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甘い香りが漂うこの寝室。
女王蜂の私は高い天井を見上げ、退屈な息を吐いた。
「…はぁ…」
今は交尾期間の真っ最中。
現在私の脚の間では、一匹の雄がひとりよがりに腰を振っている。
突かれている私は全く気持ち良くないし、寧ろさっさと解放してほしい。
毎晩私の部屋に雄たちが押し入って来ては、自分だけ快感を貪って力尽きる…そんな毎日もう飽きたわ。
退屈よ。何もかも。
「くっ…!!」
背中を戦慄かせた雄は小さな喘ぎ声を発し、欲望を私の中にぶちまける。
…ああ、穢らわしい。
熱い飛沫を奥で感じ、ある意味私も戦慄する。
いつまでも余韻に浸る雄を引き剥がし、私の寝室から追い出した。
「さようなら。お勤めご苦労。」
「じょ、女王様、まだ…」
「何?お勤めご苦労って今言ったでしょ。あんたの仕事は終わったのさようなら。」
泣きつこうとする雄を突き放し、情けない顔面を跨いでお腹にグッと力を入れる。
すると膣内に注がれたはずの精液がドピューッと飛び出し、ドロドロと雄の顔面にかかった。
「要らないから返しとくわ。じゃ。」
「あ…女王、様……」
後ろ脚で扉を豪快に閉め、私は再びベッドに寝転がる。
気怠い体をそっと横たえて、どこかイイ雄は居ないのかと残念な気持ちになった。
「…自分で探すしかないわね。」
待つぐらいなら自分から動くしかない。
眠りに着く前に心を決め、翌日、私は久しぶりに巣の中を自分の足で歩き回ることにした。
「女王様、おはようございます!」
沢山の働き蜂に頭を下げられ、あちこちから声をかけられる。
何も言わずとも私の道を開けてくれる優秀な女の子達だ。
対して雄達は隅で固まり、一向に私と目を合わせようとしない。
(ほんと意気地無しね…昨日の雄の方がまだマシだったわ。)
雌と違い、雄は一度の性交が終われば命も終わる。
そうなれば、私の元にやって来るのは勇敢な雄…という事になるが、私からすればつまらない雄達だ。
周りなんて気にせず堂々と歩いていると、一際背の高い雄が壁に凭れ掛かっているのを偶然発見する。
同士で固まる事をせず、じっと私の方を見つめているので興味が湧いた。
私が近づいても狼狽えないので、彼への期待が膨れてゆく。
「ねぇ、あなた…名前は?」
「…レイですけど。」
「ふぅん…顔もなかなか良いし、背も高い…気に入ったわ。あなた今晩寝室に」
「お断りします。」
「なっ…!」
私が交尾を断る事はあっても、断られる事は無かった。
あまりの衝撃に私は言葉を見失い、愚かとしか思えないレイを見つめた。
私達の会話を聞いていた周囲の蜂たちも驚きの声を上げ、口々に言いたいことを言う。
「女王様のお誘いを断るなんて…」
「そりゃそうだよ死にたくないもん」
「おい聞こえるって」
「でも、名誉なことなのに…」
その話を耳に挟んだ私も気を取り直し、もう一度レイに向き直る。
「そうよ、私と交尾するのは最も名誉なことなのよ…!断るなんてどうかしてるわ!」
「……」
「と、とにかく、今晩私の部屋に来なさい。いいわね?」
「……」
レイは頷かない。
うんともすんとも言わない。
(何よ何よ!こいつ、物理的にも精神的にも頭が高いわ…!)
私は段々腹の中がムカムカしてきて、苛立つままに「フンッ」と鼻を鳴らして素早く踵を返す。
大勢の前で恥をかかされた気分だ。
絶対に許さない…!
仕返ししてやるんだから…!
呆然と突っ立っている蜂たちの隙間を掻き分けて、私は自室に飛び込んでベッドにダイブした。
うつ伏せでシーツをポカポカと殴り、怒りを子どもじみた方法で発散する。
「ああーっ!腹立つぅうーっ!何よあいつ!」
シーツに顔を埋めて叫べば、一瞬だけ気持ちがスッキリした。
だけど次の瞬間には思い出してイライラする。
無限ループから抜け出せない私は、延々とベッドの上でのたうち回り、挙句の果てに疲れて寝てしまった。
「……ん、あれ………」
乱れたシーツの上で目を覚まし、動かずに目線だけをあちこちに向けてみる。
(…もう夕方ね…。)
何時頃かは感覚で分かる。
夜が近い時間帯ということもあり、私はちょっと心がウキウキした。
あの雄が来る………
(…って、いやいや、あいつは私を振ったのよ!何を喜んでるのよ復讐が先なの!)
寝てスッキリしたせいか、怒りの気持ちを忘れていた私は自分の頬を叩いた。
この私に恥をかかせたんだから、部屋に来たらそれなりの仕置きは受けてもらうんだからね!
そう決心したのに、どれだけ待ってもレイが姿を見せる事は無かった。
次の日もその次の日も…
気が付けば不満より孤独の感情の方が勝り、私はレイを探しに再び部屋から出た。
なるべく皆に姿を見られぬよう、巣の中を端から練り歩いてみる。
巣の奥にある広場、雄たちの部屋…廊下はもちろん、ピロティまで。
だけど、探しても探してもレイを見つける事はできなかった。
(……いや、そもそも何で私、こんなに執着してるのよ…)
ちょーっと気に入ったぐらいで自分から探し回るなんて、そんな事をしなくても雄たちは星の数ほどいる。
…そうよ。
レイにこだわる理由なんてないわ。
高く空をオレンジに染める夕日を暫く見つめ、気持ちを整理した私は帰路に着こうと体の向きを変えた…時だった。
「…何してるんですか。」
「!!!」
背後から掛けられた声に、私の心が大きく弾む。
一瞬だけ息を忘れて振り返ると、ずっと探し求めていた人がそこにいたのだ。
背が高くて…カッコよくて…私の誘いを断った最初の雄が。
思わず目を細めてしまったのは、眩しいオレンジの光だけが原因じゃないはず。
「…わ、私が何しようと勝手でしょ。そっちこそ今まで何してたのよ。」
「俺が何しようが俺の勝手でしょう……」
「………」
「…はぁ、外を飛んできたんですよ。それだけです。」
「そう。それで、今からでも遅くないから、私の誘い…乗るわよね?」
相変わらず無表情なレイ。
強めに言わないとまた断られそうなので、私は心もち威圧的に言ってみる。
そしたら彼は、意外にも素直に頷いて私を驚かせた。
「…いいですよ。」
「え?あ、そ、そう!ようやく勤めを果たす気になったのね!褒めてあげるわ。」
「はぁ…」
誘いを受け入れたにしては乗り気でない様子だが、私はもらった返事に満足して「行くわよ」とレイの手を引っ張り、大股で寝室に舞い戻った。
欲求が溜まっていたので性急にレイを押し倒し、彼の体を跨いでその顔を見下ろす。
私より背の高い彼を見上げてばかりいたので気付かなかったけど、下から見るより目鼻立ちがかなりくっきりしている。
凄く好みの顔だ。
「あなた、本当に良いわね…今までに無いくらい興奮してるわ私…。」
心臓の鼓動が全身にまで行き渡る感覚がする。
共鳴するように疼く子宮が、雄を受け入れるために下へと下りてくる。
私は舌なめずりをして、レイの下腹を執拗に撫でた。
「ふふ、もう出てきた…」
普段、雄の陰茎は身体の内側に引っ込んでいて、交尾をする前はこうして刺激を与えてやる。
すると、ニョキニョキと陰茎が植物のように生えてくるのだ。
赤い亀頭、膨らんだ雁首、括れた茎から根元まで、私が思っていた以上の陰茎が股間から姿を現す。
「いいもの持ってるじゃない…!あぁ、私のカンは外れてなかったわ…っ!」
今までの雄の生殖器なんて比にならない。
これからレイの陰茎を迎えるんだと思うと、緩んだ口の端から涎が垂れそうだ。
性的興奮で開いた膣道を愛液が流れ、彼の太腿に落ちてシーツにシミを作る。
「じゃあ、始めましょ…?」
この時の私はただ、目の前の快楽に盲目で…
自分の欲望に、馬鹿正直に。
レイの陰茎を蜜口に添え、じっくり時間をかけて奥の方へ誘い込んだ。
濡れた膣はレイの剛直の形に満たされ、隙間もない程埋め尽くされている。
最奥を突き上げる亀頭は張り詰めていて、動かずとも私の脳天を揺さぶる快感を生み出した。
「あ、ぁあっ―――!」
背筋を弓なりにしならせ、腰を無意識に押し付けてしまう。
自分の体重も手伝って、体が剛直に貫かれる。
味わったことのない悦楽に口角が吊り上がり、下瞼が視界を狭める。
肉芽をレイの恥骨に擦り付け、腰を揺らせば子宮口もコリコリと刺激を受ける。
「はぁん…気持ちいいわ…こんなの、初めてよ…」
元々あって無いような理性の鎖を引きちぎり、腰を浮かして陰茎をギリギリまで引き抜く。
そして重力まかせに体を落とすと、膨れた鏃が僅かに子宮内へ侵入した。
「ああっ!あんっ、あ、あひっいああ、」
息が浅くなる程の圧迫感が押し寄せて、全身が快感に打ち震える。
その感覚を味わいたくて何度も同じ動きを繰り返し、レイの腰の上でよがり狂う。
うっとりして彼の顔を盗み見してみると、目が合った瞬間に視界が回った。
彼の肩越しに高い天井が見え、組み敷かれたのだと理解する。
「…女王様、お忘れではないでしょう…?」
私の胸に大きな手が乗せられ、やわやわと揉みしだかれる。
ガツンと子宮を撃たれ、肉壁が痙攣する。
レイは私をじっと見て、無表情で語りかけた。
「俺と会う前に交尾をした雄のこと…」
「あなたと、会う前に……?」
快楽に蕩けた思考回路を急いで修復し、殆ど忘れかけていた雄の存在を思い出した。
そうだ…注がれた精液を返還してやったあの雄だ。
「あの雄が、どうかしたの?」
するとレイは、嘲笑うかのように薄っぺらい笑顔を見せ、陰茎を最奥にグリグリと押し付ける。
「んんっ…!!!あっ、」
再び甘い痺れに身を任せようとした時、彼の思い詰めたような声がして何とか意識を保った。
「…あいつ、俺の親友だったんですよ。ずっと女王様と交尾するのが最高の名誉だって言って…でも、屈辱を受けて死んだ。」
「…!」
「三日間悩んで…俺があなたに仕返ししようって決めたんですよ…。」
「仕返しって、あなた、分かってるの…!?交尾が終われば、」
「知ってますよ。分かってて許可したんです。」
レイの目に迷いは一切なく、恐怖の色も窺えない。
常軌を逸した彼の宣言に私の方が怖さを覚えた。
(死ぬのに、仕返し…こいつ、頭おかしいわ…っ!)
咄嗟に彼の体を押し返そうと伸ばした手を捕まえられ、シーツに縫い止められる。
絡んだ視線が冷たくて、全身の熱が奪われていくようだ。
口をパクパクさせて狼狽える私の耳元に彼の微笑みが近付き、儚げな重低音で囁いた。
「だから…俺が壊します。」
「ぁ…!!」
子宮口にピタリと密着していた亀頭が離れ、もう一度スピードをつけて戻って来る。
肌がぶつかる音が部屋中に響き、突かれた衝撃が全身を駆け巡った。
「ひぃッ、あぁあ――!!」
目の奥で稲妻がバチバチと光る。
股間に熱が籠り、ナカが痙攣して陰茎を締め付けた。
生まれて初めて体験した絶頂に背中が反り、膝が笑う。
「…もしかして、イッたんですか?なんだ、案外呆気ないですね。」
喉の奥で笑い声を零すレイが面白そうに言う。
「ナカ、きゅっきゅって俺のこと美味しそうに締めてますよ…?特に奥がヒクヒクしてて蠢いてます。そんなにイイんですか?奥を突かれるの。」
「ぅ、あ…はぁん…あ、」
「その喘ぎ声が聞こえなくなるまで、離しませんから…」
生理的な涙でレイの顔がぼやけ、よく見えない。
だけど何となく、彼は笑っていると思った。
それこそが、自らが犯した罪に身を焼かれる前兆だった――――
「ひギィ、あんぁあ!あ、あっ、ああ!」
体がピッタリ重なって、逃げる隙もなく媚肉を嬲られる。
出入りする雁首がGスポットや弱い場所を引っ掻き、その度に体が魚のように跳ねた。
身動きがとれず、暴れて快感を発散できないために喘ぎ声が大きくなる。
「ああぁっんああっ!!あん、ああ―――!」
レイの肉棒は強靭で、全く果てる気配がない。
硬く主張する乳房を好き勝手に弄ばれ、長い指が胸を翻弄する。
「みっともない喘ぎ声を出して、女王として恥ずかしくないんですか?」
「ああ…ひっ、あああ、あん、あっ!」
揺さぶられる体が悲鳴を上げている。
肉筒を蹂躙する肉棒に、段々恐怖が込み上げてしまう。
何度も達して痙攣する壁を休まず掻き回し、それでも誇らしげに脈動する彼が怖い。
「この体制飽きたんで…変えます。」
「んんっ―――…!」
肉棒を抜いた瞬間が引き金となり、熱くなった秘部が潮を噴く。
レイは一つ傷の入った翅を広げて上に避難し、ギリギリ当たらずに済んだ。
潮はびちゃびちゃと尿のような音を立てながら、空中に放物線を描いてシーツに落ちる。
「あ…あ、ア……」
「危うく俺にもかかるところでしたよ…いきなり噴くなんて節操が無いですね」
レイは意識が定まらない私をうつ伏せにして押さえ込み、まだ潮をチョロチョロ零し続ける秘裂に肉棒を挿し込んだ。
再び感じた圧迫感が心地よくて、私は四肢を放り出して彼の肉棒を再三搾り込む。
正常位とはまた違う場所に肉棒が擦れ、もう目を開けてはいられない。
「あ、ぉああ…ん、ひぁ…」
始まった律動に漏れる嬌声は段々掠れて勢いを無くし、ナカを撃たれる時に合せて声が出るだけ。
それでも襲い掛かる快感は強烈で、体の中で激流となって神経を沸騰させた。
腰を打ち付け子宮口を連打し、動かない私を徹底的に叩き潰そうと、レイがその猛りに力を集中させる。
より肥大した亀頭が私のナカを我が物顔で暴れ回り、とめどない愛液をジュポジュポと蜜口から零れさせた。
堪え難い快楽の大嵐。
快感を通り越して最早苦痛だ。
私は自分の行いを悔やみ、そして屈服した。
「…どうやら、限界のようですね。壊れてください…女王様。」
レイが背後で小さく呟くと、肉槍が一際強く奥に押し込まれ、戦慄するほど深い場所にぶつかった。
舌を突き出し、爆発した脳が真っ白にショートする。
「んァぁあああっ――――!!」
部屋に響いたこの叫びは一体誰のものなのか…
自分の声だと分かった時には、私は意識を飛ばしていた。
「……もう終わったのか。全然手ごたえ無かったですね…。」
全身を痙攣させてシーツに沈んだ彼女を冷酷に見下ろし、レイは溜息を一つ。
ただの屍のように動かない彼女は、女王の面影など一切見受けられない肉人形だとレイは揶揄した。
「俺の役目はもう果たせたんで…」
レイは乱暴に猛りを撃ち付けると、彼女の子宮に命の飛沫を解き放つ。
白い灼熱の禊を時間をかけて注ぎ、未受精卵にねっとりと粘液を与えた。
「ぁ、ぁ…」
意識が無くても喘ぐ彼女を最後にもう一度串刺して、レイは彼女を離した。
やり切ったのだ。
何も残したことは無い。
「…サヨナラです。」
静かな部屋に、哀しく佇む別れの言葉。
この夜の後、レイの姿を見た者は誰一人としていなかった――――
「女王様、お気に召されることはございません。」
私の側近が慰めの台詞を言うが、心に開いた穴の蓋にはなってくれない。
レイに抱かれた夜が明け、働き蜂が巣の近くの地面を探索していた時に見つけた翅。
快感の渦の中でかろうじで見えた、彼の傷が入った翅だった。
それを戒めのように壁に飾り、産卵の時が迫った今でもこうして眺めている。
彼は何を思って命を落としたのか、悶々と時間を費やして考えずにはいられなかった。
「女王様は我が儘でこそなのですよ。いつまでもメソメソしていては、他の蜂達も心配してしまいます。さ、巣の準備ができたので行きましょう。」
「…ええ。」
同胞のために散る事を選んだ雄蜂の姿を一人一人思い浮かべ、私は産卵部屋へと自ら歩みを進めた――――――