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ヘンリーで書いた小ネタ3つまとめてみた。
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○ラッシーのしつけの話
「ラッシー、これなに?」
「歯ブラシですけど?」
いやそれはわかるけれども。
ヘンリーはあいの歯ブラシを見てため息をつく。
「同じタイミングで用意した筈の歯ブラシなのに、どうして君のやつだけこんなにぼろぼろなの?」
「……私の方が歯を磨いてるから……」
「この部屋は俺の部屋だから、必然的に俺の方がここで磨いてる計算なんだけど」
「……私の方が丁寧なんですよきっと」
「そもそも普通に歯を磨いてるだけでここまでぼろぼろになる?」
あいの歯ブラシは無惨なほどぼろぼろになっている。
ブラシの部分が広がっているのは当然の事で、ブラシがない部分にも噛み痕があった。
「……昔から癖なんです。お母さんには怒られたけど結局直らなくて……」
「ふぅん……歯は生え変わった後なんだけどね?」
「……あ、今良くわからないけどラッシーネタで私を小馬鹿にしたのだけは解りました」
「まぁ、どの道しつけ直ししないといけないよね」
にやり、と嫌な笑いを浮かべたヘンリーにあいがゾゾ、と戦慄する。
ああ、嫌な予感しかしない。きっと犬の教本を持ってまた何かおかしな事を始める気なのだ。
「本気で直さないと、うっかりと噛みつかれたら困るからね」
「人は噛みませんよ!!」
「ほら。遊んでる延長で良く噛む犬とか居るし」
「だから噛みませんってば!」
「甘噛みや背中を引っかくくらいなら良いけど、おもいっきり噛まれたら痛いし」
いつ、どのタイミングの話をしているか解りやすく言われあいの体温が一気に上昇する。
それをみたヘンリーはやっぱり嬉しそうな、楽しそうな顔をしていて。
早く直さねばどう言ったカテゴリーのしつけが始まるか理解したあいはその日の夜から早速噛み癖を直すように意識したのだった。
○今すぐ飛んでいく
いつもの執務室、いつもの書類処理、いつもの下らない縁談話。
愛すべき仕事達をあしらう様に捌いていくヘンリーに、執事のロイドが更に情報を加えていく。
そして国を左右するような案件を述べたその口で、ロイドが最後に添える様にヘンリー自身を揺るがす内容を口にした。
「あいさんがお見合いに向かっているそうですね」
「は?」
「いえ、先ほどあいさんに会いまして……どうも親戚からの話で断り切れなかったようです」
ロイドの口から淡々と発せられた言葉を理解するのに数秒を要して固まるヘンリー。
明晰、としか言いようがない頭脳の持ち主だが、拒否感が強い言葉を聞けば思考回路が上手く回らないのだろう。
だがそれでもヘンリーの感情を置いて、脳は丁寧に今の言葉を情報として処理していく。
あいがお見合いをしに行った。他の男と。
恋人である俺を置いて。
しかも何も言わずに。
そう、あいはヘンリーには何も言っていない。ただ親戚に呼ばれたとしか言わなかったのだ。
ロイドの声が大きかった訳でもないのに、何故かヘンリーの脳内に反響していた。
だが、情報処理が全て終わると早速ヘンリーは今、自分が優先的にやるべき事を脳内整理し始める。
あいが既に見合いに向かっている。今すぐ何とかしないといけない。これが、大前提。
破綻しそうな大企業はぶっちゃけるとどうしようもないから後処理を考える。まだ今やらなくても平気。
縁談に関しては全て断るからロイドに処理させれば良い。大丈夫。
この面倒な工場見学も来週の話だから今、書類に印を捺せば良い。
淡々と考えながら、手は黙々と書類に印を捺している。
考えている間だけは無感情、冷静そのものだった。それもその筈、数秒で脳内整理を完了しているのだから。
とりあえず急ぎのものを処理した後、ヘンリーが深く呼吸を落として立ち上がる。
「俺は今、頭がガンガンしてどうも腹痛みたいだから後は全部任せるけど、良い?」
良いよね?と圧力をかけながら、見ればわかる状態にした書類をロイドに差し出す。
こうなるのは解っていたロイドは余裕綽々の笑顔で全て受け取る。
頭が痛いならそれは頭痛じゃないのか、なんて野暮な事は言わない。時間の無駄なので。
「はい、ではどうぞ行ってらっしゃいませ。道中お気をつけて」
「ありがとう」
頭が痛くて腹痛であると言い放った顔色良好のヘンリーは颯爽と執務室を出ていく。
その後ろ姿を目線だけで見送り、ロイドがため息をひとつ。
「すみません、あいさん。今言っておかないと後が面倒くさくなると思うので」
苦笑いをしてロイドが今頃のほほん、と見合いを断りに行っているあいに謝るのだった。
○浸透力の高い水をどうぞ
「……んー、」
夜中にふと、目が覚めた。私は身動き取り辛い状況を特に不思議に思う事無く、相手を起こさない様に体を動かす。
そぉ、と。ヘンリー様の腕の中から抜け出してゆっくり体を起こした。
彼を見下ろすと、まだぐっすり寝てるみたいだ。
「……ちょっと離れますね、」
本人は寝ていて、聞いてる訳無いと思いつつもなんとなく断りを入れてしまう。
なんとなく、ヘンリー様が起きてたら「勝手にどこに行くの?」とか言いそうだから。
「……どこに行くの?」
こっそりと、ひっそりと動いてたのにヘンリー様が起きてしまったみたいだ。
しかもちょっと、機嫌悪い。かも、しれない、ような。
「あ、喉乾いちゃって……お水が飲みたいな、と……」
「ふぅん……ベッドの下にラッシー用のポカリがあるけど」
「ほんとですか? ありがとうございます」
いつも色々とシタ後喉が渇く私の為にオリエンスから取り寄せてくれたらしい。
私は常温のポカリが好きだから丁度良かったりする。
嬉々として開いて、ごくごく飲むと体の隅々に水分が行き渡るような感じがしてうっとりとしてしまう。
「……ラッシー、俺にもちょうだい」
むくり、と隣に居るヘンリー様が起き上がったから新しいポカリを下から探す……けど、無い。
飲みかけを渡すのも悪いしなぁ、と思ったけどこれしかないし。
「……これで良いんですか?」
「なに? 口移しで飲ませてくれるの?」
「いえ、絶対嫌ですけど」
きっぱり言うとヘンリー様が少し不満そうにしてる。
正直イロイロした後だから口移しなんて全く問題ないけど……そう言う問題じゃないの。
寝起きの乙女には色々あるの。寝起きの歯垢だらけの口でキスとか絶対したくない。
「そこまできっぱり言われると……させたくなるんだけど」
「しません」
「じゃあ俺からしようか?」
「させません」
口を引き締めて一文字を作ってそっぽを向く。今すぐ歯を磨きに行けば済む話だけど、こっちも意地になってる。
でも、こうなっちゃうとヘンリー様は……あーあ。すっごく楽しそう。眠気なんて吹っ飛んじゃってそう。
私が警戒すると、ヘンリー様は私の鼻の穴を指で挟んで鼻から息が出来ないようにしてきた。卑怯!姑息!!
「むぅぅううぅっ!!」
私が言葉にならない声で抗議するけど、ヘンリー様は私が酸欠に耐えかねて口を開ける準備をしてる。
ポカリが彼の口内に含まれた。くっそぅ、私がこのまま音を上げるのは解りきってると言わんばかりのその態度がムカつく。
彼に一矢報いたい。だけど酸素が足りなくて焦る脳みそじゃ何も思いつかない。
「うーっ!! むぅうぅうーっ!」
この後私が口を開いて、悶絶してる間に彼からポカリを与えられたのは言うまでもない。
という、裏に続く香りを感じてもらえたらはちさん的にもオールオッケーです。
どうでもいいけどはちさんは常温のポカリなんてオエップですけどね。
友達は常温のが好きっていうから主人公にその属性を付けてみたよ。