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花に華を<街灯の光>rei
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バレエ教室の帰り道、紗也に聞いてみた。
「ひとつしたの妹が居るなんて、
ひとことも聞いてない。長年の親友なのに、なんて秘密だ!」
珍しく紗也はちょっと間を置いて
「んー、しばらく、別に住んでたから」と言った。
聞かないほうがいいのかな、と
なんとなく思った。
でも なんだか気になって、折衷案。
「かわいい妹さん。お礼に、こんどケーキでもご馳走しなきゃ」
紗也は笑って付箋に携帯のアドレスを書いてくれた。
「直接、誘ってやって?まだ友達すくないと思うの」
その付箋にスミレの絵がついていて
胸がきゅっ、となった。
紗也が幼い頃から目指す華やかな世界の花。
自分も?と最近思っている。
紗也の瞳に映るその世界は、いつも眩しく輝いている。
「…沙良ちゃん、かぁ。
顔のつくりは似てるのに、紗也と雰囲気が違うね」
「そうね、そうかもしれない。
でも、れいの兄弟だってみんなイケメンだけど
雰囲気ちがうじゃない」
「まあ、ね」
「…あのこ、小児喘息がひどくて
ほんとうにもう死んじゃうっていうくらいだったの。
それで親戚がカナダの東海岸にいて
そこに行ってみたら発作が出なかったのね。
それで、長く預けられてたの。ちいさかったのにね」
「…そっか…」
「げんきになって嬉しい。でも時々怖い」
なにが怖いの、とは聞かなかった。
「もう元気になったんだ?」
「うん、激しい運動はダメだけどねー」
さっそく今晩メールしよう、と思って
その付箋をカードケースに挟んだ。
紗也は呑気に鼻歌なんて歌っている。
しかも、アニソン。
さっきまでの、儚いジゼルはどこに行ったんだよ、と思う。
紗也は同じ歳だけど、いつもわたしの少し先を歩いている。
バレエも、人生も。バレエの上手さは抜きんでているけど
ずっと近くにいると、それだけの努力をしているからだ、とわかる。
「…紗也はどうしてそんなにブレないかな」
「え?なんで急に?迷う理由がないもの」
「娘役に向かって、一直線だよね」
「そうよ、れいはどうするの?」
「…」
言い淀む自分がいる。紗也みたいに迷いなく居られない。
その細い体に潜む情熱がまぶしい。
紗也は「一緒に行こうよ、音楽学校に」とは絶対言わない。
いままで、町内会のお祭りもラジオ体操も、バレエ教室も
なんだって「一緒に行こうよ!れいちゃん!」と誘うのが常だったのに。
たぶん、
紗也は、
本当に本気だから。
誘って、誘われて行くような生半可な世界じゃないのだと
その華奢な背中に無言で言われているような気がする。
鞄の中の、へたってきたバレエシューズ。
大人になっても踊るための道は、そんなに多くはない。
あぁ、
見上げる空が青い。
お腹空いたな。
「紗也」
「なによ、れい」
「今日のジゼル、すごい綺麗だった」
「……!」
街灯の光に照らされた紗也が
白い歯をみせて「ありがと」と言った。