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花に華を<春の光2>you
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れいちゃんが先週、
関西に行ってしまった。
引っ越し、あたらしい 生活、
どんなに忙しいだろう。
紗也が亡くなってからいつも気にかけてくれた。
甘えてばかりじゃダメ。
わたしもしっかりしなきゃ。
そう思って美大の準備校を
いちばん難しいところに替えた。
できるところまでやってみよう。
窓から見える葉桜は
つやつや陽をあびて光ってる。
両親は紗也を思い出すのがつらいのか
海外出張が増えた。
寂しいけど気持ちがわかる。
世界中あちこちから、
わたしのために手紙や素敵なものがとどく。
珍しい石鹸、きれいな刺繍。
わかってる。
わたしはわたしで
人生を進まなきゃ。
ぴるる、ぴるる、ぴるる。
携帯の音にびっくりする。
着信の画面でひかる名前はれいちゃん。
「はい」
「沙良?」
1週間ぶりの声が、もう懐かしい。
「うん」
「げんき?」
「うん」
全く説明がつかないのだけど、
絶妙のタイミングで
優しく「げんき?」と聞かれたら
どんどん勝手に涙があふれてきて
とまらなかった。
「沙良、泣いてるの?」
「ううん」
「嘘ばっか。見送りのときニコニコしてるから
あやしいなーって思ったんだよね」
「……」
「沙良は、
ずいぶん時間がたたないと、泣かないから」
なんだか恥ずかしい。耳が熱い。
そんなわたしが見えているかのように
れいちゃんはくすっ、と笑って
いま学校のかばん持ってる?と聞いた。
その内ポケットみてごらん、と。
「え?」
言われたところを開けると
薄紙に包まれた細い金の鎖…
ペンダントが出てきた。
「れ、れいちゃん、これ…?」
泣くころだと思って、とれいちゃんは言う。
「しばらく、ちょっと遠くにいるから、
それはお守り」
ああ、この人はこんなふうにわたしを甘やかす。
「きれい…」
「似合うと思う」
ありがとう。
金の細い鎖の先には、
ちいさな「R」がついていた。
Rの文字の最後、はねたところに
キラキラの石がついている。
「しばらくあえないけど沙良、
わたしのこと忘れないように首からさげてて。
あ、もちろんわたしのイニシャルだから!
沙良のじゃないから」
おもわず泣き笑いになる。
忘れるわけない、と思う。
でも、言えなくて
「うん」の、一言がやっと。
神様、紗也。
優しいれいちゃんをお守りください。
わたしも
心配かけないように、精一杯がんばりますから。
「ほんとにありがとう」
「今度あうとき、つけてね!じゃあまた」
さらり、と
電話が切れる。
でも
あたたかい気持ちと
それから
美しいネックレスがわたしの元にのこる。