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桜澤で7年前のリクエスト消化してみた。「こつこつ幸せになろうよ」
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7年前のリクエスト消化しました(ドヤ!)
もう謝らない!ごめんなさい!!←
リク内容は【桜澤家で妊娠発覚】です。
朝起きて、お釜を開いてご飯のにおいがする。それはなんて幸せな……事のはずが、今日は何故か吐き気がしてあいはバタバタとトイレに駆け込まないと行けなくなった。
そこまで来て漸くあいがひとつの可能性に気付く。指折り数えると既に生理が2か月近く遅れている。これはもしや、と……いつかの日のために用意していた検査薬で確認すれば見事に陽性。
そしてその日、思いっきり寝坊して昼近くに起きてきた桜澤が見事、そのタイミングでリビングへやってきたので、開口一番。
「じゅんや、わたし、にんしんしたっぽい」
と。あいが困惑顔のまま片言で言えば桜澤もいつもの笑みを浮かべながら固まってしまっていた。
こういう時、喜んでいいのか驚けばいいのかわからず、とりあえず桜澤がなんとか口にした言葉は、
「あ、ありがとう?」
そのお礼が合っているのか、いないのか。更に言えば疑問符をつけてしまって誤解を招いていないかだとか。
色々と考えることはあったが、とりあえず感謝を伝えたくて紡いだ言葉がありがとうだった、と、数年後の桜澤が言うらしいがとりあえず今は当惑している方が大きい。
いや、ふたりは結婚をしていて、子供も望んでいたので問題は絶対にない。子供を授かって幸せだが、父親になるという事に対して実感なんて直ぐには追いつかないのが本音だ。
「て、いうか。あい、かなり困った顔してるけど……」
「いや、嬉しいんだけど、初めての事で若干どう反応していいか解らずにいるっていうか」
嬉しい、嬉しいと腕を動かしているが、あいの表情は固まったままだ。
ロボットのようなあいを可愛く思うが、桜澤は結構いっぱいいっぱいで何から手を付けていいか解らずにいる。
「あー、うん。僕もそんな感じかな……そうだ、おじい様に伝えてもいいかな?」
「いや待って! それはちゃんと産婦人科で言われて確実になったらにしよう!」
「そっか……おじい様、ぬか喜びさせると落ち込みそうだしね……、」
ああ、矢張り舞い上がっているのか。早く誰かに伝えたい気持ちが先走ったが先ずは確実な情報を。あいの方がよっぽど冷静だ。
本当に本当に、玄孫を楽しみにしている祖父の落胆する顔は矢張り見たくないのであいの言葉に従う。
そしてまた黙り込むふたり。先に沈黙を破ったのはあいの方だった。
「純哉、」
「なに?」
「いや、こういう時もっとキャー! とかワー! とか盛り上がるのかなぁって思ってたけど意外と私、冷静だったなぁ、とか……純哉も落ち着いてるし、」
「そう? 僕は結構頭真っ白だけど……どうしたら良いか解んないって言うか、」
桜澤は正直に今の心境を語る。本当に、父親になるのか、なれるのか……いい父親になりたいけれど、この調子で自分は本当に大丈夫なのか。
ああ、そうか。自分は怖いのだ、と。桜澤はあいの中に居るかもしれない未知の存在が既に愛おしい。それに対して自分がどこまで対応できるのかわからずに二の足を踏んでいる。
そんな桜澤を見てあいは不安そうに見上げている。不安になどさせたくないのに。
「……困ってる?」
あいが躊躇いがちに、でも聞かずにはいられなかったという様子で小さく尋ねれば桜澤は笑顔で首を振る。
そんな訳はない。困っている筈がない。嬉しいのだ。嬉しいから、愛おしいから不安で仕方がないだけ。
「困ってる、とは違うかな。嬉しいんだけどね……なんていうか、父親ってどんなものなのかなぁ、とか……」
「そりゃまだ産まれてもないし、実感なんてわかないよね」
「それもそうだね……でも、」
「でも?」
「嬉しいよ、すごく」
「うん、それは私もだよ」
なんて、言っていた時もありました。
「真奈~、パパが帰ってきたよ~! お迎えは~?」
「はぁい!」
デレッデレの顔で定時直帰のマイホームパパと成り果てた桜澤にあいが遠い目をして昔を振り返る。
実はあの後も桜澤は「愛しい妻との間に子供が出来たからこれは嬉しいことである」という態度で、マニュアル通りの旦那様といった行動が大きかった。
子供に対してはどうなのだろう?子供が実際に産まれたらこの人はどうなるのか。あいは産む直前まで不安を打ち消せずにいた。それなのに、あいが恥も外聞もかなぐり捨てて命がけで産んだ娘を見た瞬間。
「あ……かわいい、」
と、呆然とした顔で口にしたのだ。そしてずっと娘を手放そうとしない桜澤に痺れを切らした看護婦に「お母さんが疲れてますから移動しますよ」と言われる始末で。
因みに桜澤は真奈が生まれるまで最高のサポートをしてくれていた。夫として完璧だったし、あいの事をとても慈しんでくれていたが、大きく喜ぶ事はなく。いっそ祖父の方が大喜びをしていたくらいだ。
が、あの日。彼が娘に対してかわいい、と言ったその瞬間から、桜澤は高速で手の平を返した。それはもう、あいが見てきた手のひら返しの中でも最速だったと今でも思う。フレッツ光ですら敵うまい。
「真奈は僕の天使だからね。目に入れても痛くないよ~」
「でも真奈はパパの目に入らないよ?」
「目に入らないなら食べちゃおうかな~」
「やだ~! 真奈美味しくないよ~!」
「美味しいよ! こんなにかわいい真奈が美味しくないはずないからね~」
なんて。どの口で言うんだろう。そしてこのやり取りはいつになったら飽きるんだろう?
桜澤は娘を抱き上げ着替えもせずにソファに座る。そしてそのままいつものパターンでイチャコラしている夫と娘は見ていて幸せだが、毎日見ているあいは若干飽きた。
「純哉……変わったよね」
「え?」
「赤ちゃんできたかもっていった時は呆然としてたけど、今はもう立派なお父さんだね」
しかも、かなりの面倒くさいタイプのお父さんだけど。
この人真奈が結婚したらどうなっちゃうのか、なんて。あいは今から心配しているくらいだ。
「そうかなぁ~? そうだと嬉しいんだけど」
テレテレ、と照れつつも。桜澤が嬉しそうに真奈を抱きしめながら娘の頭頂部に頬を寄せている。
素直に真っ直ぐ褒め言葉として受け止めたらしい桜澤にあいは苦笑いを禁じえない。いや、良い傾向だが……人はこうも大きく変われるのかと感心すらする。
「真奈が結婚なんてことになったら大変だよね」
「しないよ?」
「……へ?」
普通にテレテレ、と。これまで通りの表情なのに、何故か声だけはアブソリュートという器用なことをしている桜澤にあいが固まる。
断定的に言い切っているが、何を言っているんだろうか。あいが最高に困惑した顔をして桜澤を見ていると、彼は真奈に向かい小首を傾げて口を開く。
「真奈。真奈は将来何になりたいのかな~?」
「パパのおよめさん!」
「だよね~」
ドヤァ……!とあいを見ながら桜澤が誇らしげに笑っているが、いやいや。ちょっと待て待て。
「純哉さん、私はどうするんですか? 捨てられるんでしょうか?」
「あいも勿論愛してるよ~、真奈もママ大好きだよね?」
「スキー!」
「じゃあ3人でずぅっと一緒に暮らそうね~! 僕頑張って長生きするから」
そう言って彼はあいと真奈に軽めのキスを贈る。真奈も父親と母親にキスをしようとするので、あいはそれを真正面から受け止める。上からの視線が強いので見上げると、どうやらあいからのキスを所望しているらしい夫の顔がある。
これはキスをしないといつまでも納得しない構えなのであいが渋々と夫にキスを返し、娘にもそっと返してやると夫と娘が嬉しそうに笑うのでもうそれでよしとする。なんだかんだと幸せなのだ。
あいは桜澤の肩に頭を乗せ、幸せそうに微笑んだ。そんなあいに桜澤も幸せそうに笑い、自分に寄り添うあいの額にちゅっ、と優しくキスをした。
こつこつ幸せになろうよ
この先も長いんだからゆっくりとね
リクエストありがとうございましたー!