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花に華を<雨の光2>you
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今朝、地震の速報とほぼ同時に
れいちゃんからLINEがきた。
もう7年前の地震を思い出した。
あの日、大学から
杉並の家に帰る術はなかった。
先輩の卒業式も終わって学校にいるのは
1、2年生の課題再提出チームだけ。
コーヒーでも飲もうか、
という時間に突然大きく揺れた。
そのまま夜になり、
帰れない数人とともに
わたしは研究室のソファーに泊まった。
春なのに
桜が綺麗に咲いているのに寒かった。
充電していなかったわたしの携帯は
使い物にならなかった。
でも
うちにはだれもいないから大丈夫、と
最初に思った。
両親がこのニュースを知るのは
たぶんニューヨークが朝を迎える数時間後。
そのとき、電話をすればいい。
そしてテレビをつけると
想像をはるかに越えた事態に愕然とした。
東京はこんなに揺れたけど
関西は大丈夫みたい。
れいちゃんはだいじょうぶ
東京に戻る予定を送らせていたから
よかった。
そう思った。
そして
途切れ途切れに入る
辛すぎる情報に
震えながらなんとか少し眠った。
夜明け前にクラスメイトが
車で戻ってきてくれた。
車内で携帯を充電して、電源をいれると
着信が50件を越えていた。
れいちゃんからだった。
まだ明け方だったので
とりあえずメッセージをいれた。
「出られなくてごめんね、無事です。
電車がうごかなくて、学校に泊まりました」
送信を押して1秒たたないうちに、
ぴるるるっ、と着信した。
もちろん、れいちゃんだった。
いまでも思い出すと胸がいたい。
「沙良?ぶじなの?
全然、つながらなかった…から……」
れいちゃんが泣いてた。
次に「どんだけ心配したと思ってるの?!
なんで番号覚えてないの?」と
大きい声で怒鳴られた。
わたしはれいちゃんの声で
魔法が解けたように泣いた。
あぁ、そうか
わたしも怖かったんだと
そのとき、はじめて気付いた。
ぴるるるるっ。
「はい」
「沙良、こんばんは」
「れいちゃん、こんばんは。
朝、LINEありがとう。
東京は全然揺れなくてね、
いま、前の地震を思い出してたの」
「2011年?
沙良と翌日まで連絡とれなくて
心配で死にそうで最悪だったこと?」
「でんわくれたの、忘れない」
「…いいよ、忘れて」
あんなに泣いて怒ったれいちゃんは
あのときだけ。
「れいちゃん」
「なに?沙良」
「…電話ありがとう…」
あの日も、そして今も。
「うん」
「沙良」
「なあに?」
「大好きだよ」
「…」
「沙良?どした?」
「こうしてオヤスミナサイの電話ができて
よかったって、思ったら」
「沙良が泣くとうつるからやめてっ。
沙良、ひとりで泣かないで。
会ってるときに泣いて。
涙もぜーんぶ舐めてあげるから」
「!な、なめるの?れいちゃん」
「うん。沙良の水分はぜんぶおいし
「そっ!そんなこと言っ
「……どんな想像したの沙良?」
「もぉ、れいちゃんおやすみなさい!」
「沙良…」
「なぁに」
「沙良の夢見て寝る。おやすみ」
しってる。
本当はすごくいろいろ心配してる。
でも、言わない。
れいちゃんは
繊細。
そこもとても好きなの。