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ヘンリーで書いた小ネタを3つまとめてみた。
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○お色気とラッシー
「今日はここにお泊りだよ、ラッシー」
にっこり、と。ヘンリーが言い放ったのはついぞさっき。
あいは仕事を終えるなりヘンリーの部屋に軟禁状態になった。
いや、不満は無いのであいもあいで普通にヘンリーの為に用意した夕食を広げ、一緒に食べて、いつも通りに過ごしている。
「……ラッシーはやっぱり順応性が高いね」
えらいえらい、と頭を撫でてくるヘンリーに対しても最早逆らう気も無く。
歯を磨きながらテレビを見ているあいはヘンリーの愛玩動物そのものである。
「綺麗に歯は磨けた?」
言われて直ぐに「あ」と口を開けばヘンリーが普通に確認してくる。
口を開けて見せたのは嫌味のつもりだったが、それすらしれっと受け流すとは……矢張り逆らうのはもうやめようと誓うあい。
「じゃあ一緒にシャワーを浴びようか」
逆らわないが、ここはちょっと反抗しないと大変なことになる。
足腰は大事にしていきたい。三十路で泣きたくはないもの。
「別々なら入ります」
「どうして?」
どうしてってどうして?と、言いたくはなるがそれはもう言っても仕方がないのはあいとて解っている。
別にもう犬扱いされることなど気にはしていないが、そこを突くしかなさそうだ。
「犬扱いするような人とは入りません」
「じゃあ今から朝まではラッシーって呼ばないから」
つまり夜の間、恋人として扱った後はまた犬扱いするって事か、とあいが半眼になってヘンリーを睨みつける。
こうなったらもうあいはラッシーとしてこの夜を生きようと心に決める。それも結構本気で。
「ワン、ワン。いやだワン。動物虐待だワン。やめてほしいワン」
ラッシーは名犬だったが、あいは残念ながら名犬では無いらしい。
だがヘンリーはあいを駄犬だとは思わない。何故なら馬鹿な犬などこの世には居ないのだ。
どんな犬でもスピードの差こそあれど「学習」は出来るという。ならば、あいにも「学習」させれば良い。
「……ふぅん」
ヘンリーはわざとらしく腕を組み小首を掲げて威圧してくる。さて、どうやって学習させようか?
想像するだけで楽しい。この夜は自分とあいにとって忘れられないような、素敵な夜になる。ああ、心が躍る。
上機嫌なヘンリーを見てあいはヤバい、と本能で感じてその場を離れようとヘンリーに背中を見せるが、そのまま後ろから抱き寄せられ捕まった。
次に続くー。
この前のが続いた(゜-゜)YO!
「いやぁーっ! ごめんなさいっ! 話せば解ると思います! とりあえず話をしましょう! 逃げませんから!」
「いきなり人の言葉を操るのが上手くなったねラッシー」
公務に追われて、書類に追われて、目まぐるしい環境の中で漸く手に入れた休息タイム。
こんなにゆっくり出来るなんて久しぶりなのだ。ヘンリーがはしゃいでしまうのはもう致し方ない事だろう。
自分の前だけで、素の自分をこれでもか!と言うほど見せつけてくるヘンリーにあいだって悪い気はしない……が、それとこれとは話は別だ。
「そうだ! 背中流しますよ私! それで手を打ちましょう、ね!?」
ヘンリーはにこりとひとつだけ笑顔を見せて、脳内であいの提案を蹴り飛ばす。
さてさて、ヘンリーが一緒にシャワーを浴びようと提案した時にあいが妥協していればもうちょっと状況は変わっていただろうか?
少なくても、あいは自分の汗とかその辺を気にせずにその身を彼に捧げる事が出来たかもしれない。
「ラッシーに服は要らないよね? 昔メイドが無理やり着せた時は嫌がって逃げてたし……」
「いやっ、ちょっ! お洒落してみたかったのワーン!! 脱がさないでぇー、寒いよぉーっ!」
残念ながら、シャワーを浴びるとか久しぶりの夜だから優しく、等の選択肢は消滅してしまった。先ずはこの場で思い知らせる、の一択しかない。
ぴろ、とあいが穿いているスカートをシレッと捲って本日のショーツを確認する。水色を主調としたペンギン柄のショーツだ。
どうやら彼女は本気でこのままヘンリーと眠るだけのつもりだったのだろう。彼のあまりの仕打ちに呆然とするあいを置き去りにヘンリーは深くため息を吐く。
「ひ、ひとの、! ぱんつをめくっておいて、そのはんのうはっ、ひどいと……っ!」
「……まぁ、下着は色気ないけど……、ラッシーから色気出させれば問題ないか」
ひとり納得するヘンリーにあいがゾッと身を震わせるが逃げ場はない。
きっと一滴、一滴を抽出するかのようにしつこく、ねちっこく、無い色気を絞り出される……とあいが戦慄する。
「ラッシー、色気、ありません」
思わず片言になって首を弱々しく振るあいにヘンリーが鷹揚に頷く。
おいこら待て、自分の恋人に色気が無いと上品に優雅に肯定するな、とツッコむ余裕は今のあいには無い。
「まぁ、ないけどね。今は、」
ヘンリーは腕の中のあいを自在に動かし、自分と向い合せにしてそのまま顎を軽く持ち上げ、熱っぽいキスをした。
不意打ちで、しかも挨拶のキスとは絶対に違う熱の込めたキスをされて、あいの身体から一気に力が抜けてしまう。
「ほら、色気が出てきた」
「……そんな、ばかな…………、」
「ベッド、行く? それともこのまま?」
「…………行く」
もう逆らっても酷い目に合うだけ、とあいはまたひとつ学習したので素直に従った。
ぐったりと、真っ赤になった顔をヘンリーの胸に埋めると彼は満足そうにあいを横に抱き上げる。
(゜-゜)……の、後は当然もう夜戦ルート突入なのは言うまでも無かった←
○素直になれないの
ヘンリーが公務でノーブルミッシェルへと赴き、フィリップ城を留守にしているのは3日程。
たかが3日、されど3日。本来ならあいも着いて行くはずだったのだが、あいの体調が崩れたためにお留守番となってしまった。
体調自体は2日目には合流出来るくらいには回復したのでヘンリーに訴えてはみたが、ハウスと言い渡されあいはフィリップ城で療養している。
「ヘンリーは過保護すぎるんだよなぁ……」
自室のベッドでゴロゴロと寝転がりながら、あいはここには居ないヘンリーに不満を漏らしている。誰も聞いてはくれなくとも、とりあえず口にして毒づきたい。
それでもあいの胸中にあるのはヘンリーに対する労わりだったり、寂しさばかりだったが。
ああ、ちゃんとご飯食べてるのかな?ノーブルミッシェルに居るんだからある程度はジンさんが対応してくれてると良いんだけど、ロイドさんが居るから大丈夫かな。
「会いたいなぁ……」
やっぱり強引にでも行っちゃえばよかったかな、なんて。思っているところで枕元にあったスマホが音を立てた。
まるであいの悪だくみを咎めるようなタイミングで鳴った着信相手は、当たり前だとばかりにヘンリーだ。
「は、はい!」
「……声は元気そうだけど、ちゃんと寝てた?」
自分のスマホにヘンリーの名前が出ている事が嬉しくてあいが勢い良く出れば、向こう側からクスクスと笑い声がした。
全部御見通し、といった余裕を見せられあいがグっ、と押し黙る。会いたがっていたことが知られてしまうのがどうしても癪だったからだ。
元気になったからそっちに行きたいって言ったのに、なんの躊躇もなくダメと言われたことが若干引っかかっていたし、そもそも恥ずかしいじゃないか、と。
「あまり連絡出来なくてごめんね」
「いえ、」
そのつもりはなくても、返事がどうも素っ気ないものになってしまう。本当は今連絡してくれただけでも嬉しいと思っているのに。
ありがとう、と素直に言えずにあいはもどかしい気持ちのまま足の指をもじもじと開いたり閉じたりする。
「実は後2日かかると思ってたけど今日中には戻れそうなんだ」
「えっ!?」
捻くれたような返事をしていたあいが、一気に喜色に染まった声を上げてしまえばまたヘンリーが笑っている。
悔しいけど、でも嬉しい。不機嫌なんて一気にぶっ飛んでしまう。後2日も会えないと思っていたのに、今日戻ってくる。
「なんっ、」
じ、頃ですか?と続けようとしたあいだったがそこでまた黙り込む。帰国は嬉しい。だけど急かすような真似をしたらいけない。
ヘンリーは疲れているのだろうから。だから無理を言ってはいけない。今日中に戻ってきてくれるのだから、それで十分じゃないか。
「……どうしたの? まだご機嫌は斜め?」
「別にっ! 機嫌悪くないですけど!」
「そう? さっき明らかに拗ねてたのに」
「今さっき寝てたから、眠かっただけです!」
「ふぅん……じゃあ何を言おうとしたの?」
「……それは、」
言いかけて止めたのは本当に拗ねているからじゃない。でもそれを説明するのはとても苦しいというか。
当然ながら恥ずかしいというか。あいの表情が微妙で難しいものになっている。
ああもう。彼が帰ってきたら絶対に追及されるだろうし、からかわれるだろう。それでも今この場を誤魔化したい。
「ヘンリー、」
「なに?」
「ゆっくりで良いから気を付けて戻ってきてください」
受話器越しにちゅ、とキスを落とし胸から首筋まで痺れるような羞恥と勢いで通話終了ボタンをタップする。必要以上に何度も。
「あ゛あ゛あ゛ぁ゛あ゛ぁーっ! どぉーしようぅぅうっ! これはこれで恥ずかしいやつぅぅぅうぅっ!!」
もしかして正直に話すより恥ずかしい事をしてしまった。からかわれる案件を増やしてしまった、とあいは布団にもぐりこみ悶絶する。
ああ、もうこのままずっとここに籠城して一生出たくない。ヘンリーに今すぐ会いたいのに、どんな顔をして会えば良いかわからない。
「だから勢いだけで行動しない方が良いって言ったでしょ?」
「……ぇ?」
つづく!!w
明日には更新出来ると思う^^w
布団の隙間から顔を出すと、そこには会いたくて会いたくて仕方なかった人があいを見ていた。
きっと次に会った時、ヘンリーはとびっきりの意地悪顔をしているんだと思っていたが、存外とても優しい笑みを浮かべている。
あいは何が起こったか解らず呆然とヘンリーを見上げていたが、思考が追いついた瞬間また布団の中に潜り込む。
「……わ、わ……っ!」
「わ? わがどうしたの?」
「わたしは貝になりたい……ッ!」
「折角公務を早めに終わらせて戻ったら、会いたかった新妻が貝になるとか悲劇だよね」
無理やり布団をはぎ取ろうとするヘンリーに全力で抵抗を試みるあい。だが残念ながら布団ごと抱き上げられてひっくり返されてしまう。
彼の膝枕で仰向け状態のあい。ああ、網の上で焼かれた貝もきっとこんな気持ちなのだろう。今後、貝を食べる時は感謝の気持ちを大切にしなくては。
無理やり開かされたあい貝は、不要な貝殻となった布団をはぎ取られ無防備になってしまった。逃げ場が欲しくて目線を泳がせるあいの頭にヘンリーはひとつだけ唇を落とす。
「さっき……何時に帰ってくるのかって聞きたかったんでしょ?」
「え?」
「なんで言いかけて止めたの?」
「……いえ。それは……」
「どうせ俺を急かしちゃいけない、とかその辺だと思うけど……違う?」
ああ、本当はもう全部解っているくせに。言わせないと気が済まないのだろう。
「知らない振りしてくれても良いんですよ? 蒸し返さない方が良いことも世の中には一杯あるっていうか」
「それも良いと思ったけど、今後の俺たちに必要な話だと思うから」
再度見上げたヘンリーは決してあいをからかってもいなかったし、まして意地の悪い顔もしていない。
先ほどの優しい笑顔のまま、ヘンリーは諭すようにゆっくりと話を続ける。
「俺はあいが会いたがってくれるのは嬉しいし、拗ねてたって可愛いって思ってる」
あいが拗ねていた事も知っているし、拗ねていた理由も知っている。
その理由がとても愛おしいからヘンリーは無我夢中で仕事を終わらせ、今ここに居るのは解っているのだろうか?
恐らくは全く理解していない鈍感で愛らしいあいはヘンリーが髪を撫でて整えてくれるのが心地よく、目を閉じて彼の言葉に耳を傾けている。
「あいが来たいって言ってくれた時も嬉しかったけど、それよりも俺が早く戻ってきた方があいの体にとって負担は少ないと思ったから」
それはあいが会いに行くと駄々をこねていた時から言われていた言葉だったけど、その時言われた時よりすとん、とあいの中に落ちてきた。
実際ヘンリーは2日も予定を早めて戻ってきてくれたし、こうして顔を見ながら言ってくれると安心する。今なら、彼が本当に自分を大事にしてくれているからだと素直に受け取れる。
顔が見たくて、会いたくて無我夢中の時に言われても真っ直ぐには聞けなかった。
「何でも言ってくれて良いから。言いかけてやめるとか期待だけさせないで」
あいがあの時あのまま「何時に戻ってくるんですか?」と素直に聞いてくれたらどんなに幸せだっただろうか。
あの時はかなり期待した分、一気に落とされた気分だった。……まぁ、その後珍しいあいからのキスを貰えたからその辺は不問とするが。
だが、それはそれ。これはこれ。そんなもので満ち足りるような生易しい恋はしていない。幸せそうに体を摺り寄せてくるあいには悪いが、そろそろ優しい時間は終わりだ。
「俺が受話器越しのキスで満足すると思った?」
これは開戦の合図だ。ヘンリーはシレッと夜戦モードに切り替える。たかが3日、されど3日。寂しかったのはあいだけじゃない。
ん?会話の流れがおかしくなったような?と、あいが違和感を覚え上を向いたらそこには先ほど予想していた以上の意地の悪い、からかうような笑いを浮かべたヘンリーが居た。
「じゃあ、今まで会えなかった分たくさんイチャつこうか」
プレゼントのラッピングを解くような、ありがとー!とでも言わんばかりに軽快にあいの服を脱がせてかかるヘンリーに待ったをかけるあい。
予測済みの抵抗だったのでヘンリーは余裕綽々でそれを避けながら更に彼女が来ているブラウスのボタンを解いていく。
「い、いや! 私、病人ですから!」
そんな言い訳通すはずがない。昨日あんなに元気だとアピールしてきたのはあいじゃないか。
「ご飯おかわりするほど元気だからノーブルミッシェルまで来るって言ってたのは嘘だったの?」
「嘘じゃないけど、ぶり返しました! ほんと大人しく待ってて良かったです、おやすみなさい!!」
慌ててまた貝殻に籠ろうと布団を引き寄せようとするあい貝だが、そんなことは許されるはずもなく。
「ほら、直接キスした方が気持ちいいと思わない?」
「台無し!! さっきまでの感動返してくださいー!!」
あいが叫ぼうがわめこうが、誰も助けてくれない。
久しぶりに逢瀬を重ねている夫婦の部屋に近寄ろうとする者など誰も居なかった。
嬉しいけど、でもどこか腑に落ちないあいは最後の最後まで抵抗した。だが、それがどこまで続いたかと言われればそう長くはなかった、という。
もうこれはこれで完成で良いと思い始めたのでこれを足して完成としちゃう所存←w
面倒くさくなったんじゃないぞぅ!w
みたいか?この後書くとなると裏まっしぐらだけど!←
○犬扱いしないでよ
「こんばんは、ラッシー。いい子にしてた?」
「ヘンリー様!」
夜も更けて時刻は23時。もうすぐ日付も変わろうというときにあいの部屋に訪れたのはこの国の王子、ヘンリーだった。
因みにあいの婚約者という立ち位置に居る男はいつも彼女をラッシーと呼び、何かとからかってくる。
それは2人が恋人関係になってからも無くならないままだった。
「あ、お茶飲みますか?」
「いや、今日は直ぐに戻るよ。急に時間が出来たから明日は一緒に外に出かけようと思って誘いに来ただけだから」
「……え?」
「明日、ラッシーと散歩したいな、て言ってるんだけど……嬉しくなさそうだね?」
嬉しくない訳じゃない、ただいきなり降って現れたデートに脳がついてこれなかっただけだ。
ラッシーやら散歩やら言われているのもかなり気になるが、嬉しい気持ちの方が大きい。
だが、素直に嬉しいと言うのは少し悔しいのも事実だ。まして相手はあいの反応を見ながらニヤニヤ笑っている不届き者だ。
「……別に。嬉しく無い訳でもないですけど」
「そう? なら良かった。じゃあ、そろそろ俺は行くよ」
「……ほんとにもう行っちゃうんですか?」
まさか本当に言うだけ言って、行ってしまうなんて。
寂しい、と顔に出してしまって直ぐにしまったと思ったが時既に遅し。
ヘンリーがニヤニヤと笑ってあいを見下ろしていた。
「寂しい?」
「……別に。ただこれならメールだけでも良さそうなのにって思っただけです」
悔しくて更に可愛げの無いことを言うあいだが、それでもヘンリーの余裕な態度は変わらない。
「あいの顔が見たくてここまで来た、って言ってほしかった?」
「なっ!?」
思いっきり開けた口が閉まらないままあいが顔面を赤く染める。
ヘンリーの期待通りの反応を示してしまっていることはわかっているのに、顔に熱が集中するのを止められない。
「からかわないでください!!」
せめてもの反撃としていつもの文句を叩き付けると、更にヘンリーが嬉しそうに笑う。
ひとしきり笑い、落ち着いてから苦笑いを浮かべ会話の纏めに入る。
「本音だったりするんだけどね……まぁ、いいや。明日は早いから今日はしっかり寝とくように」
「犬扱いしないでください!」
「犬扱いなんてしてないよ。明日俺の朝ご飯を作ってくれて、俺とデートまでしてくれるあいの体を心配するのは俺の役目だからね」
「なぁ……ッ!?」
「それじゃあ、おやすみあい。明日楽しみにしてるよ」
更に愛してるよ、なんておまけを付けながら額に唇を寄せる男は間違いなくあいの恋人だ。
あいはヘンリーの背中が視界から消えるまで何も言えなかった。
夢見心地でぼんやりとしていたあいだが、無言で部屋に戻る。
「うひゃぁ、」
どうしよ、わぁ、うれし、うわぁ、ひゃー、などの言葉があいの口から零れているが、耳をすませないと聞こえないだろう。
だが、彼女がベッドにダイブした瞬間、これまで呟いていた言葉が大音量で室内をかけ巡る。
「うひゃぁっ! どうしよ! ヘンリー様超カッコいいしっ! デートだって! 明日デートだぁっ! どうしよ! 眠れないかもっ! でも寝なきゃー!」
ヘンリーの前で素直になれなかった分が大爆発してしまったかのようにあいがキャッキャ、キャッキャと大はしゃぎながらベッド上を転げ回る。
折角綺麗にベッドメイキングされていたシーツがグシャグシャだ。
だが、元来素直で良い子のあいがヘンリーの前でツッパってしまった分、心の中のウキウキが抑えられないようだった。
「明日は何を着ていこうかなー? ヘンリー様何が好みかなぁ、ああもう楽しみだなー、早く寝ないとデートの途中で眠くなったら困っちゃうしなー、あー楽しみだなー、」
「……俺はあいが何を着てても好みだし、早く寝てくれた方が嬉しいけどね」
「……え?」
返ってくる筈のない返事が返ってきて、あいがドアの方向を振り返る。
ドアの側に居るどころか、かなりの至近距離にヘンリーが居た。
興奮しててヘンリーの接近に気づけなかったようだ。
「な、な……なんでヘンリー様がここに……!?」
「いや、多分あいが今頃可愛いこと言ってるだろうな、と思って戻ってきたら案の定だったから観察してた」
「声をかけてくださいー! っていうか戻って来ないでくださいー!」
「俺がここまで来て、ただ帰るはずがないのはわかりそうな事だと思うけど」
「しれっと言わないでくださいー!」
ヘンリーがお茶をいただく体勢でくつろぎ始めたので、あいがキャンキャン言いながらお茶の準備を始める。
その姿がとてもラッシーっぽいと思ったヘンリーだが、口を噤む。今、軽口を言うのは間違いなく悪手だ。
先ほどのあいがとてもとても可愛かったので、なんとか色の良い雰囲気に持っていけないかと明晰な頭脳で考え始めていた。