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花に華を《 てんとうむし 》rei
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……沙良?
沙良が、かたまった。
晴れた朝、
お稽古までは時間があるし
なんの問題もないリビングルーム。
淹れたてのほうじ茶の香りで満たされてる。
のに
「どーしたの?」
「……な、ん、でもない」
「……?……」
なんでもなくない。
明らかにおかしい。
近くに寄って見る。
……あ。
手の甲にてんとう虫。
「……もしかして沙良……?」
「こっ、こわくないよ」
おかしすぎる。
「ふぅん、だよね、
かわいいよね。小さいしね」
頷いてるけど
…涙目だよ?
可愛すぎると
意地悪したくなるのはどうしてだろう。
取って、って姫が言えば
だだちに従うのに。
言わないんだもん。沙良、
どうしてそんなに、強がり?
「れいちゃんそういえば…っ、わ。
……ひゃ……っ」
てんとうむしが動いて
びくん、と緊張する身体。
また固まっちゃった。
……だめだ
意地悪は1分で終わる。
「沙良、じっとして」
「……」
ぽいっ、と
沙良に嫌われてる気の毒な
てんとうむしを払い落とす。
悪いね。でも沙良ファーストだからさ。
払って、
屈んで。
それが居た場所に口づける。
上目遣いに見ると
ほんとに困った顔になってる。
この顔を見たら
誰だって守りたくなっちゃう。
そんな顔は他所ではしないで欲しい。
「先客が居たけど、じゃまだから
どいてもらったけど、いいよね?」
「…うん」
瞳が揺れてる。
キスすると
ゆっくり控えめにこたえてくれる。
……柔らかい。
「ん…」
「っ…」
息継ぎして何を言うのかと思ったら
「れ、いちゃん!」
「?」
「わたし、嘘を言いました」
「何」
「てんとうむしは、ちょっとこわい」
「……!」
吹き出しそうになるけど我慢する。
そう、もうずっとずっと長いこと
こんな沙良の虜なんだ。
「沙良?」
「なぁに」
「抱いていい?」
返事を聞くまえに、
柔らかな体を抱き締める。
なぜか「二人静」っていう
和三盆のお菓子を思い出す。
沙良と似てる。
口のなかで溶ける感じが、
とてもにている。
そんなことを思いながら
首筋に唇をつける。
ほら、
甘い。