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花に華を《 降水確率100% 》you
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信号は長いし
雨で渋滞してる。
「なんで…飲めないって言わなかったの」
れいちゃん。
ものすごく怒ってる。
でも…
なにを言っても今日のことは
下手な言い訳にしかならない。
どうしよう。どうしたら?
頭がぼんやりする。
顔は熱いし
なんだか心臓がドキドキバクバクする。
これが『酔う』?
「今日はありえないような偶然で
たまたま同じ店にいたけど…。
そうじゃなかったら、一体、
どうするつもりだったの?」
れいちゃんが怒ることは
ほんとうに少ない。
でも……いまとても怒ってる。
「あの男に胸触らせて、
いまからデート?赤坂で?
……て、いうか沙良、
なんであーゆーのと飲んでるの?
いま何時だと思ってるの。
発作出たら、どうするの?」
「れいちゃん、お願い」
「なに」
「助けてくれてありがとう。でも」
「……」
「戻って」
「え」
れいちゃんの、信じられない、っていう視線を
必死で受け止める。
でも。
わたしは、
もうじゅうぶんに大人だ。
そしてれいちゃんは、役者さんだ。
「なに言って……」
「お仕事だったでしょう。
みなみさんも置いてきて。ダメ…と思う。
わたしが……今日、たしかに、いけなかった。
ごめんなさい。
でも、それでれいちゃんが
何かを途中にするのはダメ」
れいちゃんが見たこともないような
つめたい悲しい顔をする。
そして、
握っていたわたしの手を離す。
「……わかった」
れいちゃんが低い声で
降ります、ちょっと忘れ物で、と
運転手さんに声をかけた。
運転手さんは
「1分で戻れますよ?進んでないし、雨だし……」
「いや、いいです。彼女はさっきの住所まで」
れいちゃんは
振り返りもせずに
タクシーを降りた。
わたしは心臓がバクバクしてる。
目の奥が熱い。
…なのに、
上着の裾を翻して背を向ける
れいちゃんの姿を、
きれいだ、と思った。
この心はどうしようもない。
ひとりで帰る。
そんなの、勿論だ。
雨がだんだん、強くなって
タクシーごと、闇に吸い込まれる気がする。
いやだな、この感じ。
廊下みたいに暗い。
明け方の病院の廊下みたいに
電気がついているのに、暗い。
雨がどんどん強くなる。
座席の前の小さい画面では
天気予報が繰り返し流れている。
降水確率100%、
強風と大雨、災害の恐れ。