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【miya】
順調。
問題ない。
でも。
つ、かれた……そんな夜もある。
「ル…シェーぇー……」
猫も察してか、寄ってこない。
なんだろう、緊張感が一段落して
疲れが出たのかな。
ちょっとだけ……
そう思って玄関で靴を脱いで。
着替えることもできず
リビングまでも辿り着かず
ずるずると
座り込んで横になる。
うん。5分だけ。一寸だけ目を閉じて休憩。
それから色々、すれば…いい、や…
。
。
【kai】
東京に行くのが……
諸々あって
1日早くなっちゃった。
つまり
あしたの晩の美弥ちゃんとの、約束は
キャンセル、だ。
……しばらく会えない。
会って伝えたい。
1時間、30分でも時間ないかな?
「おつかれ!あとで寄ってもいいかな
葡萄たくさんあるから持ってくね」
午前中に送ったLINEは未読のまま。
おかしいな。
いつもだったら
会わないにしても
「寝るね~」とか
「ちゃんと食べなね~」とか
返ってくる時間なのに。
ふぅ。
でもたたみかけるように
メッセージを送りつけるのは…
したくない。
お互い忙しいんだし。
……テーブルに葡萄だけそっと置いて、
メッセージも置いてこようかな。
せめて手書きで。
なにしろ
暫く会えない。
……あいたい……。
【miya】
ん……なんか
さむいし、背中イタい…かな…。
財政は破綻したままだし…
チフスの流行とか
ほんと、悩みが絶えない。
「……ちゃん、…………!」
あれ?好きな声が聞こえた。
「美弥ちゃんっ!」
ん……
「……カイ、ちゃん……?」
ぎゅっと、安心する腕と香りに
抱き締められた。
「……美弥ちゃん!よかった……倒れてるから
びっくりした。どーした?」
「カ、イちゃん」
「うん?」
「……いいにおい~っ」
仄かな香水と、それから…カイちゃんの香りに
なにもかもほぐれる。
なんだろ、嬉しい。
床から抱き起こされて抱き締められた体勢で
両腕でカイちゃんにしがみつく。
都合のいい夢でもみてるのかな。
それでもいいや。
【kai】
美弥ちゃんの部屋の灯りがついていて
嫌な予感がして
合鍵で美弥ちゃんの、部屋をあけるとき
焦って鍵が開けにくかった。
開けたら…
美弥ちゃんが倒れてて
心臓が止まるかと思って
思わず名前を呼びながら
抱き起こしたら
ふにゃ、って、目を覚まして
すごく、嬉しそうな顔で
だきついてくれた…。
「ね、ねてた…の?」
「ん、ちょっとだけ」
「ふ。顔に跡ついてるよ」
「えっ」
なんだか愛しくて
跡に口づける。
「美弥ちゃん。あのね、あした夜
会えなくなっちゃった。
東京に夜、着かなきゃいけなくて…」
「…」
あ。
あっ。
まさかの…寂しそうな顔。
寝起きの美弥ちゃんは
なんていうか
心が裸。無防備なんだ。
「ん、そっか…」
「それでどうしても会いたくなって」
「うん」
「会いに来た。ちょっとだけ」
もういっかい
しがみついてくる美弥ちゃん。
目が覚めてきた美弥ちゃんの眼差しは
さっきと別人のように強くて。
「ちょっとだけってほんと?」
「…嘘だよ」
手を引かれて寝室に向かう。
よるの始まり。