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【kai】
ひさしぶりの夜は
夢中のうちに過ぎて。
ほんと、…朝なんてすぐだな。
「カイちゃん
ほんっと最近、暑いから気を付けて。
夏バテしないようにね?」
あ。なんかそれ。
先に戻るから
しばらく会えなくなる的な気遣い?
「心配無用」
とりあえず平気そうに返してみる。
うん。余裕は大切だよね。
「カイちゃ……ん、今日戻るから
もうそろそろ出る準備しないと」
「ん。わかってる」
恋人繋ぎで指を絡ませたまま
全裸のみやちゃんの上に乗ってて
なにが「わかってる」だよ、とは
自分でも思うんだけどさ。
…そう言わないとおこられそうだから。
ほんとは、みやちゃんに
あとちょっと一緒に居て、と言いたい。
なんかこう、さりげなく上手に伝えたい。
駄々っ子みたいじゃなくて。
な、の、に。
うっかり口から出た言葉は
「も1回だけ、ちょっと指入れてもいい?」
…いや…なんか、間違えたよね、テンパったな。
「……!//なに寝ぼけたこと言ってんの//っ
もう、寝ないでさんざんシたでしょ」
ぱしっ、と軽く頭をたたかれた。
…痛くないよ、みやちゃん。
口では怒りながら
一瞬目をそらし、
ほんのすこし顔を赤らめるみやちゃん。
かわいい…。
ああ。なんて可愛い生き物。
細い手脚、大きな瞳。
機嫌がくるくる変わる
血統書付きの仔猫みたい。
手をしたにずらして、
そっと触れるともう濡れてる。
ちょっとだけ、指を入れる。
その瞬間、ぴくん、と顎が上がって
すごく色っぽい。
開いた唇からちょっとだけ声が漏れる。
ほんと、いい声。ヤバい声。
「ねぇ、みやちゃん」
こんな簡単に溶けないでよ。
誘惑しないで。
「な、に?ン……あっ……っ……ふ……」
「も、すこしいっしょに居たい。離したくない」
「あっ、カイ、ちゃ、あっ」
「は……」
「さっき、イッたばっか…だか」
「…いくらでも、よく…なってよ」
ほんとに、叶うなら、いつまでも一緒に居たいよ。
「あっ、あ、あ、だめっ、また……ッ」
眉を寄せて、
潤んだ大きな目がこっちを見る。
抱き寄せる細い身体が痙攣して
それから、静かに横たわる。
重ねるごとに感じやすくなる身体。
飽きることができない。
さいご、果てたあとは
暫く美しい眠り姫になる。
ふふ。
ほんと、油断した顔。
これもぜんぶ独り占め。
ほんと綺麗な人だよね。
何年見ても飽きない。
髪を撫でて
そっとキスをして
短い眠りから覚めるのを待つ。
そうしていると
ふんわり、お姫様は目を開ける。
満足した、満ち足りた表情でこっちをみる。
優雅が、ほんとに似合う。キレイだな。
「……起きた?」
「ぅん、…」
「まだここで、一緒にいたいよ、みやちゃん」
頬を撫でながら今度こそ正直に話す。
「一緒に居たいって……どっち?
このベッド?……それともユメの世界?」
「……どっちもだよ」
「…カイちゃ」
「みやちゃん。好き、だよ」
キス。
ひとを好きになって
寂しくなることがあるなんて。
そんなの知らなかったんだ。
女の子は砂糖菓子。
楽しくキスしてたのしくエッチして
後腐れないのが1番だよね勿論
そう思ってきたけど。
いまは
心のほうがたくさん欲しい、と
思うことすらあるんだ。
ヤバいなぁ。
ここに来て後ろ髪引かれまくってる。
男役の仕事は
さいご、クールに甘く去るところまで、なのに。
そんな不安を見透かしたように
ふわっ、と
細い腕が抱き締めてくれる。
「…ひろきのお兄様、なにか心配?」
さっきは背中に立てた指先で
こんどは優しく撫でてくれる。
「心配なんて…してるよ」
セクシーな眼差し
儚げな体つき
優しい声
かんたんにボディタッチするところ。
なにもかも全部が心配だよ。みやちゃん。
離れたくないんだ。
でもわかってる。
自分達の掟。
止まれない。留まれない。
前に進むしかない。
それは最初から決まっていること。
だからこうして時々おたがいに手を伸ばす。
仮初め上等だよね。
だってそのときは本気なんだから。
だってその安らぎは本物なんだから。
いつだって
時間になれば
みやちゃんを、自分を、信じて。
手を離すんだ。
「ん、じゃ、またね」
「ん」
「7月末かな?」
ヤバい長い。
「そうだね。……カイちゃん?ふ。なにその顔」
「……」
「なにがあってもカイちゃんが好きだから」
「本気でいってる?」
「今はね」
そう言いながら頬をそっと撫でてくれる。
ああ、気持ちいいな。
今日はもうその手をとらないけど。
「みやちゃん。送りたいんだけど」
「目立つでしょ」
「そっか、うん」
ずっと。
共に居た。
月の夜も星の朝も
最愛の可愛い女の子たちに想いを馳せても
他の誰かと寝ても
みやちゃん。わたしの特別。
「カイちゃん」
「なに?」
「ま、たらしも遊びも、ほどほどにね
あんまり賑わせないで」
「ん」
ありがとみやちゃん。愛してる。
「まったね」
そしていい香りだけ残して
あっさりと背中を向けて
部屋を出ていく。
静かにドアがしまる。
振り返ると窓の外はすっかり、明るい。
さて。と。
走りますか。
全力で進んで行くしかないっしょ。
何があっても。
いつだって愛をくれる
最愛の
アナタのために。