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花に華を<夕暮れの光>you
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ぴるるん、と1回、電話が鳴った。
鳴りやまないのはほとんど、姉の紗也からの電話で
一回で切れるのは他の誰か。
messageの送信。
<沙良ちゃん、れいです。甘いモノ好き?あしたひま?食べに行こう>
とてもシンプルなお誘いで笑ってしまった。
あんなに綺麗なのに飾らない感じなんだなぁ。
姉の紗也も体育会系だけど
たぶん同じ感じ。
わたしは小児喘息がひどくて
カナダの親戚の家に
数年間預けられていた。
寂しくなかったと言えばうそになるけれど
小学校で幾度か「死んでしまうほどの」発作を経験していたので
幼心に、あれよりはまし…というあきらめがあった。
輸入業を営む両親も仕事の関係でよく顔を見せてくれたし、
紗也は好きな舞台のDVDをよく送ってくれた。
空気のきれいなところで、
いままでできなかったことをするのは楽しかった。
動物に触ったり、走り回ったり。
大きくなるにつれ
東京でも発作がでなくなり
中学入学を機会に本帰国した。
両親は入れ替わるように海外出張が多くなったけど
姉と二人の生活はけっこう楽しい。
日本の友達はこれから増やそう。
まずは、返信しなきゃ。
<沙良です。ぜひ行きたいです。>
そう書いて、送信ボタンを押した。
すぐに、
<じゃあ明日16時半に校門のそばのベンチで!>と
返信が来て
うれしくて、わくわくした。
次の日の夕方、
すこしはやめに待ち合わせ場所へ行くと
彼女はもう待っていた。
ちょっと緊張する。
「沙良ちゃん」
「なんて呼べばいいですか」
「紗也は、れい、って呼んでるよ。同じじゃだめ?」
「……先輩を呼び捨ては……」
「さんでも、君でも、様でもなんでもいいよー」
「……れい…ちゃん」
ははっ、とれいちゃんは男の子っぽく笑った。
眩しそうに笑うとまわりの景色が変わるくらい
豪快に端正な顔を崩してわらう。
きっと男子にも女子にも、人気があるんだろうな。
紗也だって、れいちゃんのことは誉めるばっかりだ。
はじめて「れいちゃん」と呼んだこの日、
わたしたちは仲良く吉祥寺で
サーティーワンのアイスクリームを食べた。
れいちゃんは何も考えずダブルを頼み
レモンシャーベットの上にロッキーロードをのせてしまって
「混ざっているところがびみょう!」と笑い、
その部分をスプーンですくってひと口、くれた。
そのとき、気付いた。
れいちゃんの手は、大きくて、きれいな手。
「おいし…くない」
「でしょ!」
最初の緊張はどこへやら、
ふたりで笑って笑って、なかよく電車に乗って家に帰った。
ずっとこうして、笑っていられたらうれしいなぁ、と
電車の窓の夕焼けを見ながら思った。