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花に華を《 lumière voilée 2 》rei
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お風呂を出てから
沙良はタオルにくるまって
ベッドで横になってる。
バスルームから、匿名で通報した。
許せない。
でも今沙良の調子が悪すぎる。
自分で事情を詳細に話すなんて
とても無理、だ。
ベッドに戻って
沙良の額と頬にキスをする。
それから、唇、と思ったら
沙良が
わたしの唇に手をあてて
拒否。
「……、?沙良?どーした……の」
「……」
「さっき、一緒に歯磨きしたでしょ?」
「…………」
「きれいだよ」
すこし、切れてしまっているけど。
小さく首を振る沙良の顔を
両手でつつむ。
ここは譲れない。
1秒でもはやく、
上書きさせて。
唇を重ねる。
ほんの一瞬抵抗した沙良だけど
すぐに力を抜いて委ねてくれる。
…いままでの
どのキスより
優しくなるように
激しくしないことに、
力を使う。
うんと優しく唇を、重ねて
ゆっくりゆっくり
舌を入れないでキス。
それからほんの少し…
唇の入り口にだけ舌をいれて
そっと味わう。壊れないように。
ああ。柔らかい。
沙良、だ。
こんなときなのに
頭の芯が痺れてきて
気持ちよくなってくる。
沙良は?
沙良も。
柔らかく目を閉じて
身体の力が抜けてきた。
真っ白だった頬が
ほんのすこしだけど温かくなった。
よかった…。
「…迎えに行くの、遅くて
怖かったね。ごめん沙良」
虚ろだった沙良の目が
急にきゅっ、と開く。
「れいちゃん」
やっと。
やっと、声が聞けた。
「そんなこと、ない、」
ここに力を使うんだね。
ぼんとに
あと1分でも、
1秒でもはやく着きたかった。
ちいさい両手を握る。
「…知らないひと。
後ろをずっと、ついてきたの。
気がついて電話して…ひっぱられて、
…2回くらい叩かれた…と。おもう」
もういちど、唇を重ねる。
「……よく電話できたね、ほんとに…」
そうじゃなかったら。
ぽつり、と
心を読んだように沙良が言う。
「動画とる、て…言ってた」
「沙良、ごめん。も、いい」
結局沙良は
お湯しか飲めなかった。
……困ったな。
……明日はさすがに食べないと
そう思って、
横で静かに目を閉じた沙良の
顔を見る。
突然ぱちり、と
目を開けた沙良と
目が合う。
「れいちゃん」
「ん、どした、沙良?」
「なんだか……眠ろうとすると
さっきの…頭のなかで…
ぐるぐるするの。
こ、こまったなぁ」
困ったなぁ、じゃ、ないでしょ。
声が震えてる。
「沙良?あのね、
ちなつさんの猫がたくさんで
2回観てもまだ見きれないっていってたでしょ。
沙良は、何曜日の猫が好きなの。
もしかしたら…サインをもらえるかもよ?」
目がまるくなる。
「ほ、んと?」
「夫婦だからねぇ」
沙良の頭のなかに
ぱっと舞台の光景が広がったのがわかる。
「…ぇっと…月曜日と金曜……あと水木…」
ありがとう。コンデュルメル。
それから猫ちゃんたち。
「…欲張りだなぁ」
ほっぺたを撫でながら
意地悪を言ってみる。
ちょっと恥ずかしそうにする沙良の
長いまつげの影。
本当はいますぐ
折れそうなほど抱き締めたいけど。
「1ぴきだけだよ」
「…」
…腕の中で、
真剣に考える沙良。
そして、
いつの間にか
目を閉じてる。
ゆっくり考えて。
どうか他のことは思い出さないで。
でももし
暗闇で目が覚めてしまうのなら
そのときのために
わたしは、ここにいるし、
離れないから。