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つまりそういうこと
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なんだかんだと理由をつけて、レンのもとに通うようになって早5日。
聞いてください。
実はまだ、手を握る以上のことはしてません。
「・・・病気・・・?」
「違ぇぇぇよ」
「いやだって、サッチが? 5日も連続で会ってる女に手ェ出してないとか・・・ないだろ」
「うるっせェな・・・」
おれだってわかってんだよ、そんなこと。
夜、船内の食堂。
全くもっていつもの調子が出ないことにもやもやして一人酒で気を紛らわせていたところにやってきたのはエースだった。小腹が空いたらしい。晩飯あんだけ食って数時間で小腹が空くって、お前の胃袋は宇宙か。
そして、普段ならば絶対にこんな愚痴めいたことをエースになんぞ話さないのに、うっかりこぼしてしまったおれは、思いの外参っていたようだ。
今となっては、憐れみの目でおれを見るエースが腹立たしくて仕方なかった。
「死ね」
「勝手に愚痴っといてそれかよ」
「お前に話したおれが間違ってた。すみませんでした」
「ウアァ地味に傷付く」
「・・・・・・・・・。」
・・・ええい。
腹立つ。
いちいち反応するな。
地味、って単語に、反応するな、おれ!
「・・・お前ら、こんな時間に何やってんだよい?」
「お、マルコー」
そこに姿を表したのは、マグカップと書類を片手に持ったマルコだった。
馬鹿真面目なマルコ隊長殿は、どうやらこんな時間まで仕事に勤しんでいたようだ。ご苦労なことである。
マグカップは空のようなので、ここには茶を汲みにでも来たのだろう。
・・・茶。
そういえば、二回目に会ったときに振る舞われた、あいつの淹れた茶はうまかったなぁ。
「・・・・・・」
「・・・おい、ほんとお前、大丈夫か?」
「あ?」
「や、イロイロ我慢しすぎておかしくなっちまったんじゃねーの?」
「あほか」
「・・・どうかしたかよい」
グラスに入っていた残りの酒を一気に煽る。それなりに強い酒のはずなのに、また酔えない。
マルコはさり気なく酒瓶をおれから遠ざけて置き、酒瓶とおれの間に腰を下ろした。お節介なやつである。
「サッチがな、5日も続けて通ってる女にまだ手ェ出せてないんだと」
「・・・病気かよい?」
「エースと同じこと云うんじゃねェよ」
吐き捨てると、マルコはエースをちらっと見て複雑そうな顔をした。まさか自分がエースと同格扱いされるとは思ってもみなかったんだろう。ざまあみろ。普段の仕返しだ。
ケケケと笑って氷だけが入ったグラスを揺らす。
カラン、という音が、やけに虚しく響いた。
多分に、思う。
おれは別に、レンとどうにかなりたいわけではないのだ。
ただ、傍にいられたらそれで十分で、レンが楽しそうに幸せそうに笑っていれば、云うことはない。
抱き締めるだとかキスをするだとかそれ以上のことだとか、望まないわけではないけれど、何だかんだ云っておれは現状に満足しているのだろう。
今回は、あまりにもいつもの女関係とは違いすぎて慣れないだけで。
きっと、もう少しもすればこれが当たり前になるのだ。
何も、抱き合うだけが愛情ではないのだから。
「・・・まぁ、でもよい」
と、勝手に自己完結させていたおれに、マルコはぽつりと呟いた。
「それだけその女が大事ってことなんだろうよい」
・・・真理だ。
思わず頷いてから、何故かマルコに負けた気がして無性に悔しくなった。
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マルコはきっと誰かが悩んでたらさり気なく助けてくれるよね。つまり彼がヒーローさ(黙れ)
20101112
20180402 再掲