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ウィルで書いた小ネタ3つまとめてみた。
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○おまたせ!
ああ、もう本当になんて生産性の無い休みにしてしまったのか。
後悔はしてるけど、多分また同じことをくり返してしまう。だって今私すっごく気持ちいいもん。
私は今、夕方からお風呂を楽しんでる。こんな時間からお風呂なんて、なんて贅沢。
「んー……きもちいー、」
そもそも前日に夜更かしをしたせいで、起きた時には太陽は真上まで来ていた。
そこから更に寝ちゃうというありえない愚行を働いたせいで、もう夕方。
「うん、あのダメ押しの昼寝はダメだった」
私は体を洗おうと、湯船から出て浴用椅子に座る。
湯船に入る前にも洗ったし、次はお気に入りの香りがするソープでサッと洗って出よう。
体もスッキリしたし、頭の中もかなりスッキリしたからこのままちょっと仕事をしても良いかも。
オリエンスで買ったバニラやグレープフルーツの香りがするボディソープで洗って、頭から熱いお湯を浴びて私はほっと息を吐く。
そもそも、私が二度寝をする程に疲れていたのにはわけがある。ボディソープの名前を見て私は昨夜の出来事を思い出して溜息を吐いた。
「全部ウィルのせいだし……ほんとにもー……、」
髪を束ねて、もう少し泡をしっかり流そうと手を動かしてると脱衣場からガタガタ、って音がした。
あ、すっごく嫌な予感。っていうか嫌なシルエット。泡を流すんじゃなかったかも。
多分間違いなく予想通りの展開が起こると予測した私は体を洗うタオルで前を隠して身を強張らせる。
「お待たせ」
「待ってませんけどっ!!」
「そんなに寂しかった?」
「拗ねてもいませんけど!!」
しれぇっと入ってきた全裸のウィルに私はいつも通りにツッコみを入れるけど、相手は全く気にするつもりはないみたいだ。
って言うかなにこれ。いつも以上に会話の展開がおかしいんですけど。
「そもそもなんでここに居るんですか!? 確か今日は来客があるって……っ!!」
「用が済んだから帰ってきたんだ。だからまた君と寝ようとしたら、部屋にいないし。でもここから音がしたから……」
「入浴中だって解ってるのになんで入ってくるんですか!」
「ここに君が居るから」
「ここに私が居るから入ってきちゃ駄目なんですよ! もう仕事に戻って下さいー!!」
「……俺たちは夫婦だし……、今日は休みだ」
「せ、せめて部屋で……、」
「……寒い、」
「……そりゃそんな格好じゃ寒いって言うか、私も寒いです」
「解った、ドアを閉める」
「普通に入ってこないでください!!」
「でもドアを閉めないと……」
「出てから閉めるんです!!」
「でも俺も寒い……風邪引きそうだ」
「服を着れば良いでしょうー!!」
なんて言っても既に彼は私で暖をとる気満々みたいだ。
私は今ある選択肢の中から一番最良のものを選ぼうと悩みだす。
でも、その選択肢の中に当たりが無い事は実は随分前から悟ってる。アーメン。
なんて感じのを書こう。 ちゃんと真面目につけたそう。 今はただ眠いのである(^q^);
○「ずっと傍に居る」
「はい、あーん」
「……えーっと、ですね。私、そこまでしなくてもだい」
「はい、あーん」
「えー……と、」
「はい、あーん」
「あーん……」
一体全体、何がどうしてこうなったのか。なってしまったのやらやら。食後に口の周りを拭いて貰ったりしながらあいは肩を落とす。
風邪を引いて寝込んだあい。クロードに安静をキツく言い渡されぼんやりと天井を眺めていたら視界に愛しい恋人の顔がニョキ、と現れてからというもの。
ウィルが甲斐甲斐しく看病をしてくれている訳だが……まさかの食事から着替え、汗を拭いたり至れり尽くせり、もう良いわの状態なのだ。
「なんか久しぶりだね、あいの看病」
「そうでしたね……」
「確か去年のクリスマスだったっけ?」
「もうあれから一年でしたっけ……」
そういえばはちみつレモンを作ってくれたのもその時だった気がした。あいが懐かしむように微笑むと、少し冷たいウィルの掌が頬を撫でる。
優しく、慈しむように動くその手にあいは頬を寄せて甘えた。その動作は猫のようで、ウィルは嬉しそうに眼を細め笑う。
「まだ熱いね……ツラい?」
「大丈夫です、本当に大丈夫です! 自己管理が出来てなかった自業自得の風邪ですし……!」
これでダメ、ツライと言えば次は何をしてくれようとするか解らないのであいは必死に元気アピールをする。
だが、あいの恋人はとても優しげな笑みを浮かべた。あ、やな予感。
「大丈夫、そんなに気にしないで。俺がちゃんと看病するから……全部ね」
「なんか引っかかる所はありますけど……ありがとうございます」
「じゃあそろそろ身体拭こうか?」
「ウィル……ご飯食べる前に拭いてもらってる気がするのは私の体が熱に魘されているせいでしょうか?」
「だってご飯食べると汗かくから……」
「……良いです。絶対に良いです」
と、なんだかんだ言ってもやっぱり弱っている時に傍に居てくれる恋人はやっぱり心強い。例え汗を拭くとばかり言って体に触れてこようとする恋人だろうと。
ふと、顔を上げると頬を撫でていたウィルの手が顎へと移り、クイ、と持ち上げられた。超至近距離で目が合う。
あいが視線を逸らし、言葉を紡ぐため唇を動かそうとしたが、彼の唇に蓋をされ、啄むように何度もキスをされる。
「かっ、風邪ッ、移っちゃう……っ!」
「いいよ、移して。今度はあいが付きっきりで看病して」
「いやいや、それってクロードさんに怒られるパターンですよ。しかもまた私が風邪を引くパターンです」
「その時はまた俺が側にいて看病する」
「……そんな馬鹿な」
「ずっと傍に居る」
ウィルの思いはいつも素直で真っ直ぐで、くすぐったい。また熱が上がってしまいそうだ。
幸福感で頭がフワフワして何だか落ち着かない。トロトロ蕩けてしまいそうなあいの頬を両手で掬い取り、ウィルはくすくす笑う。
「あいは?」
「…………え?」
「あいは、俺と傍に居たい?」
「………………それは、居たいですけど」
「じゃあ、もっとキスをしないと」
「それはちょっと色々間違ってると思いますけど、」
それ以上は何も言わせては貰えず。ふわふわと唇同士を合わせて、触れて、重ねて。
ウィルの唇の感触に、あいは身体の奥で風邪による熱とは違う温もりを感じて瞳を閉じる。
身の内、奥底から湧く温かさに微睡み落ちそうだった。
「……手、つないでください…………」
「うん」
「ねるまで、そばにいてください……」
「他には?」
「おきるまで、だっこ…………」
「いいよ。傍に居る」
そっと額にキスを落とされ、それがスイッチだったかのようにあいが眠りにつく。
夢の中でもずっと、ウィルの温もりを感じながら、掌から伝わる優しさを感じながら幸せのままで。
次に起きたら真っ先に想いを届けよう。夢の中であいはウィルに甘えながらも忘れないように強く思っていた。
○例え話をするなら幸福な話を
「これは例えばの話なんですけどね」
「……唐突だね」
もちろんウィルは彼女の唐突な発言になど慣れっこだ。
慣れっこだが、どうしてもその場でツッコんでしまうのはもう仕方のない事だと思う。
さて、今回はどんな謎かけやら無理難題を提示されるのだろうか?
「例えば私が嘘偽りなくこの場でウィルのことが好きだと言うとします」
そこまでは大丈夫か、と視線で尋ねられたのでウィルは小さく笑いながら頷くことで大丈夫だと答える。
すると彼女は嬉しそうにうなずき返して会話を続けた。
「先ずこの時点でウィルは信じてくれますか?」
「うん、そうだな……」
あいは素直で正直な顔をしているから、おそらく嘘を口にすれば直ぐにわかるだろう。
この質問をしている時点でウィルの答えを待つのに手に汗握っております、といった顔をしている彼女が嘘をつける筈もない。
「そうだな……君はいつも表情で感情を語るから、どんな顔をしてるか見てから決めると思う」
あいが不服です、と不満の塊のような顔でウィルを見ている。
きっと彼女が聞きたい答えではなかったのだろう。
それでも彼女は諦めないらしい。少し間を開けて、再度ウィルに質問をしてくる。
「……どういう表情の時なら信じてくれるんですか?」
「それを言うと今後俺が不利になりそうだから言わない」
に、と小さく唇で弧を描くウィルにあいが本日一番の不満そうな顔をする。
ほら、言った側からもう顔でしゃべり始めているじゃないか。
きっとウィルが種を明かしても、彼女に駆け引きじみたやりとりは一生出来ないのだろう。
「じゃあ、」
言い負かされて尚、何かを言い募ろうとするあいの唇に人差し指を当てることでストップをかける。
「次は俺の番だよ」
そうでしょ?とウィルが有無も言わせない雰囲気をまといながら笑う。
あいはやっぱり不満そうな顔をしていたが、それはこれからの話を止める材料にはならなかった。
「例えば、もしもの話だけど」
出だしは彼女と同じ内容のもの。
その出だしはあいの興味も引けたらしい。掴みは上々、悪くない。
「すごく好きな子に例えば好きって言われたら信じるかどうか言われて凄く嬉しかったんだけど」
「え?」
「……でも喜んだところで例え話でしかないんだ。その場合俺はどうしたら良いと思う?」
彼女がなにを聞きたかったのか。なにをしたかったのかは彼女しかわからない。想像したところでいつもウィルの想像の斜め上にいるのがあいだ。
ウィルは円周率を割り切ろうとするような、途方もない無駄な労力は割かない事にしている。
でも、駆け引きをするなら一歩も引かないし、負けるつもりもない。ましては、
「あいが仕掛けたんだから、逃げるのは無しだよ」
逃げる、なんてコマンドは当然選択不能に決まっていた。