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【社恋】僕らの恋愛戦線【創と桜澤】
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*Summum Amor, summa iniuria.
「…なんで僕たち男二人で寂しく飲んでるのかなー?」
「しかたねーだろ、アイツが遅くなるっつーんだから」
シックで落ち着いた雰囲気、背の高いテーブルにはこだわりを感じる店内。
どこか閉鎖的な空間は隠れ家みたいで、女子は好きそうだった。
こういうちょっとした穴場的雰囲気は桜澤チョイスだろう。
…決して目の前の不遜な態度の同僚を喜ばすためじゃなくあいを喜ばそうと予約したというのに何故か目の前の不遜な態度の同僚が無理やりついてきた。
「僕は、あいちゃんと一緒にディナーを楽しみたかったんだけどな」
「そのあいちゃんも直にくるだろ。一緒に楽しめよ」
興味なさげに飄々と頬杖ついてメニューを見て酒の種類が少ねーだのとグダグダと文句垂れる創に桜澤は目元をひくつかせる。
「“二人っきり”で楽しみたかったの!」
「別に付き合ってる訳じゃねーんだからいいだろ」
「…この際だから言っておくけど、僕は本気であいちゃんが好きなんだ」
だから邪魔すんな。
頼むから邪魔してくれるなと桜澤が牽制するが先程の態度を崩さず創が俺も、とやっぱり興味なさげに言った。
あいに対する好意を酒を選びながら告白する創に桜澤が我が耳を疑った。
まるで自分もワインが好きだと言わんばかりの軽いノリで言われ何を言ったか直ぐには理解出来なかった。
少し、時間経って理解したらそれは宣戦布告だと気づき顔色を変える。
まさか自覚していたとは。
創があいへの恋心を自覚する前になんとかあいを射止めたかったのに。
同期だから解る、この男を敵に回した時の恐ろしさを。
しかし気付いたと言うのなら桜澤とて退くつもりは毛頭ない。
受けて立ってやろうじゃないか。
「本気?」
「ああ、本気。俺あいついないと無理っぽい」
「やっぱり気が合うね、僕もだ」
お互いニヤリと笑みを浮かべる。
闘いは始まった。
先ず一戦目はあいがカウンターに座る創か桜澤どちら側に座るかから。
遅れてきたあいは凄まじい目で迎える二人におののきながらも近寄っていく。
しかし空いているのは桜澤の右隣か創の左隣。
右に行こうとすれば創の目が釣りあがり左に行こうとすれば桜澤の顔が不安気に歪む。
流石の鈍感クイーンあいもその法則には気づけたようだ。
しかし後一歩足らなかった。
二人が何故そうなるかまでは考えない。
困ったあいは立ち尽くすが何か閃いたらしくポン、と手を叩く。
我ながら妙案だと嬉しそうに二人の真ん中に突っ込んでいく。
どちらか横に移動して欲しいとお願いすれば創は動かないがフェミニスト桜澤はあいの願いを聞き入れ右へとずれる。
そして桜澤が座っていた場所にちょこんと納まった。
「両手に華ですなぁ…」
温泉につかりほっと一息つく頭にタオル乗せた親父の如くまったりするあいに二人がずこっと頭を揺らして戦意を喪失する。
1戦目は、ドローだ。
そして2戦目。
「あ、あいちゃん、奇遇だね~」
二人きりでエレベーターなんてラッキーだと桜澤が揚々と乗り込んであいと世間話をする。
31階なので意外と時間がかかるエレベーターで二人きりはラッキーだ。
昼食の約束でも取り付けてしまおうとエレベーターのドアが閉りかけた瞬間。
あいを振り返ろうとした、が。
「うらぁっ!!」
その前に変な掛け声と共に何故か閉まり際のドアの間からデカめの封筒が突き出てきた。
…勿論、優秀なエレベーターはその異物を感知しドアを開ける。
開いたドアから満面の笑みを浮べた創が“よぉ!”とご機嫌で手を上げる。
「創センパイ!!危ないじゃないですか!」
そうだ、良く言った!
もっと言ってやってくれ!
桜澤が内心で歯噛みしながらあいに自分の思いを託した。
「今から取引先に行くから急いでるんだよ」
「ああ、なら仕方ないですね…」
いやいやいや仕方なくないよ!
絶対仕方なくないよ!
あっけなく言い包められるあいにやはり内心で吠える。
「だけど普通ボタン押さないかな?もし中の人間に封筒が刺さったら危険だよね?まさかPCだけじゃなくてエレベーターでさえもアナログ街道まっしぐらなのかな?」
「ああ、的がもう少し左にいればなぁ…」
わかっちゃいたけど完全にドア際に桜澤がいることを想定しての事だったようだ。
「ちょっ!本当に当たったらどうするつもりだったの!?」
「大丈夫だろ、中ぺラいし」
ヒラヒラと封筒を揺らす創に桜澤がピンときた。
「そのぺらっぺらの封筒で取引先に行くつもり?」
「おー、まぁーなー」
更にヒラヒラと厭味ったらしく封筒で遊ぶ創に内心で舌打ちする。
創の取引先は下のコンビニ。
抜け駆けしようとした桜澤を見通して乗り込んできただけだったようだ。
2戦目、抜け駆けの妨害に成功 創一勝
そして舞台は夕日が差し込む夕方のオフィス。
今日は思いのほか仕事が早く片付き定時で帰れるようだった。
さてどうしようかとあいが考えを廻らせる。
その隣にいる創も今日は定時上がりのようだ。
「あー、今日お前暇なら飯付き合えよ」
ぶっきらぼうだが創がデートに誘う。
それにあいが珍しいな、と思いつつもまぁいっかと誘いに乗った。
桜澤はまだ外回りから帰らないのでこの場に居ない。
ならばさっさとあいを連れ出してしまうが吉だろう。
「なら急げ!早く準備しろっ」
自分のパソコンは既に電源を落としているのであいのパソコンの電源を落としながらあいの身支度を促す。
しかし、世の中上手くはいかない。
そういう風に出来ているのだ。
「あれー?二人ともどうしたのかなー?どっか行くのー?」
普段優雅な佇まいでキラースマイルの1つでも浮べていそうな桜澤が額に汗を浮べて出入り口に立っていた。
どうやら定時に合わせ猛スピードで帰ってきたようだ。
直帰すればいいものを…っ、と今度は創が内心で歯噛みをする。
何故この日に限って…。
…まさか、全て計算済みだとでも言うのか?
あいの肩越しに桜澤を見れば余裕で目を細める。
ああ、今日の仕事の進捗状況を見て、しかも自分があいを誘うのも全てお見通しだったのか。
「ああ、男女1組の店に行く予定だから、お前無理」
「いやだなぁ、折角急いで帰ってきたんだから僕も入れて欲しいなぁ~」
ね?あいちゃん?
卑怯な事に桜澤はあいにお伺いをたてる。
当然あいはにぎやかなのが好きなのだから首を縦に振り創に異議申し立てをする。
「折角だしいつもの大森亭に行きましょう!3人で!」
そんなあいの後ろでニヤニヤと笑う桜澤の笑みにイラつくがこの状況で文句いうのもかっこ悪い。
「…ああ」
3戦目、デート阻止に成功 桜澤一勝
そして4戦目。
定時、久留巳と南雲とあいがどたばたとフロアから出て行った。
何事かと出口に消える3人を創と桜澤がのんびり見送る…が、今日は飲み会だった。
そして駆けていったのは下っ端トリオ。
「部長、あの三人はどうしたんですか?」
「ああ、大森亭に予約入れ忘れたから場所取りにひとっ走りさせた」
しまった。
敵はお互いだけじゃない。
久留巳、南雲も十分に危険因子だ。
二人もまた三人を追って大森亭へと急いだ。
「なんなんだ、あいつら」
「きっと飲み会が楽しみなんですよ」
「…あいつらの事なんだと思ってんだよ」
のほほんと笑う佐久間に郷田が疲れたような顔をする。
そうしている間にも甲斐と白鷺が戸締りやらセキュリティ面の管理をしているのをみてあいつらにお前らの爪の垢煎じて飲ますから爪の垢提供してくれよ、と独りごちた。
二人が大森亭に着いてみれば案の定あいの両サイドは久留巳と南雲が固めていた。
それに創と桜澤が嫉妬したなんてここに書くまでもない。
「創、先ずは邪魔な敵を減らすのに手を組まない?」
「ああ、構わないぜ」
目線を合わせてお互い性質の悪い笑みを浮べる。
目的は一緒、利害は一致した。
「じゃあ僕は久留巳君担当するから南雲君よろしくね」
そう言って桜澤は久留巳の横に付く…否、憑くと言うべきか。
…南雲は強引に酒を飲ませば一発KOとして…久留巳は結構手強いのに進んで受け持つとはどうした事か…。
と、創が不思議に思いつつも脅しながら酒を与え飲み会開始前に南雲をつぶしあいの隣をキープした。
桜澤は側にいる女子を捕まえどう?彼かわいいでしょ?と突然久留巳のプレゼンを始めた。
当然クオーターでクリクリの瞳がチャームポイントな久留巳に女子達は食いついてくる。
女子達に腕を引かれて引っ張られる間に桜澤もあいの隣をキープしたのだ。
ああ、これは桜澤ならではの手法だな、と敵ながら天晴れだと創が妙な感心をした。
4戦目、25歳コンビ 大人気なくいたいけな後輩を退け勝利
その後も醜い諍いをあいの前で繰り広げていたある日、あいが嬉しそうに二人を見ていた。
なんだ?自分達がお前と取り合う姿が嬉しいのかと創と桜澤が不思議そうにしていればあいが嬉しそうに…しかしどこか少し寂しそう微笑む。
「二人とも仲良くていいなぁ…。なんか入り込む隙がなくて少し寂しいです」
…自分達は彼女を獲り合ってガチで争っているというのに羨ましいとはなんだろうか。
しかし彼女は本気で言っているのだから、もう降参だ。
「あいつ…、鈍感で済むレベルか?なぁ?」
「…いや、まぁ…そういう所もかわいいよね、うん」
「お前それは甘やかしだぞ!そんなん言ってたら全く気づかれずに一生終わっちまうじゃねーか!!」
確かに創の意見はもっともだ。
黙っていたらあいは本気で気づかないだろう。
しかし、そんなおとぼけたあいが二人のお気に入りなのだから、救いようが無い。
5戦目、惚れたほうが負けの定説に則り あい無条件勝利
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<font color="gray">極端な愛は最大の不正である</font>