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【miya】
月組の……わたしたちの千秋楽は無事終わった。
あれこれアクシデントはあったけど
いい公演だった。楽しかった。
タップは苦労したけどね。
星組は……
まだ中盤戦だね。
すごく近くにいるけど、なかなか会えない。
まぁ、そんなものだよね。
あ、
あしたって月曜日……か。
…っと。
考え事しながら東京を歩くのは危ない。
見慣れない車が速度を落として
きゅっと、歩道に寄せてきた。
え。
……港区ナンバー……?
運転席の窓がするする降りて
爽やかな黒髪のイケメン。笑顔。
……まさかのナンパ…?
って。ちがうわ。
「はぁぁ?!カイちゃん?!」
「へへー、みやちゃん乗って♪」
へへーじゃないでしょ。
「なんなのよ急に。っていうか、この車なに」
「借りちゃった。みやちゃんと東京デートの
チャンスなんて、めっったにないからさっ」
「……」
長年よぉく知ってて、慣れてても
このストレートな好意の出し方に
改めて、おお!って思うんだから。
まぁ
あちこちでモテるんだろうなぁ。
ほんと、カイちゃんね…
相変わらずね、相当だよね。
にこにこしちゃってさ。
まぁ……わたしもこうやって言われるがままに
乗っちゃうんだけどね。
しかも、わざわざ降りて
ドアとか開けてくれちゃうんだ。
「どーぞ」
促されるまま
助手席に座ると
……好きな曲が微かに流れてる。
ドアを閉めたら
もう外から隔てられた空間になる。
急にしん、とする。
ちょうどよく冷房が効いてる。
カイちゃんが、
前を見たまま、左手で手の甲を撫でてくる。
あ。
キモチイイ。
「観に、行きたかった。みやちゃんのタップ」
「ふふ。いいって」
「…あいたかった。近くにいたのにあえなくて」
「ふふ。いいって」
「みやちゃん、行きたいとこ、ある?」
優しい。ほんとにね。
(たぶん誰にでもね)
「……カイちゃんは?行きたいとこ、」
撫でていた手を止めて
ほんのすこし困ったような顔で
まっすぐこっちを見る。
……この視線。
きゅんとしない人が居るんだろうか。
「ベッド」
「…っ……////せっかく、車借りたのに?」
「うん。せっかくわざわざ借りたのに
みやちゃんの魅力にまけたんだ」
そう言いながら
こっちに身を乗り出して
キス。
……上手だなぁ。
「…っ。ん……」
あ。
キモチイイ。ちょっと声が出ちゃう。
「…ね…みやちゃん……、みや、ちゃん」
キスの合間に、そんなに呼ばないでよ。
どきどきするからやめて。
唇を離す。
数センチの距離で目が合う。
近い…。
…はぁ……断れないって。
「……賛成」
「やった♪」
嬉しそうな顔。
かわいい。
なんだかすごく好きになっちゃってる?と
最近、時々おもう。
こんなの、ホントに初めてで戸惑う。
…でもこれは、
甘い戸惑い。
うん。悪くない。
「カイちゃん」
「ん?」
「わたしも、カイちゃんに、あいたかった」
「…………っ////」
お。ちょっと赤くなった。
あ。ちょっと目逸らした。
「カイちゃん…唐突に本気で照れるのやめて?」
「…嬉しくて…」
今晩はまず間違いなく甘い夜。
この甘い感じが
どこに繋がってどう流れていくのか
さっぱりわからないんだけど。
今はっきりわかることは、ひとつだけある。
今夜、
わたしはカイちゃんと一緒。