-
2
-
―我が名はアテナ…力と美を司りし者……我は汝、汝は我……我が現身よ…汝が運命(さだめ)我とともに……―
アテナもまた、光の粒となり弾けた。その途端力が抜け、みかげは倒れ込む。それを見た三科栄吉が困惑したように叫ぶ。
「な、なんでお前らまで死神使えんだよ!?」
―我が手を取れ…恐れるな―
「っ!?」
次は周防達哉だった。彼の体からも光の粒が溢れ出す。そして二人と同様、光の粒は形を成した。人の形をしたそれは鎧の様なものを全身纏い肩や頭から炎を点していた。
―我は汝…汝は我…我は汝の心の海より出でし者……一切の不浄を薙ぎ払う業火の運び手ヴォルカヌスなり!!―
「!?」
ヴォルカヌスが前に手を翳した。すると、
「うわあああ!!」
三科栄吉に炎に包まれ倒れた。それを見届けた周防達哉も力尽きたように倒れた。
………………―
…………―
……―
不思議な空間に、金色に輝く蝶…。ヒラヒラと舞いながら消えた……。その先にあったのは…………
「ん…………」
「みかげ!大丈夫?」
「なんとか……生きては…いるな」
みかげを心配そうに覗き込むリサを安心させるため微笑む。
男二人は先に目が覚めたようで、周りを見回している。
「なんだ?ここ」
「さあな」
「…落ち着いてんな、お前」
「いや、かなり動揺してるんだけど」
「マジか…」
そんな男二人の会話を聞きながら、ふと、中央の光の柱に金色の蝶が舞っているのに気づいた。
「おい……あれ…」
「え……?金色の……蝶々?」
みかげとリサの会話が聞こえたのか、周防と三科も蝶に注目する。すると、蝶が一層光輝き、人の姿になった。
「「「「!!」」」」
そこには、顔の半分を仮面で隠した、黒づくめの一人の男性が立っていた。
**************
『ようこそ、意識と無意識の狭間へ…私の名はフィレモン。お忘れかな?』
「……フィレモン…?」
リサが困惑したように呟く。みかげはただただ、仮面の男…フィレモンを見つめていた。
フィレモンはみかげ達を見回し続けた。
『そして、諸君らが持つ力は“ペルソナ”と呼ぶ。心の奥底に潜む、神や悪魔のごときもう一人の自分を呼び出す力だ』
「ぺ…ペルソナ……」
みかげの呟きに、フィレモンは頷く。
『神の様に慈愛に満ちた自分…悪魔のように残酷な自分……人は様々な仮面を付けて生きるもの………今の諸君の姿も無数の仮面の一つに過ぎん。ペルソナもまた、数多くある君の姿の一つなのだ』
「あれが……俺?お前は一体……」
三科の問い掛けには答えず、フィレモンは再び話し出す。
『これから諸君は、ペルソナと共に己の存在と未来を欠けて、巨大な意意思と戦わねばならなん。忘却の彼方より時は満ち、今、珠間瑠の地は噂が現実になる異界と化した……諸君の未来を紡ぐ戦いは既に始まっているのだ』
(随分と話が大きくなったな。ついていけない…)
先ほどの出来事とあまりに飛んだ話にみかげは俯き、フィレモンの言葉に耳を傾ける。
『私はそれを伝える為、諸君を招いた。さあ、ペルソナと共に、仕組まれし業の鎖を断ち切るのだ』
フィレモンが手を翳すと、目の前に光が溢れ、みかげはまた意識を失った。
……………―
…………―
……―
「……くん、栄吉く…番長さんしっかりして」
雅が三科を揺すり起こしていた。ぴくりと反応した三科に安心したのか、雅はみかげの方へ駆け寄った。
「みかげさん、大丈夫?しっかりして!」
「ん………雅……」
「良かった……本当に…」
みかげが起き上がると、他の三人も次々起き上がる。そして四人で顔を見合わせた。
「夢……じゃねぇよな…」
「やっぱり…私も見たよ。あれ、ペルソナって言うんでしょ?」
「ああ、私もだ。じゃあ…あの噂が現実に…とか未来を紡ぐ…とかも夢じゃないって事だな。しかし、あれが……私か……変な気分だ」
「…………俺も同じ物を見た。あの男…フィレモンの言葉を聞き流す事は出来そうにないな」
周防の言葉に四人は俯く。すると、
「ねぇ……ジョーカ様、試してみない?」
突然のリサの提案に三人は目を丸くする。
「自分の携帯から自分の携帯に……ってあれか」
「馬鹿馬鹿しい、俺は降りるぜ」
三科は速攻で辞退する。みかげはチラリと三科を見遣ると、リサに向き直る。
「……試す気か?噂が現実……というのを…」
「うん、証明になるでしょ?もしかして……怖いの?」
「っ!だああ!わーったよ!確かにあんなん見たまんまじゃ夢見が悪ぃ。厄払いのつもりでやってみるか…」
早速、準備を始める一同を見ながら、みかげは胸騒ぎを感じていた。
―何か…とんでもない事が起こる……―
(考え過ぎ…だといいが)
不安を振り払うように首を降る。
何事も無いことを祈って……。
しかし、みかげの祈り虚しく、事態は悪い方に向かってしまうのだった……。