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海軍准将と海賊
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「サン准将ばんざーい!!」
「昇進めでたーい!!!」
「というわけで、くらえ麦酒シャワー!!!!!」
「ぎゃーっ!!?」
ブワッシャ―――ッ!
食堂のドアを開けたブランが即座に脇に避けてから私を食堂に押しやった意味を理解し、ボーナス査定のメモにマイナスをつけることを決心した。
あんた仮にも上司に何すんだ。
ぽたぽたと酒の滴る髪をかきあげると、ものすごくアルコール臭かった。
「おめでとうございます、准将」
「・・・最早皮肉にしか聞こえないのは何でかしらねぇ」
「お疲れなのでは?」
「うん、とってもお疲れですけどその原因わかる?」
「今度火拳に加減するよう云います」
「何をだ!!? って・・・もういいわ・・・」
しれっと云うブランを睨みつけるが、どうせ意味はないのだと思うと怒る気もしない。
めでたいと云いながら、主役であろう昇進組の上司をそっちのけで宴会を始めた部下たちに説教をするのも最早面倒だった。だってこいつら云うこときかないんだよ。
仕事はちゃんとやるからいいけど、こういう宴会だの普段の生活での無礼講っぷりは半端ない。多分、真面目なモモンガさんやセンゴクさんが見たら卒倒ものだと思う。
彼らを選んだのは私自身だし、ある程度の自由は保障する約束だったけど、何だか思ったより自由度が高くてびっくりだ。
いや、いいんだけどね、仕事はしてくれるし。うん。
そう思わないとやってられないっていうのはやや切ないような気がした。
はぁ、とひとつため息を零すと、そういえばとブランが呟く。
「何?」
「異動指令はないようですが、行動範囲の制限もなしですか?」
「あー、一応はないけど」
そう、異例中の異例である私の昇進は、驚くことに何の条件提示もなかった。
というか、将軍の位についた人物が巡回であるのはやはりどう考えてもおかしい。
クザンさんたち大将はもちろん、おつるさんたち中将方も、基本はマリンフォードを拠点として動いている。
マリンフォードは政府の中心だ。
ここにいれば、どんな情報も真っ先に耳に入るし、会議があれば即座に集まれる。
なのに私は、巡回船のまま、ブランの懸念のような行動範囲の制限もかからなかった。
このことから予想されることはふたつ。
ひとつは、単に上層部の気まぐれで私を昇進させただけで、重要な会議への参加は特に求められていない。
もうひとつは、なんらかの考えがあり、私が自由に外で動けたほうが都合がいい。
個人的な希望では後者であってほしいところだし、実際この考えは合っているのだろう。
重鎮が集まっているのは確かに重要だ。
しかし何があるかわらないこの時代、自由に動き回れる人物がいたほうが何かと便利であるのも事実なのだ。
それに私なら、今の上層部の考えを十分理解しているから使いやすいだろうし、私も動きやすい。
そう思う反面、私を邪魔者扱いする人たちがいることも事実だから、なんとも云えず複雑な気分だった。
昇進すれば発言力も上がるが、責任も大きくなる。
ケチのつけいる隙も大きくなるのだ。
そこに目を付けられていたら、と思うとげんなりするが、そんなことを気にして腐っていたら仕事なんて出来ない。
開き直りも時には必要である。
私は私に出来ることをするだけだ。
周りの目も評価も関係ない。
ただ、自分の精一杯を。
「ま、特に何もないけど、いざという時のために今まで以上に本部との連絡は密にしないとね」
「わかりました」
「ま、あとは考えてもしょうがないから、気楽にやりましょ」
「了解です、将軍」
「・・・むず痒いわね、それ」
「何がですか、将軍」
「やめんか」
忠誠ってなんだろうって、最近思う。
今度、ノートにびっしり慇懃無礼って書かせてやろうかとぼんやり思った。
「・・・ともかく、もう後には引けない」
「・・・そうですね」
大佐と、准将。
階級はひとつしか違わないが、その責任の差は計り知れない。
私はすべてを承知で、昇進を受け入れたのだ。
やんややんやと大騒ぎで酒を浴びる部下たちを見渡し、改めて考える。
彼らの命を預かること。
彼らが命を預けると云うこと。
私はここにいる全員の命を、この肩に背負っているのだ。
重い。
けれど、何より頼もしい仲間の命。
護りたいと思う。
護らなければならないのだ。
護るべきは民間人だと云われればおしまいだが、それは部下を護ることにも同義だと思う。
彼らなしには、護るものも護れないのだから。
どんちゃん騒ぎ中の酔っ払いどもは、愛すべき部下だ。
誰一人失わないよう、私はもっと強くあろう。
からかわれるから決して口にはしないけれど、私は心にそう誓った。
強く。
「ってオイ」
まだ出航してないので、実はここはマリンフォードである。
こんな騒ぎになってるだけでも冷や汗ものだというのに、私は見てはいけないものを見てしまった。
だって。
「何してんだ・・・!!」
「あ、よォサン!」
よォじゃねぇよ。
脱力した私を責めないでもらいたい。
もう一度云う。
ここはマリンフォード、海軍の総本山なのだ。
なのに、何故。
「自分の立場をわきまえなさいよ、馬鹿エース!!!」
怒鳴りつけたところで反省するようなやつではないけれど、もうなんていうか、脱力するしかないじゃないか。
もちろん、このあと全力で出航した。
(祝いにかけつけた、なんて笑われても)
(情報がはやすぎるというか)
(あーもう、悩んでるのが馬鹿みたい!)
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フリーダムに神出鬼没
20111127 from Canada
20180402 再掲