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鳶色の瞳
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《この連絡先にはメッセージは送れません》
「……ちぇっ、また逃げられた」
そう呟いて、夢主はまたスティーブン似の男の連絡先を消した。
これで何度目だろう。男に逃げられるのは。
いや、しつこく来られても困るからこれで良いのかもしれないが。
スティーブンへの情欲の捌け口が無くなるのは夢主にとっては困った問題だ。
ため息をつきながら、夢主は自宅にある、とある部屋に入る。
明かりをつければ、そこは壁一面スティーブンの写真。戦闘中の姿、事務仕事中の姿、潜入捜査中の姿。
色んなスティーブンの姿がそこにはあった。
ただ一つ、私生活面の姿はどこにも見当たらない。
夢主は、このスティーブンのストーカーは頑なに私生活面まで介入しない。という謎のポリシーを持っているのだ。
スティーブンは高嶺の華。遠くから眺めるだけで充分。というかそれしか出来ないことはわかってる。
そう納得してこの生活をしているのだ。
「はぁ、、今日はスティーブンさんおやすみだったから会えなかったなぁ。。何してるんだろうなぁ」
もしかしたら彼女がいるかもしれない。
でも私生活さえ知らなければそれも知らずに過ごせるのだ。
壁に貼られた写真の彼を指でなぞりながら、夢主は憂鬱な気分になった。
嗚呼、依存している。彼に会いたい。貴方に会いたい。でも迷惑はかけたくない。
「……お風呂入ろ」
風呂から上がり、ワインボトル片手にリビングにあるソファに座り、側にある猫のぬいぐるみに身体を寄せた。
この猫のぬいぐるみ。いつだったか、何かの景品で当てたスティーブンがいらないからという理由で貰ったものだ。
思えば初めて彼から貰ったものだったので、当時は大興奮したものだ。
腑抜けた顔がなんとも言えず可愛い。思わずむぎゅむぎゅしてしまう。因みに名前はスティーブンのミドルネームからとって「あっくん」だ。
「あっくん、今日も疲れたよー。でもね、クラウスさんが色々フォローしてくれて、すごい助かっちゃった。部下としてはダメかもだけど、私クラウスさん天使だと思うんだぁ。あとレオも天使。ザップは知らん。まぁたまに情報くれるけどさ、いっつも私が気分悪くなるような情報くれるし。。あとまた男に逃げられたのー!今回は中々に悪くなかったのにさー。また遊ぼうね、て言ってたのにひどい話だと思わない?」
文句タラタラ。何も返してはくれない「あっくん」の目をじっと見つめる。彼と同じ鳶色の瞳は吸い込まれそうな位魅力的だ。
「あっくん。あっくんは私から離れたりしないでね」
そう言って、夢主はグラスに注いでおいた白ワインを飲み干す。
照明に反射して鳶色の瞳がキラリと光った。