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花に華を《薄葡萄》rei
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「泣いていいよ!」
って、沙良に言われた。
気を遣わせちゃった。
…うん。確かに。
いろんなこと考えてた。
れいこ、凄いなとか。
美弥さん、辛いな、とか。
故障は怖いな、とか。
さゆみさんになにかあったら
とても自分が背負える気がしないこと…とか。
普段は、まず考えないことを、
色々と延々と。
勿論あれこれ考えながら
舞台に立つわけじゃない。
でも
ふいに
「いまここにいること」に
胸を締め付けられたんだ。
「いまここ」っていうのは
遥か昔の島原、
同時に
東京宝塚劇場の板の上。
カミサマについてだって
考えてた。
カミサマ、言わせてもらうけど。
紗也はまだ中学生だったんだよ?
わたしより、なんでも上手かったよ?
ちいさい沙良の
ただひとり頼れるお姉さんだったんだよ?
なんで死ぬのは紗也だった?
キッチンから声がする。
「れいちゃん、葡萄たくさんたべられる?」
「……ん♪食べられる!」
宝石みたいにきれいな葡萄をお皿に盛って
沙良がソファに戻ってくる。
寒くなってきたから
ふわふわの靴下を履いてるんだけど……
靴下。似合うな。
「はい、れいちゃん、あーん」
「♪……」(ぱくり)
「おいし?」
「うん。はい、今度は沙良、あーん」
「……」(はむっ!)
……………………!
沙良が葡萄と一緒に
わたしの指をくわえた…。
……。
……舐めてる……し。
その口のなかの感触に
頭が痺れる感じがする。
「っ……沙良……、どうする、の」
そんなことされると、この濡れた指で
沙良を触りたくなる。
「キス」
可愛い答えに。迷わずキスをする。
日々、いろんなことがある。
でもいまは…
始めよう、幸せな夜を。