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花に華を《 lumière voilée》rei
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震えてる………のは
自分の手だった。
落ち着け。
感情をいったんしまう。
「病院、必要?」
沙良は微かに
でもたしかに首を振る。
「ん。わかった」
……警察なんてとても…無理だ。
沙良の顔は蒼白で
立ち上がることもできない。
事情聴取どころじゃない。
「おんぶだよ、沙良」
部屋に戻って
そのままバスルームに直行する。
掴まれた跡、爪の跡が
首にも肩にも腕にも。
ひどい引っ掻き傷もある。
沙良は
バスルームの床に座って
トイレにもたれて肩を震わせて
もどしてしまうけど
………胃がほとんど、からっぽ。
背中をさするけど、苦しそうで
辛い。
「気持ち悪い?」
こくん、と微かに頷く。
「ほんとに、頭とか打ってない?」
また微かに頷く。
そっと額から後頭部までを確かめる。
傷と怪我は?
あちこちに打撲。
………ひどい。
「触るよ、ここは?」
「…………」
「痛い?こっちは?」
骨が折れたりはしてない、けど。
痛々しくて………
怒りや悔しさがこみあげて
叫びそうになる。
「お風呂、ぬるくしたからね。
いっしょにはいろう、沙良」
この身体に乱暴に触ったなんて
許せない。
沙良は
わたしの肩に寄りかかって
静かに目を閉じてる。
ねぇ
……まだ声を聞いてないよ。
声を聞きたい。
泣いても叫んでもいいし
間に合わなかったわたしを
罵ってもいいから
声を聞きたい。
手に触れる。
頬に触れる。
髪を撫でる。
確かに
ここにいるのに。
沙良が
消えてしまいそうだ。