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第一話
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私が小学校か中学生の時だったと思う。
その日はどしゃ降りだった。
私は傘がなくて泣きながら帰っていた。
今思えば泣くほどのことじゃなかったんだけど、その時はまだ幼かったからあんなに泣いていたのかもしれない。
そんな時だった。
「どうしたんだ?傘を忘れたのか?」
声をかけてくれたのは私より少し背の高い制服を着た薄いオレンジ色をした男の子だった。私はその問いに首を横に振る。
何とか喋ろうとしたけど上手く言葉が出てこない。
「落ち着いて。ゆっくりでいいから。そうだここじゃあれだな。とりあえずオレの家に来いよ。」
「でも…。」
「いいから。雨宿りしていけ。」
男の子は怖くてとても苦手だったけど、その人の言葉はとても優しかった。
男の子は私の手を引いてくれた。
男の子が連れていってくれた先はケーキ屋さんだった。
「寄り道はダメって言われてる…。」
「今更かよ。それにオレの家だから平気だよ。」
その子のおうちの中に入れてもらい、タオルと着替えを貸してもらった。
「ありがとう…。」
「いいって。サイズは大丈夫そうだな。昔の服があって良かったよ。ちょっと待ってろよ。」
男の子はそう言って部屋を出ていった。男の子の部屋を見渡すとポスターが貼ってあった。男性アイドルのポスターみたいでアーティストの名前はゼロとなっていた。
「お待たせ!ほらこれ」
男の子はお盆にケーキとジュースをのせて戻って来ていた。
「ありがとう…。でも、」
「いいから食べてみろよ。」
言われるがままにフォークをケーキに突き立てて食べる。
「…美味しい!!」
「だろ。なんたってうちのだからな!!」
あの時のケーキの味を私は一生忘れないだろう。
あっという間に平らげた私をみて彼は満足そうだった。
「落ち着いたな。どうして泣いてたんだ?」
「あ、それは…。」
「ごめん。言いたくなかったら別に無理にとは言わないから。」
彼の優しさが身に染みて私はポツリポツリ語り始めた。
「クラスの男の子に傘を壊されてしまって…。」
「なるほど。それで泣いてたんだな。…ちなみにそいつの名前は?」
「同じクラスの…前田っていう子。」
「…そっか。話してくれてありがとな。」
目の前の彼は頭をなででくれた。
「あ、あの。アイドル好きなんですか?」
何となく気恥ずかしくなって慌てて話題を変えた。
「あぁ。さっきこのポスター見てたもんな。好きだし憧れてるんだ。いつかオレもこんなアイドルになりたいんだ。そのために色々特訓中だ。」
そう話す彼は楽しそうだった。
「今ライブDVDみたりして色々踊ったり歌ったりしてるんだ。中々上手くはいかないけどな。」
「すごいね…。私は応援する!!あなたなら絶対なれるよ!!」
「ありがとな。お前にはないのか。そういうの。」
「私はまだ…。」
「じゃあできたら教えてくれよ!約束な!!」
そう言って小指を絡ませて約束をした。
「お!!雨あがったみたいだな。」
「わぁ!!本当だ。もうそろそろ帰らないと。」
「道分かるか?」
「うん!!ありがとう。えーと…。」
「オレは和泉三月。お前は?」
「私は安田翼。また着替え洗濯して返すね。」
「じゃあな翼。気を付けて帰れよ。」
その翌日傘を壊した前田が私に謝りにきた。
ところどころに絆創膏が貼ってあった。
後で知ったことだがどうやら三月くんが鉄拳制裁をくらわした。とのことだった。
これが私と三月くんの出会いだった。