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結局気になるあの子
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朝、街の酒場から戻りモビーディック号の甲板におれはいた。
昨日はこれでもかってほど飲んだのに、全く酔えず二日酔いにすらならなかった。
ついでに眠れもしねぇ。
気付けば朝日はお日様になっていて、酔い潰れてたやつらがのそのそと起き出してきた。
ちきしょう、人の気も知らねェで。
呑気に大あくびをかますやつらにイライラしつつ街の方向を睨み付けていると、特大あくびをしながらエースが近付いてきた。
いい具合に人の神経を逆なでしてくれるやつである。
「うーっすって、ウワァ・・・」
「・・・んだよ」
「鏡見てみろよ」
「ただのイケメンしか映んねーよ」
「いや、ただのフケメンの間違イタタタタタギブギブ!!!」
「お兄さん耳が遠くて聞こえなかったんだけど、エースくん、今何て?」
「サッチはイケメンです、アンチエイジング!!!」
「よろしい」
パッとアイアンクローを掛けていた手を離してやると、エースは勢いよくおれから離れて大袈裟に肩で息をした。
ロギア系能力者のくせに、なんでこういうときだけ甘んじて受けるんだこのガキは。まぁ、そういう馬鹿なとこはガキ特有の可愛げがあっていいとは思うが。
・・・可愛げ。
あー、くそ。
また思い出しちまった。
「何だよサッチ、振られたくらいでそう落ち込むなよ」
「だーかーらー、振、ら、れ、て、ね、ぇ、よ!!」
「ギャァァァいちいち殴んなよ馬鹿サッチ、リーゼント!!!」
「うるせ」
「えのはお前ら2人だよい」
「っでッ」
ゴチン!
おいおいいつからおれの頭は打楽器になったんだ。
派手な音を奏でた後頭部をさすりながら振り向けば、わかっちゃいたが我らが白ひげ海賊団、一番隊隊長様が腕を組んでこちらを睨んでいた。
「あにすっだよ!」
「騒音なんだよい、お前らの怒鳴り声は」
「だからっていきなり殴るなよなー・・・」
呆れたような視線を向けられると、非常に腹が立つ。
ただでさえ今おれは苛ついているのに、拍車をかけるようなことはしないでもらいたいものだ。
「エース、今日二番隊は甲板の掃除だろい」
「げ、そうだった」
「はやく行けよい。四番隊は」
「生憎今日もフリーですぅー」
「・・・そうかよい。だったら」
「あ?」
一瞬、何が起きたのか自分でも理解出来なかった。
気付けばおれの身体は宙に浮いていて、あっという間に重力に従っていた。
どうやらマルコのやつに蹴っ飛ばされて、船から落とされたらしい。
まともな受け身も取れずにべしゃっと地面に激突した。普通に痛い。普通は痛い。
おれはマルコやエースのような能力者ではないのだ。強いという自負はあれど、結局は生身の人間なのだ。そこのところ、こいつはわかっているんだろうか。
「てめェ、マルコォ!!!」
「邪魔だからどっか行ってろよい」
云い捨て、さっさとマルコは身を翻し船内に戻っていった。エースが爆笑していた。あとで絞める。
「・・・おー、痛ェ」
何様おれ様なマルコに抗議をしても、どうせ流されるだけだ。
仕方なし、強かに打ちつけたケツをさすりながら立ち上がる。ええい、痔にでもなったらどうしてくれるつもりだ、あのパイナップル。
「・・・あー・・・」
いつの間にかエースも姿を消していた。
マルコに云われたとおり、掃除に行ったのだろう。掃除サボリはペナルティーがあるので、意外とどの隊も真面目に取り組む。
そうしてひとり、地上に取り残されたおれは。
「・・・・・・」
悩んだ。
悩んで。
「・・・あーくっそ!」
結局、街へと足を向けた。
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あんな地味な女の顔が見たいだなんて、おれもどうかしてる。
20101109
20180402 再掲