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花に華を《Fernlike Stellar Dendrites》you
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れいちゃんに
バレンタイン電話をしよう、と思った。
LINEで
いま電話してもいいかなぁ、と送ると
一瞬で既読になる。
………………………………
れいちゃん。
去年全国ツアーで。
わたしはちゃんと、観に行った。
仕事の都合で日が無くて、なんと埼玉県まで。
れいちゃんは珍しく…
緊張してた、よね?
れいちゃんが尊敬してる先輩方が来ていて。
その前の電話で
責任ある立場で、このツアーは
いろんな評判が耳に入る、と言っていた。
どんな評判?とは聞かなかった。
どんな仕事だって
いろんな評判がある。わたしだってある。
ましてや、人に観てもらうお仕事なら当然の事。
でもわたしは、その時はじめてインターネットで
れいちゃんの名前を検索してみて
(どうしていままで、しなかったんだろう?)
あまりの多さに、
それから…匿名の怖さに押し潰された。
その帰りに、
れいちゃんのお仕事関係だと名乗る人に
声をかけられた。
綺麗な黒いハイヒールの人。
「ね、あなた、噂のコ?でしょ?彼女さん。」
「…」
咄嗟に返事ができなかった。
「いますごく大事なときなの。
どんな小さいことも命取りになる。
とっても厳しいものなの。
悪いこと言わない、別れた方がいいと思うわよ。」
返事をしないわたしに、そのひとは
たたみかけるように言い放った。
「ね、ほんとに好きなら別れてあげて?
まだまだ必要なことが多くて、
あなたと恋愛とかやってると、
確実に足をひっぱるわ。」
ほんとうにその人が
自己紹介通りの人なのか
今となってはわからない。
確かめる術はないし、
確かめたいとも、思わない。
でも、言わなきゃいけないことは、あった。
「……なにを根拠に仰っているのか、
すみません、よく解りませんが…」
日本語って、まどろっこしい。
「では、仮にわたしが柚香さんの
恋人だとしましょうか。
もしそんなことでダメになるなら、
どうせ遅かれ早かれ、駄目です。
わたしなんかで左右されるのなら
その程度、ってことだと思います。」
「!」
しばし絶句して
そのあと彼女はわたしをこう評した。
「見た目を裏切る図々しい子ね…。
親の顔がみたいわ。後悔するわよ。」
そして、立ち去った。
親、関係あるかなぁと思いながら
パンフレットを買って
(だって、表紙がれいちゃん)
帰宅してすぐ、紗也の写真の前に、供えた。
紗也、どう?
れいちゃんだよ。
紗也がにっこり、微笑んでる気がした。
それから2ヶ月近く、
わたしは、ひとりで東京に居る。
決して、断じて、あの人に言われたからじゃない。
でも、その後れいちゃんが
めずらしく悩んだ様子で。
それはなにかと闘うときの合図だと知ってるし。
わたしも東京での大きい注文が
ご指名で入り、
デザインを幾つも短納期で
出さなければいけなくて。
クリスマスもお正月も会わなかった。
でも、そんなこと、
いままでいくらでもあった。
………………………
「沙良!」
「れいちゃん」
「沙良ー」
「バレンタインデー、きょう」
「うん」
「で。でも。チョコレート間に合わなくて…」
「わたしも沙良に、
もっとバレンタインぽいことしたかったんだけど、初日とか色々で…。
今度会うとき、ちゃんとするから!!!」
「ちゃんとって。なにー」
「色々!」
「わたしも♪」
ふたりでくすくす笑う。
そしてれいちゃんが
真面目な声になる。
「沙良、なんか、あった?」
「え?」
「……や…最近会えなくて、
ちょっと心配になっただけ。
なんにもないならいいけど。なんか…。」
「なんにもないどころか、大きい注文が!」
「無理しないでね」
「わかってる♪」
「あいたい」
「うん」
「すごくあいたい、よ」
あ。
「れいちゃん?」
「………うん」
「だいすき」
「…………………沙良…………」
「れいちゃん?」
れいちゃんこそ、
なにかあったのかもしれない。
急に心配と不安がやってくる。