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花に華を《Sectored Plates》rei
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明日は休演日。
そして今晩は沙良が来る。
今日も無事終わった。
いつもお世話になっている方が
楽屋に来てくださったから
挨拶して…っと。
知らない女性がひとり。
「こちら、…、さん」と名前だけで紹介された。
やけに………凝視されてる気がするけど。
気のせいかな、
その人が小声で耳打ちした。
沙良さんて、
可愛い方ね。
え?
「………それは…東京の幼なじみの………」
「ええ」
…ひとつも。間違えちゃだめだ。
心のなかで深呼吸する。
「ああ…、
子供の頃のバレエ仲間の妹です。
(にっこり)」
「去年、大宮の会場でお会いしたわ」
「お教室つながりかな…何人かいましたか?」
「いいえ、おひとりでしたよ」
「そうですか」
この人、目的は一体………。
「………すごく綺麗なお嬢さんね。
若くて、細くて、妖精みたいねえ」
褒められてるのにそんな感じがしない。
だんだん背中が…、ひんやりしてくる。
わからない。でもこれ普通じゃない。
どうして沙良の、名前を?顔を?
沙良はFacebookも使ってないし。
「…大宮で、うちわでも振ってましたか?」
「まさか!」
高い声で笑う。神経質な響き。
「まぁ、でも
お友だちは選んだほうがいいわよ?」
「………(にっこり)友達というか…、
家族ぐるみのご近所付き合いなので…。」
少し先から彼女を呼ぶ声がした。
「あら!もうこんな時間ね、
あなたも帰り支度ね。
お会いできて嬉しかったわ」
「こちらこそ。
ありがとうございました(にっこり)」
なにかキツイ…ムスクのような香りと
いやな予感を残して
ドアが閉まった。
パズルのピースを。
合わせなきゃ…、冷静に。
大宮?
沙良…は
何も言ってなかった。
でも、考えてみたらあの時期から
ほとんと東京を、離れなかった。
何か、言われた?何か、あった?
嫌な感じがする。
………沙良は
辛ければ辛いほど
悲しければ悲しいほど
痛ければ痛いほど
………静かになる。黙るんだ。
小さいときから、いつも。
とにかく。
はやく空港まで迎えに行こう。