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花に華を《 lumière splendide 》you
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ずいぶん
いろいろな(良くない)ことがあった。
年末に階段で切った傷痕は
たいして気にならないのだけど
れいちゃんが……
そっと見ては
悲しそうな顔をしているのを知ってる。
なんとか消えるといいなぁ、と思う。
たくさん縫ったので、少々ひきつれ気味で
…パンクな感じだ。
自殺未遂っぽいかなぁ。
いや、普通こんなに長々と
切らないでしょう、うん。
恵比寿のことは…
あんまりよく思い出せない。
痛かったし、驚いたし。
怖かったし、
うまく言えないけど
「憎む」っていう気持ちが残った。
でも
日々が強引に続くので
日常って、ありがたい。そして強い。
紗也がいなくなったときも感じた。
洗濯をしたり
ゴミを出したり
生理がきたり
お腹がすいたりする。
そんなことを全て放棄することはできなくて
いつだって生きることを続行させてくれる。
あの美しかったCASANOVAも終わって
関西に戻ったのもありがたくて
なんだか、ぜんぶ遠くなって
悪い夢に思える。
さて。
今日は持ち帰り仕事があるから
れいちゃんのお部屋には22時に
行く連絡をした。
「OK、待ってる!」と
余裕のお返事が来て、ほっとする。
同じマンションって便利。
お互い会えないときも
心に余裕がうまれる。
そんなことを思いながら
エレベーターに乗って
ドアが閉まりかけたとき
…男の人が走ってきたので
急いで『開』を押す。
お礼を言われて
わたしも会釈を返した。
走ってきたから、
息が荒い。
ドアがしまる。
息の音。微かに汗の匂い。
あ。
ここ、
狭い。
と。思ったら途端に
息苦しくなった。
だめ、ちゃんとしなきゃ、
……でも、
ぐにゃり、と、床が大きく揺れた気がする。
たちまち不安になる。
…平衡感覚がおかしい。
心臓が、どきどきする。
なんでこんなに酸素が足りないの?
ちゃんと吸っているのに。
喘息の感じはない。
どこも狭くはなってない。
おかしい。変な汗が背中を伝う。
…焦ってくる。
…怖い。視界が回る。
思わずしゃがみこんだら
男の人は近づいてきて
…なにか、耳元で、言ってる。
首に息がかかる。
お願いしますわたしに触らないで。
どうしよう、苦しい。
心臓がおかしな速さで
周りの音が失くなって
手と頭が痺れてきた。
くるしい。