-
引き寄せられる名酒。繋。
-
雲一つない星空に満月が浮かぶ夜。
私たちは、またあの砂浜にいた。
2人のその背には大きなリュック。
『お待たせ!』
『私も今来たところ!』
今から、私たちはある方法でワンピースの世界へもう1度トリップする。
その方法は居酒屋のおばさん。もとい人魚おばさんが教えてくれるらしい。
私は今日も綺麗に丸形をした満月を見上げる。
あと少しで、またエースに会える。
『そういえば、この前おばさんが言ってんだけど。ワンピース世界の1年てこっちでは1週間らしい。』
『え?ってことはワンピース世界ではもう2年たってるってこと!?エースはもう22歳になってるの!?』
あれから2年てことは、もう忘れられているのではなかろうか...。
考えたくないことがどんどん頭を支配する。
エースだって健全な男だ。
20前半なんていったらそりゃぁもう、ヤりたい盛りで....あの肉体美にあのルックスときたら女なんてそれこそ星の数ほど言い寄ってくるに違いない。
そんな私の妄想は、どんどん良くない方向に思考を巡らせる。
薄暗い部屋で2人の汗がシーツに染みていく。
(あっ、、えーすっ。)
(っく、、やべぇ、)
(もう、、らめええええっ)
そして、エースは、、、
『あああああああっ!!!!!』
ベッドの上でエースと[へのへのもへじ]の顔をした女が裸で絡み合っている姿を想像して頭を抱える。
『へのへのもへじ女ーーーー!!!!!!お前を蝋人形にしてやろうかぁぁぁぁぁっ!!!!!』
「いや、デ〇モン閣下かよ。」
そこに何か大きな木箱を担いだ居酒屋のおばさんが現れる。
「だいたいなんだい、へのへのもへじ女って。」
『いやぁ、タダの妄想でして笑』
それに、ハァとため息をついたおばさんが、私の隣を指さす。
隣をみるとマイも似たような嫌な妄想をしているのか、あのグルグルラブコック野郎。と無表情で地面に拳で穴を開けている。いや怖ーよ。
人のこと言えないけども。
『無表情で地面に、、風穴。』
「それより、開始するよ。」
おばさんは持っていた木箱を開けた。
sideエース
「じゃあ、後で追いつく!」
「気をつけて帰ってこいよい。もちろんユカコも一緒にねい。」
「当たり前だっ!」
そう言って船に乗る仲間達に背を向けて、歩く俺の手にはあの時ユカコとマイが飲んでいた魚人島産の酒。
それをしっかりと手に持ちながら、ある店の扉を開いた。
「きゃぁぁぁん♡エース君よっ!」
「相変わらず男前っ!」
「今日はどうしたんですかぁっ!」
「白ひげ様たちは一緒ではないのですかぁ?」
「今日は、何をお飲みになりますか?女の子も寄りすぐりをお付けしますわ~!」
店に入った瞬間にキーンとする黄色い歓声に条件反射で肩をすくめる。
「い、いやぁ今日は、飲みに来たんじゃ、、」
一気に女に囲まれた俺は少したじろぐ。
これじゃあ前に進めねぇ。
どうしようかと、指で頬をかくと、奥の扉から目的の人物が見えて、咄嗟に手をあげる。
それに気がついた人物は通る声で店の女に呼びかけた。
「アンタ達、お呼びでないよ。火拳坊やは今日は私が相手をしよう。」
それに少し不満気な声を漏らす女たちも、まあ、店長が言うなら仕方がないと、すぐに散っていった。
こっちに来な、と奥の部屋に通されるとコーヒーを出される。
一瞬どこぞの海軍支部の苦いコーヒーを思い出したが、すぐに手に取って飲んでみるとホッとする味がした。
「久しぶりじゃないかい。火拳坊や。」
「おぉ!久しぶりだな!マダムシャーリー!」
「まぁ、お前さんが来ることはしっていたけどねぇ。」
そう言って手に持った水晶玉を顔の前に上げる。
「もちろん。ここに来た理由もね。」
口角を上げたマダムシャーリーに俺も返すかのように口角を上げて、テンガロンハットの縁を指で押し上げる。
「流石だな。そうさ、ここに来たのは他でもねェ。」
俺は手に持っていた酒瓶を机の上に置いた。
「俺の女を、取り戻しに来た。」
その言葉に目を細めたマダムシャーリー。
「もしかしたら、、もうすぐ会えるかもしれない。」
「なん、、だと、!?....本当か、それ!!!」
思わず、身を乗り出してマダムシャーリーに詰め寄る。
「そう慌てるでないよ。火拳坊や。」
酒のラベルをそっと指でなぞるマダムシャーリー。
「まさか、この酒がまだ実在するとはね。」
_____そこには繋(ツナギ)と書かれていた。
「これは、元々はこの島にいた人魚が作っていた代物だよ。」
「...作っていた?」
マダムシャーリーの言葉に少し引っかかった。
「そうさ、これを作っていた人物の名は、ソーレッド。」
それなら、この繋という酒を作ったソーレッドという女に会えばユカコのことが何かわかるかもしれない。
「その女は今どこにいるんだ?」
「それが、、、」
俺の質問に口を噤むマダムシャーリーは、一瞬顔を伏せたかと思うと、すぐに俺に向き直った。
「異世界に、飛ばされたのさ。」
「....。」
俺は、その言葉に確信を得た。
「....エース、死なないで。」
ティーチに刺されて気を失っていたユカコが、寝言で漏らしたその言葉。
それがずっと引っかかっていた。
あの時、殺されそうになっていたのは俺ではなくサッチだった。
なのに、なぜ俺の名を呼んだのか。
ただの悪夢をみたんだと思ったこともあった。
けどそれは起きてすぐに俺の顔を見て、よかったと俺に泣きついたユカコの俺を抱きしめる腕の強さと、震えた体を思い出す度に、悪夢なんてもんには思えなくなった。
あの時から、ユカコは俺が頂上戦争で命を落とすかもしれないことがわかっていたのだとしたら、色々と辻褄が合う。
俺を助けるために、あんなに危ない行動をし続けたユカコ。
膝に落ちていた拳をギュッと握る。
俺は、マダムシャーリーを見た。
「もう、アイツに、ユカコに会えなくて辛い思いをするのは嫌だ。ユカコを早くこの腕に抱きてぇんだ。」
俺の意思のこもった瞳を澄んだ目で見つめ返すマダムシャーリー。
「言うようになったじゃないか。火拳坊や。」
ニコリと笑ったマダムシャーリーは、水晶玉をかざす。
「火拳坊やのためにひと肌脱ごうじゃないか。その子が舞い降りる地を予知する。」
「頼む。」
_______ちゃんと、迎えにいくから。
_______待っててくれよ。ユカコ。
.....to be continue.