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僕の家族に紹介します
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「………」
あんぐりと口を開けたまま固まっているレンは、どんな欲目で見ても間抜けとしかいいようのない顔をしていた。
ただでさえ美人でも可愛くもねぇのに、更に残念なことになっている。
「…グララララ」
「……!!?」
親父が笑うと、今度は驚いたように肩を震わせた。
意味がわからない。
今更ながら、レンをこんなところに連れてきたのは浅はかだっただろうかと後悔をした。
いや、後悔というのは言い過ぎだ。
ただ、なんというか。
「おい、レン?」
海に落ちたおれたちは、とにかく急いでモビーディック号に向かった。
おれはともかく、レンはそのまま放っておいたらすぐに風邪でも引きそうな気がしたのだ。
ずぶ濡れのおれたちを目にしたナースのひとりが、人攫いのようにレンを船内に連れ込んだのは予想外だったが。そしておれが放置プレイされたのも予想外だったがめげない。
そして、しばらくナースの部屋からドタバタという騒音とキャーだのギャーだのタスケテーだのという悲鳴が船に響き渡ったが、少しするとピタリと止んだ。
逆に怖かったが、ナースに確認するのも怖かったので合掌しておいた。見捨てたわけじゃない、断じて。
それから更にしばらくして出てきたレンは半泣きだったが、乾いた服を着て普通だった。
何があったと目で問うたが、軽く目を逸らされたので小さく頷いておいた。
多分着せ替え人形にされて遊ばれたんだろう。あいつら初対面でもお構いなしかよ、さすが海賊のナース。怖い。
ところで、この時点でおれがレンを船に連れてきたことはみんなに知れ渡ってたわけだが、どうやら親父も興味津々だったらしい。
以前ぽろりと気になるやつがいる、と話してあったのが、更に親父の好奇心を擽ったようだ。
着替えたら甲板集合、とニヤニヤ笑うイゾウに告げられ、死刑宣告を受けた気がした。
別におれは、レンを見せびらかしたかったわけじゃないのだ。
美人でも可愛くもナイスバディでも何でもないただの、普通の女。
船に連れてきたのは本をやるためであって、断じて、見せびらかすためでは、なくて。
しかも、レンは、本当に本当に普通の女だから。
おれたちは海賊だ。
少なからず人相は悪いし、一般人からしたら恐怖の対象になることくらいわかっている。
更にここは、四皇白ひげの総本山。
ビビるだろう。
普通ビビるだろう。
そんなわけでおれの後悔というか失敗は、レンを怖がらせてしまったであろうこの事態についてだった。
だが、親父が呼んでいる以上無視は出来ない。
それに一度くらい顔を見せなくてはならないのはわかっている。
が、出来れば親父だけとか、せめてマルコくらいまでで収めておきたかったというのはおれの我が儘なんだろうか。
そして心の中で理不尽な現実に対して万の文句を呟きながら、レンと共に踏み入れた甲板。
レンは突然の事態にそわそわした様子で辺りを見渡しており、ピタリとひとりに視線を止めた。
親父である。
そして冒頭に繋がるわけだが、固まったレンの肩を軽く揺すると、レンはハッとしたようにおれを見た。
その目はキラキラしていた。
え、何で。
「サッチ」
「おぁ、なんだよ親父?」
意味がわからないレンに、どんな反応をすればいいのかわからず困っていると、急に親父に呼ばれてびっくりした。
だが親父を見て顔が引きつった。
嫌な予感しかしない。
「そいつが今ご執心の」
「ウワァァァァァァァァァァ!!??」
「うるせぇよい」
「あでッ」
そらみろ嫌な予感的中な上に殴られたよ。痛ェよこのクソパイナップル野郎。
「…手加減しすぎたらしいな」
「あれっおれ口にしてた?」
「死ね」
もう一発殴られた。理不尽だ。この世界辛い。
容赦のない鉄拳を見舞ったマルコを睨みつけるが、シカトされた。何これイジメ?
しかし隣でこんなことをしていても、レンの興味はまったくこちらに向いていなかった。
視線は相変わらず親父に向かって、キラキラしている。
本当に意味がわからない。
「グラララ、おい、女。名前は何てんだ?」
「………!」
「おれァ白ひげだ」
「…えっと、レン、です…!」
「そうか、レンか」
「は、はいっ!」
「…グララララ!」
何故か意気込んで応えるレンに、思わずといったように親父が笑った。
間違ってもこの船にはいないタイプの人間だから、珍しがっているのかもしれない。
すると、しばらくもじもじしていたレンが、あの、と意を決したように、しかし小さく手を挙げた。
質問、という感じである。
「なんだ?」
「あ、あの、えっと…」
煮え切らない。
ちらちらと親父を見ながら、云いたい、でも云えないというように指先をいじっていた。
しかし親父が辛抱強くレンの言葉を待っていると、漸くレンは口を開いた。
「あの、白ひげさんに質問が!」
「…なんだ?」
天下の海賊に質問。
こいつ意外と怖いもの知らずだなぁと関心した直後、おれは、というかこの場にいた全員が脱力した。
「身長、どれぐらいあるんですかっ?」
もっとほかに聞きたいことないわけ、と思ったおれに非はないと思うんだが、どうだろう。
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対面式(^ω^)
20111009
20180402 再掲