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花に華を《 降水確率100% 》rei
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どうしよう、
勝手に怒って勝手にいやな態度とって
こんな台風のなか、沙良を
あの広い家にひとりで帰した。
唐突に
「さゆみさんだったら、
こんな馬鹿なことぜったいにしない。
どんなに頭に血がのぼっても、しない」と
おもった。
て、なに考えてるんだろ。
……しっかりしろ、自分。
タクシーからLINEしてみる。
〈ぜんぶ終わったからいまから行くね〉
〈もう、ついた?〉
……既読にならない……。
沙良が
「かけひき」するような人だったら
逆に安心だったのに。
…いつも時間がなくて
会える時間はいつだって僅かだった。
だから
「わざと電話にでない」みたいな
いわゆる駆け引き的なことを
お互い一切、しないできた。
はやく既読に、と。
祈るような気持ちで携帯を見る。
沙良、頼むから、心配させないで。
タクシーのナンバー控えておけばよかった。
一時の感情で、降りなければよかった。
手を離さなければよかった。情けない。
沙良の家の前で
車を降りる。
沙良、もちろん帰ってるよね?
沙良に
あやまって、それから
いろいろ話して…
いや、それより
なにかあったかいもの飲んで。
そんなことをくるぐる考えながら
外門のインターホンを押すけど、
反応がない。
急いで合鍵を出して、センサーに近づける。
門をくぐり庭を走り抜けて、
玄関に、向かう。
ドアをあけようとして、
沙良の声に手が止まる。
よかった、
帰ってる。
でも誰と?
ひとりじゃないの?
「……紗也、……」
え?
沙良、いま紗也って言った?
「そう、紗也、……うん、」
紗也と、話してるの?
…まさか…。
一瞬、紗也に会えるのかと思った自分がいる。
自分の心臓の音が
いやに大きく響く。
ここ暫く、
妖精さんもバンパネラも
ずっと舞台で見つめてきた。
だから、
100%否定できない。
紗也が来てるの?
てもわたしには紗也の声は聞こえない。
沙良の声だけが響く。
「そうなの?紗也、
……わたしも、いっしょに行ける?」
その言葉に、息が止まる。
行くって、どこへ?
ダメに決まってる。
沙良の手は離さない。
どこへも行かせない。
金縛りが解けるように手が動いた。
勢いよくドアをあけて
電気のスイッチに手を伸ばし
沙良の細い腕を掴んで、引き寄せる。
つかまえた。
抱き締めて部屋を見渡す。
……もちろん紗也は居ない……けど
紗也の気配が残ってた。
わたしには、
会っていってくれないの、か。
目の奥が熱くなる。
…
紗也ゴメン。怒ってるよね。
大事な妹を泣かせて。
いま腕のなかに
確かに愛しい人が居る。
体温も鼓動も感じられる。
はやく、
もっと沙良を、確かめたい。