-
何も考えずに春で「僕らは愛を歌いながら」を書いてみた。
-
都内、某ホテル内。あいは春と日本に戻ってきていた。
勿論レコーディング等の仕事もあるが、小型の連休が手に入ったので実家に顔を出したり、懐かしの水族館に立ち寄ったりして休みを謳歌している。
そして今現在、日付が変わったこの瞬間。あいはソファで譜面に目を通しながら座る春に向かって頭を下げてご挨拶を始めた。
「春、平成ではお世話になりました、令和でもよろしくお願いします」
「……ああ、こちらこそ」
新年の挨拶のような事を言うあいに色々と思わなかった訳ではないが、ぺこりと頭を下げられてしまえばなんとなく春も軽く会釈を返してしまう。
「なんか元号変わったのにお祭りモードだねぇ。陛下には感謝しないと」
「感謝……?」
「んー……元号が変わるのって全国民が喪に服するタイミングってイメージなのに、こんなイベントみたいにしてられるってすごい事じゃない?」
あいがうんうん、とひとり納得したように笑っているので春も納得する事にする。確かに、今回は国全体がどこかはしゃいでいるのは春の目から見ても確かだ。
「しかも令和になっても大型連休真っ只中なんて……そりゃみんな浮かれちゃうよねぇ」
「君も浮かれているのか?」
「んー……、確かに陛下は御退位になるけど、直ぐに殿下が御即位されるし……陛下が崩御した訳じゃないってだけで気は楽かな」
笑って言いながらもあいはセカセカと忙しそうに身支度をしている。朝には直ぐにチェックアウト出来るように荷物を纏めているようだ。
先程手伝おうと申し出たが後はあいの荷物が主だから断られここに居るが……どうも居心地が悪い。働いている人間の側では寛げないのは普通の感性だろう。
「……忙しそうだな。荷物を持つぐらいなら出来るが」
「あ。うん、でもそこに置いておくから大丈夫、ありがとう! 今回の滞在は短いから荷物少ないし、さっき粗方纏めてはおいたからもう休むね」
朝、歯を磨いて服を着替えたら直ぐに荷物をしまえるスペースを作って、はいおしまい。
あいが満足げに部屋の隅にトランクを寄せて春の元へと戻ってくる。
「明日は少し時間があるから君が行きたい場所に行こう」
「……え? べ、別に大丈夫だよ? 今はどこに行っても込んでるし、」
「戻ったらまた時間を作るのが難しくなるから、少しでも君との時間を大切にしたい」
「……えっと、」
ど直球で来るよなぁ、どうやってお返ししたら良いんだろうなぁ。
あいが内心で頭を抱えて恥ずかしさに身を焦がしているが、春は真摯な瞳であいを捕らえて返事を待っている。
別に拘束されている訳でもないのに何故こんなにも捕らわれているのか。あいは昔からこの瞳で見つめられると喉が渇くような、何かに焦る様な気持ちになってしまう。
「あ……、と! じゃ、じゃあっ、」
春を人混みの中に連れて行くのは嫌だ、というかまた騒ぎになったらたまらない。ならばこの時期に空いていて、尚且つ遠慮していると思われない場所を探さねば。
そんな場所、都内のどこにあるの……あ、あった。この時期でも超空いてて、空港から近くて……この短い間に思案に思案を重ねあいが閃く。
しかもあいとしてもまったりのんびり過ごしたい勢なので遠慮も何も無く楽しみな場所、そこは。
「じゃあ春、成田付近の公園でもいこっか?」
「……ん?」
「うん、公園」
例えるならば、和食の中にデラックスパフェがあるような。なんともミスマッチな状態になるのは解っている。
しかし、だからこそなのだ。誰があのJADEの神堂春がただの公園に居るなんて思うのか。いいや私は思わない。
否、春を知る前のあいならば思わない。でも実は結構春の方から散歩のお誘いが入るので別に珍しくもなんともない罠だったりするが。
「……本当にいいのか?」
「やっぱダメ? つまらないかもしれないけど……」
「いや……俺は君と居られるならばそれで良い。ただ、」
「ただ?」
「遠慮をしているんじゃないか?」
いつもと変わらないデートになる事に春が少し不安げな表情で顔を傾ける。良い男は顔を傾けるだけでこうもカッコよく映るのか、と。
あいが心臓を無駄にドキドキさせながら急いで首を振る。
「遠慮なんかしてない! 春とお散歩するの好きだし……!」
「そうか……なら俺も君と歩くのは好きだから問題ない」
安心した、と解りやすく表情を柔らかくする春にあいもほ、と一息。
不安げな表情の春は確かにカッコいいが、矢張り好きな人には笑っていてもらうのが一番嬉しい。
「そうと決まれば明日はどこ行こうか調べちゃおうかな~」
あいは荷造りをほぼ終えていて、春も譜面を眺めてはいたが特に急ぎの物はなく……今はあいと会話をしていたい気分だった。
ソファに腰掛けてスマホで空港周辺を調べるあいに自然とくっつく春だが、その点に関してあいは特に意識はしていない。
「あいにくっついて歩くのが好き」と堂々言い放つ春なので、普段からひっつき虫なところがある。だからその辺はあいも慣れてしまった。
「あ、成田の牧場もワンチャンあったのかも……、」
「子豚が走ってるところが見れるのか?」
「……あー……それはママンな雰囲気の牧場のメインイベントじゃないかなぁ……わかんないけど、」
「そうか」
少し残念そうにする可愛い春にあいがスマホを握り締めぷるぷる震える。結構見たかったのか子豚のレース。しかし残念、その牧場は空港からかなり遠い。
今度また見に行けば良いから今回は多分成田にあるだろう牧場直営、アイスクリームのお店のソフトで諦めて欲しい。明日も暑いって予報士のお姉さんも笑って言っていたので。
「明日は楽しみだね、春」
「ああ」
明日どこに行こう?それだけの会話なのにこんなにも楽しくて夜が倍速で更けていくのは愛しいあなたのせい。
さぁ、明日も良い日にしたいから仲良く一緒に寝ちゃいましょう。明日も晴れますように。
しかしあいとの時間を大事にしたい春が大人しくちゃんと寝たかどうかは……ふたりの秘密で良いので割愛しよう。
僕らは愛を歌いながら
明日は晴れです、傘の心配はないでしょう