-
出会い
-
参った。
迷った。
夕方、初めて訪れた街の路地でおれは立ち尽くした。
昼過ぎにこの島に到着したおれたち白ひげ海賊団は、ログの調整と久々の陸を満喫するため、ひと月の滞在をすることになっていた。
運良く自由行動組だったので、軽く仕事を片付けてから意気揚々と街散策に出掛けてきたのだが。
何人と連れ立って歩いていても、各々自分の興味を持った店を見つけて次第にばらばらになり、ビスタが武器屋に消えたところでおれはいつの間にかひとりになっていた。
別に寂しくもなんともないので、折角だから裏路地の方まで見てみよう、何一度歩いた道だ、間違いはしないだろう―――などと考えたのが敗因だったと思う。
完全に迷った。
夜はとりあえず島で一番でかい酒場を貸し切って宴会をするはずで、場所もしっかり確認したはずなのに。
予想外に、この街は蜘蛛の巣のように複雑な路地の作りになっていたらしいのだ。
迂闊だった。
幸いなのは、どうやら面倒くさいヤクザな野郎や頭の悪そうなガキどもがここには少ないこと。長めに滞在する街での揉め事はなるべく避けたい。
さて、どうしたものか。
とりあえず足を進めながら考える。立ち止まっていては、いつまでも状況は変わらない。
それにしても、静かだ。
非常に残念なことに、近くに人の気配を感じないくらい静かだ。
・・・廃虚地区?
イヤ大丈夫だ、なんか手入れされてそうなプランターとか置いてあるし、神経を集中させれば微かに屋内に人の気配もある。
ただ、なんとなくだがこのあたりは老人が多いんだろうと推測する。気配がそんな感じだ。
ということは、まだ夕方とはいえこんな時間に外を出歩くことは少ないだろう。
この時間に老人の家を訪ねて道を訊くのは何となく気が引ける。何となく。
どうしたものか。
と、ふと目を動かした路地の先に、明らかに扉が開いているであろう量の光が見えた。
まさか、開いている店が、というか店があるのだろうか。
一縷の願いを込めてそちらに足を向ける。
予想通り扉を開け放っていたその店からは、少しばかりカビ臭い埃っぽさがあった。よく見れば、古めかしい看板に『books』と書かれている。本屋らしい。
一応オープンの表示があったので、営業中なのだろう。若干怖かったが、おれは思い切って店に足を踏み入れてみた。
天井まで届く本棚に、ぎっしりと本が並べられている。ぱっと見ても新品でないことはわかる。どうやら古本屋なのだろう。
やはり埃っぽい店内を見回しても客らしい人物はいない。
が、人の気配はある。
ゆっくりと足を進めると、レジの傍の脚立に、人を発見した。
長い黒髪を後ろで軽く束ね、全体的に地味な感じの服の上からエプロンをつけ、脚立の上で爪先立ちになっている。
ちょうどおれが見ている方の腕を伸ばしているので顔ははっきりは見えないが、あの身体つきは女だろう。
ちょっとラッキー。
加えて老人でもないのだから天の助けだ。
これなら気兼ねなく道を尋ねられる。
と思い、声をかけた。
「なぁ、」
「えっ!?」
「あ」
「あっ」
―――ドサドサドサッ
本が雪崩堕ちて、床に散らばる。
埃っぽさが一層強くなった。
ついでにその女も床に落ちていた。
これが、ファーストコンタクト。
------------------------------
サッチ連載!
そんなに長くならない予定ですのでどうぞお付き合いくださいませ^^
20101108
20180402 再掲