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プロローグ
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噂が現実になる……。
そんなありえない事が、まさか我が身に降り懸かろうとは、夢にも思わなかった。
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「紋章の呪い?」
「うん!そだよ。みかげ知ってる?」
「ああ…ここ最近有名だからな。で?それがどうした?」
「どうしたこうしたじゃないよ!みかげ、あんた紋章まだ付けてるでしょ!?」
「リサ、落ち着いて」
いつも通り授業が終わり、部活もやっていないみかげは、帰宅しようとした所を友人三人娘に捕まった。
赤みがかったセミロングに人懐こそうな笑顔を浮かべる、荻嶋未歩。
なぜか凄い剣幕の色白で金髪碧眼の美少女、リサ シルバーマン。
そんな二人を苦笑しながら宥める、物腰が落ち着いた、深い緑のショートカットの美人、柴田麻美。
みかげが、リサの言葉に困惑していると、麻美が困ったように笑いながら話す。
「ごめんね、いきなり。紋章の事で学校中大騒ぎでしょ?みかげの事心配で」
「?なんでだ?」
「もう!自覚なさすぎ!顔、ぐちゃぐちゃに崩れてもいいの?」
「顔……?」
「せっかくの美人なのに、勿体ないよ~」
「は?」
顔が崩れると言うのは聞いた事があるが、あくまで噂。さほど重要視はしていない。
しかし、リサと未歩に美人と言われたのが余程驚いたのか、みかげは切れ長の目を見開きパチクリさせる。
「私が美人?リサ達の方が美人だし可愛いと思うが…」
「はあああ………」
リサは心の底からため息を吐く。どうしてこうも鈍いのか。クラスメートはおろか、学校中の生徒の憧れの的というのに……。
「な、なんだよ」
「まあ……その事はいいや。とにかく、紋章取らなきゃダメ!」
というなり、素早く紋章バッチを取られる。
なんか、鈍い音がしたのはきっとバッチの針が壊れたのだろう。
「これでよし!」
「いや、よし……ではない気がするが…」
「これで呪いから解放されるよ!良かったね!」
「………いいのか?これ」
「ごめんね。本当に」
清々しい笑顔のリサと未歩に、申し訳なさそうな麻美を責める気にもなれず、みかげは軽くため息を吐いた。
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結局、一緒に帰ろうと言うことになった四人は、校門へと向かうと、
「なんだろう、あの人」
「ん?あれは…春日山高校の生徒じゃないか?」
「なんの用だろ?」
四人が足早に通り過ぎようとすると春日山高校の生徒がみかげを呼び止めた。
「なんだ?」
「あ、これを周防達哉に渡してくれ」
「ちょっと!あんた、達哉になんの用よ!」
「リサ、止めなって……」
「!?と、とにかく頼んだからな!」
噛み付かんばかりの勢いで、突っ掛かるリサにビビったのか、みかげに手紙を押し付け、逃げるように立ち去って行った。
「なんなのよ、あいつ」
「それよりどうする、これ」
「周防先輩かあ。今頃駐輪場でバイク弄ってるかも」
「私が、情人(チンヤン)に届けてくる!!」
「あ」
リサはみかげの手にあった手紙を素早く奪うと、校舎に走って行った。その後ろ姿を呆然と見守る三人。
「私たちも一度学校に戻ろう?」
「そだね。リサ心配だし」
「………だな」
三人はまた、リサを追うように学校に戻る事にした。
……しかしその行動が、後でとんでもない事件に巻き込まれる事になるとは、三人は夢にも思わなかった。