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マイ☆フレ マイ☆ヒーロー
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「なー、LINE教えて」
「うちもー!」
気軽にハートマークが飛び交う空間にたじろぐ。確かに、高2の春休みなんて、難しいこと考えなくてもいい最高のチャンスかも知れないけれど。
それにしても皆結構変わったな、と、ぼーっと周りを見渡しながら考えた。小さな町での暮らしだ、他校へ行った子と偶然出くわすことも多々あるが、こう一堂に会すと、成長期、思春期ってすごい。
中でも──たくさんの女子に囲まれた鮮やかなピンク色の髪に目を止める。少し遅れて、相手もこちらに気づいた。
「あ、窓乃ちゃんもLINE交換しよ」
彼が女の子をちゃん付けで呼ぶのも、華やかな見た目も、いつも周りに人がいるのも、昔と同じ。
だけど、どうしてだろう、あの頃と一番変わって見えるのは、彼だった。
何となく返事に詰まっているうちに、ここは二人だけの世界ではないのだ、彼と話したい子たちの声に流され、それ以上やりとりが続くことはなかった。
* * *
二次会の誘いを断り、同じく帰ることにした友人たちも曲がり角にあたる都度減っていった。ついに一人になり、今日の同窓会を思い返してみる。
親しい子と話せたのは楽しかったし、小学生の頃のままにふざける男子を見ているのも面白かった。参加してよかったと思うのは本心だ。
けれど、多分このモヤッとした気持ちは、焦りのような嫉妬のような。自分だけが昔のまま置き去りにされたような気持ち。男女の分け隔てなく、泥だらけになってヒーローごっこで遊んでいた頃には、思いもしなかったこと。仲のいい子はみんな友達、そんな単純な話で済むような子どもではもういられない、何か別の感情を、彼は、皆は知っているのだろう。
「あー、よかった追いついた」
後方からの突然の声に驚き振り返ると、彼──蔵王立がいた。まだ少し肩が上下しているが、しかしやはり体力もそこそこあるのだろう、何で、と問う前に口を開いたのは彼のほうだった。
「忘れ物。窓乃ちゃんのLINEまだ聞けてなかったからさぁ」
「……え、そんなことで?」
思わずそう返すと、彼は大げさに首を振り笑った。
「いやいや、そんなことって。これを逃したらずっと後悔するような重大なことよ、俺にとって」
「さては私が揃えば女子のLINEコンプリートとかそういう」
「あー、それもあるけどね、窓乃ちゃんのこそ聞きたかったっていう」
「ふーん、まぁいいけど」
ポチポチと画面を操作していくと、イマドキの加工がなされたアイコンが加わった。やっぱり彼は、昔の思い出なんてすっかり忘れてしまって、もう私とはだいぶ違う世界に住んでいるのかも知れない。軽やかなノリに対して、私はあまり愛想よく答えることができなかった。
「サンキュー!何かあってもなくても、窓乃ちゃんのほうからもじゃんじゃん送ってねー」
「何かって何」
「んー、例えば髪型がうまく決まらないとか、登校途中に見たコが可愛かったとか?」
「それ、蔵王くんの話じゃない」
「あとは、ヒーローの助けが必要なときとか。どこにいたって、急いで駆けつけるから」
「!」
じゃあ戻るから、と、もと来た道を再び駆けていく背中から、しばらく目が離せそうになかった。
* * *
追加されたばかりのアカウントが、スマホを鳴らす。
二次会なう、と落書きされた写真と、ハートマークが気軽につけられた文面。
少しの勇気を出して、私も慣れない絵文字を入れて送り返してみる。既読がついてからのほんの間さえ、こんなにドキドキするなんて。
多分、私も変わっていくのだ。だって、この感情は──