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花に華を<文月の光>rei
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7時の目覚ましが鳴った。
隣の沙良がぴょん!と飛び起きて
その振動でしっかり目が覚めた。
「おはよ、れいちゃーーん」
「…。。………………沙良~~っっ!!!!!」
「びっくりさせてごめ」
謝る沙良をキスでとめる。
でも、心配だから短めに。
なんか……安心して
泣きそうになる。何とかしきゃ。
「はい、沙良?簡潔に釈明どーぞ」
「はいっ。
最近ちょっと喘息が再発しました。
でも明け方だけで、日中はすっごく元気です。
しんどいのでステロイド吸入してます。以上」
「質問」
「どうぞ!」
「……なんで黙ってた?沙良?」
沙良は
きゅっ、と小さく唇を噛む。
「……言いたくなかったの」
その答えに思いがけないくらい
胸がズキン、と痛んだ。
「大事なことは聞かせてくれないと困る」
「うん」
「本当に今日帰るの?」
「午後会社に顔出さなきゃ」
出勤するのか……。
「飛行機?新幹線?」
「飛行機」
ほんとに、最近
紗也の妹なんだなって思う。
負けず嫌い、意地っ張り。
そして実際に強い。
でも
沙良、強いのと、これは別だよ?
「何時に出る?」
「8時半」
「……あと1時間ちょっと」なんて短いんだろう。
「うん」
「いろいろ言いたいことがあるけど」
「うん」
「とりあえず今はぜんぶ飲み込むから
ひとつだけ言うこと聞いて」
「はい」
「雨ひどいし、タクシー呼ぶから、
それで空港まで行って」
「はい」
沙良の身支度はいつもながらに、速い。
5分でバスルームから出てくる。
眉をさっと整えて
ちょっとチークをいれて
リップクリームを塗って終わり。
……簡単すぎるでしょ。
綺麗な女の子の特権だな……。
「できた!」という沙良を見ると
可愛くてつい笑ってしまう。
どんなときも笑ってしまう。
その間に淹れたミルクティーを渡して
いっしょにベランダに出る。
「れいちゃん、また雨だね」
「うん、はやくやみますように」
「やみますように」
「……もう7月なのにね」
そう、7月。
「れいちゃん?あのね、喘息は雨が苦手で……
でも夏になっちゃえば大丈夫なの」
「ほんと?」
「うん!じぶんのことはちゃんと知ってる」
「逆にさ、最近は毎朝、ああだったの?」
「……うん」
なにその秘密。沙良の馬鹿。
「これからなにかあったら
ちゃんと話してくれる?」
沙良はじっとわたしを見る。
「うん。やくそくする」
そう言って沙良がわたしの指先を握る。
手、ホントに、ちいさいな。
これ、たぶん手を握ってくれてるつもり……。
「よっ、と」
握り直して恋人繋ぎにする。
でもたりなくて、その甲に口づける。
そんなわたしをみて
沙良は笑う。
後ろには雨空が広がっている。
「雨がいますぐやむといい、
ほんとに心からそう思う」
「うん」
でも、わたしに
雨を止める力はない。
せいぜい、祈るだけだ。
まだまだこれから、いくらでも
いろんなことがあるんだろうけど。
いまこうして一緒にいられる
そのことに胸がいっぱいになる。
ついつい、
頬を撫でて、そのまま首筋も撫でたら
……夜の記憶が甦ってきた。
あんなことも、こんなことも……。
「…沙良……昨日、激しくしてごめ……」
謝ろうとしたら…沙良は
急にシャツを引っ張って
わたしを前屈みにさせて
唇をふさぐ。
ちゅっ、と可愛い音を幾度かたてて
あぁもう溶けそうだ……っていうか
だいすき。
沙良。
「してほしかったの。……れいちゃん素敵だった」
「……!」
勇敢な姫を守るのは至難の技で
困難はいっぱい待ってる。
……それでも抵抗できない。
幾度も恋に落ちる。