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花に華を<光の夜2>rei
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まっすぐクラブルームにつながる
ジャスミンの香りが漂うエレベーター。
ここで人に会うことは滅多にない。
「れいちゃん、きょう、はやかったんだね」
赤い目をしながらも
無邪気にこちらを見上げ
嬉しそうに言う沙良を
いますぐ抱きしめてしまいたいけれど。
まず、ちゃんと繙かなければ。
自分の焦りも、
はじめての複雑なこの感情も。
「あの男は誰?」
「大学の…先輩」
だめだ、こんな聞き方。
「携帯いつでも繋がるって言ってたけど?」
「LINEのグループになってるの。
まえ、グループ展したから…」
…沙良が少し目を伏せる。
言いたくないことがあるときの沙良の癖。
急に嫌な感情が頭をもたげてくる。
「ずいぶん、なれなれしかった」
自分の言い方が、すこしきつい。
「れいちゃん…?」
沙良の瞳が一瞬、不安そうに揺れて
軽い後悔に襲われる。
違う。こうじゃなくて。
でも。
どんな言い方で何を伝えたら?
「れいちゃん、しんぱいしてるの?」
「もちろん」
「ごめんね、あのね。
あの…すっかり忘れてて、
れいちゃんに話さなかったんだけど。
あの人に1年くらい前に
付き合おうって言われて、断ったの。
それ以来で……さっき偶然会ったの。
だから、もうあまり関係ない人だよ。
もちろんお付き合いするような人がいたら
いちばんに紹介するよ」
まっすぐに目をみて話す
沙良の説明が
あまりに沙良らしくて簡単で。
そして自分の変な絡まりをとってくれる言葉で。
ときどき、沙良のほうが
ずっとずっと大人で冷静だ。
「……こっちこそ、ごめん。
なんか……いやな聞き方して……」
「紗也もれいちゃんも、
心配性の姉だから!」
沙良は笑う。
花のような笑顔で。
ああ、やっぱり、きれいだな。
一歩先に沙良を部屋に入れ、
ドアを後ろ手に閉めて、
カードキーをドア横の差しこみ口に入れると
部屋の間接照明と空調が、ふんわり作動する。
部屋の奥、
窓からひろがる東京の夜景を見ながら
心底ほっとする。
ここは、誰の目にも触れない。
やっと、ようやく、
沙良とふたりだけの空間。
沙良の後ろから、
少し屈んで、耳に唇を近づけた。
ふれるか、ふれないか位のところまで。
「今日、泣いてた?」
「…」
「舞台、どうだった?」
「き、きれいで」
「うん」
「かなしくて」
「うん」
沙良の、いつも小さな声が
もっと小さくなる。
それから沙良は
こちらを振り返って、言った。
「か、家族が消えちゃうのね」
そこまで言うと
まだ何かを言いたそうだったのに
沙良の目から涙がこぼれおちた。
咄嗟にその頬を両手で包んで
頬の涙に唇をつけてしまった。
そのとたん、
沙良の目が、丸く大きくなった。
びっくり……するよね……。やっぱ。
大きな目をのぞきこむ。
その瞳のなかに映っている自分。
沙良のようにまっすぐでありたい。
「ごめん、でも。観てほしかったんだ」
「なんで、ごめんなの。
とても良い舞台だった。一生忘れない」
「ありがと」
このこを、
だれにも渡したくないんだ。
「えっと、あの…れ、れいちゃん?」
いままで数えきれないくらい
おでこにも頬にも頭にもキスしてきたけれど
こうして唇を重ねるのは初めて。
ずっとずっと
沙良に
唇で触れたくて。
できればもっと深く。
許してもらえるなら、舌で。
「れいちゃん…?」
後ろから、そっと薄いニットの下に手を滑らせ、
乳房にふれると、その柔らかさに息をのんだ。
手のひらでゆっくり全体を撫でると、
中心の部分が硬くなってくる。
ちいさくてかわいい先端に人差し指をあてて、
そのかたさを確かめると
……微かな声が聞こえた。
「ん。れいちゃ…」
耳に唇を寄せてわたしも沙良の
名前を呼ぶ。
「沙良。
ずっとこうしたかった、
嫌じゃなかったら、もうすこしさわらせて?
嫌だったら、言って。やめるから」
「で、も…」
「こえ、出して?
誰もいないから。がまんしないで」
「…はずかしい… ん」
溜息なのか喘ぐ声なのか、
かすかに漏れる声は
わたしの知らない沙良の
はじめての声。
もっともっと聞きたくなる。
沙良の
形の良い耳たぶが、赤く染まっていく。
止められない。
「へんな感じ…、……………あ、っ」
触っているうちに熱を帯びてくる体と声。
ちいさな手は
いつのまにかわたしのシャツを掴んで
握りしめている。
「へん?きもち、よく、ない?」
顔を覗き込むと小さく首を振った。
恥ずかしそう。かわいくて堪らない。
「……や」
「どーしたの」
「見ない…で」
「みたい。みせて」
「…ぁ……」
ちいさく叫び声をあげて、
沙良の体の力が抜けていった。
胸だけなのに、こんなに感じてくれるなんて。
そう思うと嬉しくて、なんだか泣きそうになる。
余裕のない自分が居る。
余裕のない自分の前でも、
こんなことをしても
拒まず受け入れてくれる沙良が
愛しくてたまらない。
たとえば神様が
こんなこと許さない、と言ったとしても
誰に止められても
沙良は渡さない。
体重を預けてきた沙良を
抱き抱えて運びベッドに下ろす。
そのまま、肘で自分の体重をささえながら
華奢な体に覆い被さる。
真下にある沙良の顔をみると
赤く上気して目が潤んでいて
わたしが濡らした唇が濡れていて
くらっ、とした。
耳に口づける。優しく舐めて、噛んでみる。
耳が濡れて、その音が響く。
沙良の呼吸の音がまた乱れる。
そのまま、続けていると
甘い甘い声が響いてきた。
れいちゃ、……っ、だめ。
ごめん沙良、とまれない。
そのまま、
ゆっくり首筋をなぞって、
さっき触れた胸に今度は唇をつける。
先端は硬くなり、甘い声が乱れる。
口に含んでそっとそっと歯をたてると。
沙良の身体が微かに跳ねた。
ほんとに、
とめられない。
そのまま、舌先で転がして、そっと吸うことを
繰り返しているうちに
沙良の声は泣き声のようにかわっていく
こ、こわいれいちゃん
沙良、こわくないよ。
痛いこととか、しない。
信じて。
興奮する。とまらなくなる。
もっと、もっと、もっと、こうしていたい。
右手を下に滑らせ
下着の上から触ると、
柔らかいそこには熱くて、
ほんのわずか湿度を感じた。
触れた指でその場所を
そっと撫でる。やさしく、ゆっくり、いくども。
顔をあげると、
涙を溜めた沙良と目が、あう。
そのまま、もういちど
沙良の柔らかい舌に届くよう
深いキスをする。
右手の下の湿度が上がっていくのがわかった。
沙良の呼吸がはやい。
沙良、ぬれてる……。
もっと触ってもいい?
…れいちゃん、
やっと、といった様子で
ふるえる声で沙良がこたえる。
れいちゃんのことがこわいんじゃないの
でもわたし。
信じて。
気持ちよくなるから。
ぜったい怖くない。
もうすこしだけ、させて?
ほとんど泣き声のようなため息のなかで
沙良が言う。
うん。
れいちゃん、そばにいて。
「ここにいるし、はなさないよ」
嬉しくて可愛くて愛しくて
ちいさな熱い手を握って
体をずらして
1番熱くて溶けかけているところに
口づけた。
舌を、下着の上から探った
ちいさな膨らみに当てる。
そっと舐める。
舐めながら、
甘い蜜が、溢れるところを指の腹で撫でる。
響きは高くなる。
この甘い声は
永遠にわたしだけに届けばいい。