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私の香り
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「また遊ぼうね。夢主ちゃん」
そう言って男は夢主の首筋にキスをして、去っていった。
残された夢主はバッグに入れられた札束をボケーと眺めていた。
まさかこんなに羽振りの良い男とはおもわなんだ。
抱き方はちょっと粗っぽかったが、そこはまぁ勘弁してやろう。
「夢主?お前何してんだ?」
呼ばれて振り返ればそこには悪友のザップが頬を腫れさせて不機嫌そうに立っていた。
「ザップ、、また女で失敗したな」
「うっせぇ…って、何だよその金!?」
「あー、貰った」
「うわ、ずりぃ。いつもお前だけそういう男と寝やがって。。」
「スティーブンさんにちょっと似てたからだしー」
「お前いつか痛い目見るぞ。ていうか見ろ」
「ひっどーい。せっかく朝ごはん奢ってあげようかと思ったのに、」
「ありがとうございます!流石は夢主先生!!」
「この変わり身の早さよ」
ザップと事務所で朝ごはんを食べていると、ガチャリとドアが開く。
二人でそちらを向くと、目の下に隈の出来たスティーブンがそこにはいた。
「おはよう夢主、ザップ。早いな」
「おはよーごぜーます」
「おはようございます。え?スティーブンさん、寝てないんですか?」
「嗚呼、仕事と……ちょっと用事があってね」
「番頭、今何徹っすか?」
ザップが聞くと、スティーブンは笑顔で指を三本立てる。
それを見た夢主は慌てて立ち上がるとスティーブンに近寄った。
「スティーブンさん寝てください!仮眠室!仮眠室に!」
「いや、まだ書類が、」
「書類は私が!外回りはザップがしますから!」
「は?何で俺が、」
「お黙り!」
文句を言おうとしたザップに対し、夢主は指をパチンッと鳴らす。
すると彼のくわえていた葉巻が一瞬の内に燃え上がり、ザップの悲鳴が事務所に響いた。
「ほらほら!スティーブンさん寝てください!」
「うーん、夢主は無理矢理だなぁ」
「そんな状態じゃあちゃんとしたお仕事出来ないですよ!」
「ちゃんと起こしますから」という夢主に圧され、スティーブンは仮眠室のベッドに座ると、すんっと鼻を鳴らした。
「夢主」
「はい!何ですか?仕事のことなら、」
「シャンプー変えたかい?」
「………え?」
「あ、いや。いつもと違う香りがしたものだから」
ラブホテルのシャンプーですね!!
なんて言えない夢主はさぁっと顔を青くした。
『ヤバイ。ヤバイ。私がスティーブンさん似の男取っ替え引っ替え遊んでるのがバレる。ていうか取っ替え引っ替えなのは1回遊んだらその後連絡着かなくなるからだし、私は悪くないし。いや、そんなこと考えてる場合じゃないだろ私!!』
「し、試供品のシャンプー使って見たんですけど…」
「あー、なるほど」
「変な香り……でしたかね?」
「んー、僕はいつもの香りの方が好きかなぁ」
咄嗟の嘘だったが、スティーブンは気付いていないようだ。
夢主はホッと胸を撫で下ろす。
「スティーブンさんがそう言うなら前のシャンプーにします」
「ははは、僕の好みに合わせなくても良いんだぞ」
「そうですけど、、でも好きな香りって言って頂けるなら少しは癒しにもなるかなと!」
「癒し……まぁそうかもな」
スティーブンはへらりと疲れたように笑った。
その笑顔が昨晩を共にした男と一瞬ダブったのは内緒だ。
「じゃあ、後で起こしに来ますから。ちゃんと寝てくださいね?」
「わかったよ、夢主先生」
「ちょ、からかわないでくださいよ。。」