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はじまりのはじまり
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人の熱気で温まる劇場。
客席は満員、期待や静かな興奮を幕越しでも分かるくらい、ひしひしと感じる。
この瞬間が一番、好き。
緊張も不安も興奮も全部全部しまい込んで、私はこれから満開に咲き誇る。
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「いづねちゃん、お疲れ様です。今回も良かったよ!次もよろしくね」
「はい!ありがとうございます」
舞台が無事終わり、控え室に戻って来て一息つく。
机の上に置いていた携帯が、ちかちかと点滅しているのに気付き、手に取った。
見てみると、双子の姉のいづみからLIMEが来ている。
“いづね、忙しいのにごめんね!訳あってお父さんの劇団が潰されそうなの!それで話したい事があるんだけど今日、時間取れるかな、お願い!!”
いつもは顔文字一杯なのに、今日は一つも見当たらない。
文面からでも、いづみが焦っているのが分かった。
“舞台も終わって落ち着いたから、多分大丈夫だと思う”
“良かった、ありがとう!”
送信したら、速攻既読が付いて返事が送られてくる。
ほっと息をつくいづみの姿が目に浮かんだ。
「それにしても、お父さんの劇団が潰されそうだなんて」
お父さんが総監督を務めていた劇団、MANKAIカンパニー。
何回かいづみと一緒に、この劇団の寮に連れて来てもらった事がある。
個性豊かな劇団員の皆は、笑顔で迎えてくれたな。
確か、あの時だった気がする。
遠慮がちに稽古を見ていた彼に出会ったのは。
たまたま、お父さんに連れられて稽古場に行った時の事だ。