普通の顔面偏差値の男がやっていれば他の団員にボコ殴りにされていたに違いない。
態々面倒な事を選択する昔馴染みに理解出来ないと言いたげな顔でクロロは隠すことなく口にした。
仕事はきちんとこなすし、自分がいない時の指示役でもあるシャルナークは有能であることは間違いはない。が、彼は今回のように時折少々……いや、大分面倒臭くなるときがある。
情報部隊としてのプライドがあるのだろう。こういった情報系の件に関しては本当に面倒だ。
「今日は随分賑やかだねぇ」
「ヒソカ」
「珍しいじゃない」
噂をすれば噂の当事者がのっそりと現れ、団員に驚きの声が上がった。
入団してから片手で数えるほどしか来ていなかったヒソカが狙ったように現れたのだから無理もないが。
「で、何の話をしてたんだい?随分盛り上がっていたみたいだけど」
「あぁ……お前に女がいるとシャルが勘繰っていてな」
「ちょっと団長!」
「え…女?ボクに?」
珍しくいつものニヒルな笑みを崩したヒソカは素で返してしまった。
どんな話題かと思えばまさかそんな下世話な会話だったとは。
そんな関係の女がいなかったとは一概にも言えないが全て一夜限りのサッパリした関係だ。だが、今はそういう関係の人間がいないのでそんな話題が出てくる事がおかしい。
疑問符を浮かべるヒソカにクロロはこれは。と考える。
「やはりシャルの勘違いか?」
「えぇ…絶対にいたと思うんだけどなぁ」
「というか、何でボクに女がいるって話になってるの?」
突拍子のない話題のそもそもの発端を尋ねてみればマチが興味なさそうにこたえる。
「シャルがアンタと女が親しくしてるの見たんだって。茶髪の女とか言ってたけど」
「…」
ヒソカの脳裏に妹の姿が過り、なるほど、と答えてヒソカは考えるフリをして1人納得した。
ヒソカとヒスイは正真正銘血のつながりのある兄妹である。が、容姿も性格も恐ろしいほど似ていなかった。
事情を知らない第三者から見れば2人がそういう仲の男女だと勘違いされてもおかしくはない。
「(けど、そういう関係ではないんだよねぇ…)」
「で、実際はどうなの?いるの?いないの?どっち?」
「そうだなァ……」
こうなったらヤケなのか半ギレ気味にシャルナークが問えばヒソカはニヤニヤしながら思案した。
しかし、表情とは裏腹に割と真剣に悩んでいる。旅団と妹を合わせるべきか否か。
厳密にはどちらのほうが自分にとって面白くなるか、で悩んでいる。
ヨークシンに来るにあたってヒソカは妹に夜は出歩かないよう口を酸っぱくいい含めていた。
どこぞの馬の骨にどうこうされるほど妹は弱くはないけれど、心配しているかいないかとではまた話が違ってくる。
なんだかんだ妹は可愛い。イルミの三男への愛情も理解できる程ヒソカもヒスイを可愛がっていた。
しかし、万が一何かあっても困るのでそれを避ける意味合いを含めて、ヨークシンでは人気のない場所や夜は一人で出歩かないように言っていた。
そしてもう一つ。理由としてはこちらのほうが大きいが、ヒスイと幻影旅団が鉢合わせしないように。
ヒソカはクロロがヒスイと出会えば、興味を持つと予感している。
クロロは珍しいものが好きだ。それは宝石や古書などの物に限らず、人も含まれる。
自慢ではないがヒソカの周りにいる人間というのは普通では無い。イルミやクロロなどがいい例だろう。
そして、ヒスイもその内のひとり。ヒソカが幼少から手ずから戦闘面も含めて育ててきた妹だ。
ヒソカはヒスイのことはできれば守ってあげたいと思っているし、自分のことだけを見ていてほしいとも思っている。
けれど。彼らが出会ったときどうなるのかも見てみたいとも思うのもまた事実で本当に困った。
まぁ。取り敢えず言えることと言えば。
「ボクの大切な子とだけ言っておくよ」
「ホラ!やっぱりいる!!」
「嘘だろ…」
「くくくく」
ヒソカの告白に仮宿は団員は一度信じられないものを見る目でヒソカを見てから騒然となった。