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花に華を《lumière diffuse》you
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休日出勤の上に残業になっちゃった。
せっかく…夜には
れいちゃんと会う約束だったのに。
お家でご飯作って
待ちたかったのに。
…23時って…。
もうすぐ明日じゃないですか!
準備万端、
何パターンも描いておいたのに
「ダイヤをパールに変更できるか」って
言われたら………それはもうね、
つまりやり直しですよ、お客様。
れいちゃんにLINEしたら
〈沙良疲れてるでしょ。
ひさしぶりにホテルに泊まろう。
タクシーでおいで〉
れいちゃんの提案で
今日は恵比寿に泊まる。
道が混んだら…地下鉄のほうが速い。
すこしでもはやくあいたいな。
そう思ってタクシーに乗らなかった。
でも、さっき
階段を降りてから…
後ろの男性が歩調を合わせてる。
わたしは歩くのが速くないから
さっさと、
追い抜いてくれればいいのだけど。
ウェスティンまでの道は
日曜日のこの時間、意外と人が少なくて
心臓がどきどきしてくる。
…地下じゃなくて…上を通ればよかった。
ポケットの携帯をそっと出して
れいちゃんのラインで「通話」を押す。
たぶん、大丈夫。
でも万が一。
あと数分あるけば人通りがある。
気のせい?
ううん、
おかしい。
わたしが急ぎ足になったら
後ろの足音も速くなって怖い。
「沙良?」
れいちゃんが、すぐに出てくれる。
「……れ…ちゃ」
「タクシーじゃなくて地下鉄で来たの?
だいじょぶ?いまどこ、沙良?」
「う、ん。前イッタラが
……あったところ。もう、すぐ」
「………沙良…今出る。
迎えに行くから。すぐ着くからね」
こつ、こつ、こつ。
あ。
………間違いない。これ、
わたしに合わせてる。
声が震える。
「……うん、、…っ
れいちゃん………っ。いま後ろね、だれか」
だめ、声が小さくなる。怖いよ。
「え、ちょ……沙良??」
!
左に曲がった瞬間、
後ろから追い越してきた男に
腕を引っ張られた。
口を押さえられて声がでない。
床のタイルにヒールが滑る。
引っ張られて
男性用の洗面所に引きずり込まれそうになる。
手を離してしまった携帯が床を
くるくる回って滑る。
「………!」
監視カメラとか……?
ここちょうど死角なのかもしれない。
洗面台の前、
必死で手すりに掴まる。
乱暴に身体中を掴まれる。痛い。
カーディガンのボタンが弾けて
口に……袖を詰められた。
髪をつかまれて
一瞬からだが宙に浮く。
苦しくて痛くて涙がでてきた。
もう、手、離しそう。
………れいちゃんに、もう会えない………?
頭が朦朧とする。
後ろから首とお腹をつかまれてる。
抱きつかれてる。きもちわるい。
すごく苦しい。
いつのまにかシャツの前がぜんぶはだけて
胸を鷲掴みにされる。
その様がぜんぶ
鏡で見える。
だめ、
もう力はいらない。
ここで死んだられいちゃんがきっと
すごく泣いてしまう。それは駄目。
ああ
そうか。
わたしにも
泣いてくれるひとがいたんだ。
痛い。
「だれも来ないよ、
諦めて、まず舌入れさせな」
「…や………」唇を噛む。ぜったい嫌。
次の瞬間、頬を叩かれた。
手すりから手が離れる。
個室に引きずられ
男が目の前でベルトを、緩め始めた瞬間
今から、どんなことをされるのかわかった。
れいちゃんの声が聞こえた。
「沙良っ!人呼んだ!」
れいちゃん、だ………。
男がわたしを尽き飛ばし
身を翻した。
入れ替わりでれいちゃんが入ってくる。
「沙良っ!
沙良?!沙良!」
れいちゃん、そんなに、喉を使わないで。
だいじょうぶだから。
抱き起こしてくれるけど
力が入らない。
わたしを見おろすれいちゃんの涙が
雨みたいに降ってくる。
大雨。
ごめんなさい、れいちゃん。
沙良、
ちょっと我慢しててね?おんぶだよ。
身体が浮く。
気が遠くなる。