-
花に華を《降水確率100% 》you
-
真っ暗の東京の家。
ほんと、
広すぎるなぁ。
でも紗也との思い出がある。
れいちゃんとの思い出がいちばん、
多いんだけど。
いつも、助けてもらってばかり。
お酒のせいなのか、
普段思い出さないことで
頭のなかがグルグルする。
そうだ、さっき、れいちゃんは
目をあわせることもなく
車を降りたんだった。
……怒ってた、な。
はやく、
シャワー浴びて
ベッドにいこう。
玄関の電気をつけようとしたら
「沙良」
紗也の声がした。
そんなはず……は。
でもわたしの口は反射的に答える。
うんと懐かしい姉の名を呼ぶ。
「……紗也……」
「沙良~ひさしぶり」
「…紗也、暗くてみえない。どこ?いつきたの?」
「さっき、ね。ちょっと寄ったの」
「雨は大丈夫だった?濡れてない?
え、まず、お茶でもいれるね、電気…」
「電気はまだ、つけないで」
「暗い、けど、いいの?」
とてもとても久しぶりに話す。
久しぶり?いつ以来?…どうしてだっけ。
あれ?そもそも紗也は。
思い出さない方がいいような気がして、
あわてて、話を続ける。
「あの、紗也……、」
「れいの手を離しちゃだめ」
「紗也、あのね、たくさん、話たいことが…」
「わたしも。でも…あまり時間がないの」
「……そうなの?」
不意に泣きそうになる。
そうだった。
紗也はずっとまえに、
いなくなった。
かなしくて手が、ふるえる。
「庭のミントが、ふえて大変なの。
でも、紗也が好きだったクリスマスローズも
とっても元気……あと、あとはね紗也、
れいちゃんのお芝居を紗也と見に行かなきゃ。
すごく素敵なの。れいちゃんは頑張ってる。
あと、あとはね……
パパとママはいまアムステルダム。
ぜんぜん、帰らない。紗也、帰って来て?
ね。わたしが事故にあったほうが
良かったと、思うの。紗也がれいちゃんの隣に
居るはずだったでしょう?舞台でも……」
涙か溢れそうになる。
「…沙良にしか
できないことが山ほどあるから、
そんなこと言わないで。
とにかく、生きるのよ、わかるでしょ」
「紗也、今日は泊まらないの?」
「だいすきよ、でもいかなきゃ」
「そうなの?……わたしも、いっしょに行ける?」
「いまは、だめ」
「沙良っ!」
え?
一瞬何が起こったのかわからなかったけど
そう、いつだって
暗闇を終わらせるのはれいちゃんの光。
部屋は光で照らされて
れいちゃんの腕のなかに居る。
電気がついた。
紗也は、きえた。
「沙良……、沙良。沙良っ、
ごめん。ごめんね。
ただいま。れいだよ。」
「……れいちゃん」
「……うん」
「…………わたしも、ごめんなさい」
「謝らないで。
どこにも行かないで、沙良」
強く強く強くれいちゃんに抱き締められる。