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花に華を《 sketch 07-0X》
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「いつものこと」なんて
自分の忙しさに言い訳して
沙良の優しい言葉に、甘えた罰だ。
〈梅雨時に体調を崩すなんて
いつものこと。
だから、大丈夫。
れいちゃん、よく知ってるくせに。〉
沙良は電話で、
そう言った。
でも
今年の長い雨の間
発作が増えて夜眠れなくて
だんだん体力を落とす一方だった。
いま
なにが起こっているのか
実はよく、わからない。
赤坂には千秋楽前に来てくれて
その日は会えなかったけど…、
朝から嬉しくて仕方がなかった。
終演後もらったLINEのメッセージは
〈すごくかっこよかった(>_<)!
たくさん笑って、元気になりました。
れいちゃん無理しないでね。漫画も読んでみるね。
落ち着いたら、晩ごはん食べようねー。〉
…嬉しかった。
いつだって。
離れていたって
どんなときも沙良のことが
わかってたのに
忙しくて、興奮の中に居て
わからなかったんだ。
千秋楽、製作発表、
ぜんぶ済ませて
なにも知らずに
桃やプラムや巨峰、
沙良が喜びそうなものを
山ほど抱えて会いに行ったら
……家に居なかった。
たまってる新聞をみたら
もう数日、そこに居ないことがわかって。
手が震えた。
じゃあ、
おやすみのメッセージはどこからしてたの?
嘘、ついた?
ベッドの横、吸入スプレーのカウンターが
「0」になってる。…病院だ。
通ってる病院はよく知ってる。
ちょっと遠いけど
有名な専門の病院。
入院先を確認して
タクシー飛ばして
そしてこうして
今やっと会えたけど。
…何がどうなってるのか
正直わからないんだ。
やっと会えた沙良は
ベッドに横になってて。
そっとそっと頬に触れる。
ねぇ。沙良。
どうして連絡くれなかったの。
こんなに悪くなるまで。
約束破りすぎでしょ、
たくさんたくさんたくさん
話すことがあるのに。
沙良は目を開けない。
まっしろな頬。起きないの?
いま
なにが起こっているのか
実はよく、わからない。