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麻美と未歩は教室に行ったようだった。途中別れたみかげは駐輪場に行ってみた。
しばらく長い廊下を歩き、やっと見つけた『駐輪場』とかかれたプレートがかかった扉を開こうとノブに手をかけた。
「!?」
突然沸き上がる違和感。ドクンドクンと高鳴る心臓を静めようと、深呼吸をするがますます苦しくなる。
(一体…なんだ)
みかげはついに耐え切れずうずくまる。
「どうしたんだい?…!十六夜じゃない。どうしたの?」
背後からかけられた声に応えるようにみかげは見上げた。そこには一人の女教師が心配そうに覗き込んでいた。高見冴子。三年生を受け持っている教師だった。生徒の自主性を重んじる教育方針で生徒たちに絶大な人気を誇っている。かくいう十六夜も、この教師が好きな一人でもある。
「さ、冴子先生……あ、いや大丈夫です。ちょっと立ちくらみがして…」
「大丈夫?なんだか顔色が良くないけど。早く帰った方がいいわ」
立てる?と差し出された手を取り、みかげはゆっくりと立ち上がった。
「お騒がせしました。じゃあ、私はこれで」
「ああ、お大事にね。気をつけて帰るんだよ」
そう言うと冴子先生は駐輪場に出て行った。
さて、麻美たちと合流して帰るかと後ろを振り返ると、
「………」
「………」
背後に背の高い、端正な顔の特徴的な髪型をした男子生徒が立っていた。青いネクタイをしていると言うことは三年生だろう。
「……どうした」
「え?……い、いや別に」
「冴子先生、見た?」
「ああ、さっき駐輪場に出て行ったけど…」
「そう……」
くたびれたように溜息をついた目の前の男子に、なぜか懐かしさを感じた。
(なんで……今日初めて会ったはずなのに……)
みかげが黙ってマジマジ見つめているせいか、男子生徒は不思議そうに首を傾げた。
「なに?」
「え?いや。じゃあ、私はこれで……」
急に恥ずかしくなり、男子生徒の脇をすり抜け、教室へ向かった。
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………―
……―
…―
「あ!みかげ!どこ行ってたの?」
「ゴメン。ちょっと駐輪場に」
「リサいた?」
「わからない。駐輪場には出なかったから」
「何かあった?」
麻美が聞いてきた。さすがお姉さん的な存在。みかげの様子がおかしいのに気づいたようだった。みかげは駐輪場の出口であった事を全て話すと、麻美と未歩は心配そうな顔をした。
「大丈夫?ごめんね、付き合わせちゃって…」
「具合はもう大丈夫?」
「ああ、もう平気だ。心配掛けてすまない」
「でも、通り掛かったのが冴子先生で良かったよね。ハンニャだったら何言われるか…」
「大丈夫よ。みかげはハンニャのお気に入りだもの」
「かわいそ~」
「ははは…;;」
入試試験を首席で突破し、特待生として入学したみかげをハンニャ…反谷校長はかなり贔屓していた。しかし、そんなみかげに嫌がらせなどがないのは、みかげのサバサバした飾らない性格で何事にも妥協したり媚びない、努力家だからだろう。
そのせいかみかげにとっては反谷校長のえこ贔屓は迷惑以外の何物でもない。
「そろそろ学園祭も近いしな。体調を崩していられないだろう?」
「出来るといいな~。お客さん来ないかもだけど」
未歩と話していると、麻美が神妙な顔で話しかける。
「今年は無理かもしれないわよ」
「なんで~?」
「未歩、みかげ、気付かない?最近、顔に包帯巻いた人多くなったと思わない?」
「ん~~そだね。怪我?」
「………奇病…か」
みかげのつぶやきに麻美はこくりと頷く。さりげなく教室の中を見渡せば、数人しか残っていないが、殆どの生徒が包帯を顔に巻いている。
「だが、まだ中止と決まった訳じゃないし、奇病だって治らないと決まった訳じゃない」
「そうだよね~!もう、あさっちは心配性なんだから~」
「ふふ…だといいわね。さ、帰りましょうか」
「え?リサは?」
「お邪魔しちゃ可愛そうでしょ?」
「………ああ、なるほどな」
みかげ達三人はリサが周防達哉が好きなのを知っている。とは言っても、周防達哉と面識があるのはリサと麻美と未歩だけで、みかげはない。ただ、カッコイイ先輩とかクールで無口だとかしか漠然としたものしか知らなかった。
「みーぽったら。さ、行こう」
と、麻美が鞄を持ち教室を出ようとした時、
ざざざ…
―校内の生徒につぐ。校内の清掃を徹底する。掃除が終わらない限り下校する事は赦さん!『私』の七姉妹学園を大切にするように!―
「はあ?掃除~?」
「また、急な話しだな」
「…はあ、仕方ないわ。掃除しましょ…」
諦めたように溜息を吐く麻美に、嫌々頷く未歩とみかげ。
しかし、みかげはなぜか違和感を感じた。
なぜ、皆大嫌いな校長の言うことを聞くのか。なぜ文句の一つも言わないのか……。
(……気味が悪い……何も起きなければいいが……)
…このみかげの願いもあっけなく打ち破られる事になった。