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花に華を《12-Sided Snowflakes》rei
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「開けてみて」
「うん」
………冷蔵庫をあけたら
沙良の顔がぱあっと明るくなった。
よかった。
ありがとう苺。
「わぁー。イチゴ………」
「すきなだけどうぞ」
「…♪……」
薄手の長袖ニットを少し捲って
苺を洗おうとする沙良の………
左手が。
「どーしたの。沙良?なにこれ」
思わず椅子から立ち上がって
沙良の腕をとる。
ニットの袖を捲りあげる。
手首から肘にかけて切った痕。
…縫ってある………。
真っ白い肌に痛々しい痕が数十センチも。
「沙良、これ………!?」
沙良が一瞬怯えた表情を見せて、
それで冷静になる。
「あ。ごめ………ん。声、大きかったね。
こんな………ひどい怪我………いつ?」
沙良を
問い詰めるなんて
そんなことしたくないと、いつだって思う。
でも………聞かなきゃいけないことはある。
「………」
沙良が下を向く。
あぁ、そうか。
「沙良、これを隠そうと思って、
それでちょっとしか居られないって言ったの?」
「………う、ん」
もっと下を向く。
沙良は悪くないのに。
「そんなの無理にきまってるよ」
「そ。だね………なのに」
「うん、」
「でも、れいちゃんに、あいたくなって」
………気がついたら抱き締めていた。
細くて消えてしまいそう。
つい力が入るけど
…また痩せてる。
「聞かせて。いつ?」
腕の中で沙良が話し始める。
「………れいちゃんのお芝居を観に行った少し後。
だから…、12月…、
朝の駅の階段で、後ろのだれかが押したの。
それで転んだとき、ざっくり切っちゃった」
「うん、そっか」
「うん…」
「…あと……大宮で、
知らない人に話しかけられたりした?」
「うん…、れいちゃんと
一緒にいると、邪魔になるって
キレイな女性に言われた」
「そ、う」
言いそうなことだ………。
「それでね、締め切りもあるしそれに
れいちゃんはお仕事、すこし重そうだったし
わたし、全然平気だったから
………約束したけど。
なにかあったら言うって約束したけど
約束破ってごめんなさい。
でも、わたし、考えて破ったの」
「うん、わかるよ」
安心させたくて背中を撫でる。
この説明でじゅうぶんだよ、沙良。
同じ人に幾度も幾度も恋に落ちる。
「沙良?」
「なあに、れいちゃん」
「何年たっても、幾度も幾度も、
沙良のことを好きになるんだけどさ」
「うん」
「それでいい?」
「う、ん」
きれいに解決しなければならない。
「階段で押されたとき、なにか覚えてる?」
「ムスク」
「………うん」
沙良は聡明で
そして我慢強くて冷静。
ぜんぶわかって、考えて判断して黙ってた。
「お風呂一緒に入ろうか」
「うん」
「キスしていい?」
「して…」
ちょ、ちょっと想定外の嬉しすぎる答え。
「………////っ、 うん」
お風呂で沙良の身体を洗いながら
腕の他には大きな傷がないことにほっとした。
…、よかった。
腕の傷の責任は勿論、一生とらせてもらうけど。
痛々しくて泣きたくなる。
ひとの心の闇について、思う。